第1章 第21話 生徒会

 「ちょっとまてよ!」


 俺、海原雄志は人が少なくなった場所まで来て遥の手を振り払った。


 「遥すこし話さそう」


 俺は荒くなった息を落ち着かせるように冷静に話した。

 

 「遥どうしたの?何かあった?」

 

 前を向いたまま遥は振りかえらずなにもしゃべらない。


 「さすがにさっきのは風香に挑発しすぎじゃないか?何かあったなら話してくれ」

 「なんでもない」


 遥はそう短くつぶやいて壁にもたれかかった。


 「俺としては、仲良くしてほしいんだよ。ほんとに」

 「わかってる。でも……女の子が出ただけ」

 「ん?どういうこと?」

 「どういうことだろうね。でも、ごめん。今日のは反省」

 「まあ、俺も強く言いすぎたかも。でも、仲良くしてな」

 「うん」


 今度は二人横に並んで、俺と遥は生徒会室に向かった。


 「失礼します」


 俺と遥が生徒会室に入ると望先輩と副会長がすでに作業をしていた。


 「こんにちは。新見さん、海原君」「お!二人ともおつ~」

 「今日は体験ということでお世話になります。よろしくお願いします」


 生徒会の活動を見学したいと遥に相談したらなら体験入部は?と勧められたからだ。


 「こちらこそよろしくお願いしますね。今日はそうですね、新見さんに同行してはいかかでしょうか?新見さん大丈夫ですか?」

 「はい、私としては問題ありません」

 「よろしく、新見さん」


 俺はすこし生徒会をなめていた。正直生徒会自身何をしているのか知らなかったのも大きいともうが想像以上の仕事量だった。

 まず、各部活の部長たちに夏休みの遠征や合宿の費用や日程を聞きそれをまとめる。

 そのあと、それに必要な書類を作成し部長たちに届ける。

 生徒会室に帰ってからは生徒会広報の学校HPを更新し、各クラスに配布する紙媒体のものを作製する。

 やっとひと段落したと思ったらすでに時計は19時30分を回っていた。生徒の完全下校時間が20時だからそろそろ帰らなければならない。

 毎日遥はこんなことやっているのか。それに、たまに俺の家に来て料理や家事も手伝ってくれる。もし逆の立場になったら俺は同じことができるだろうか。

 出来ない。

 遥のことは大切でもし逆の立場なら俺は生徒会に入らないで遥の家事を手伝う。

 まだ新生徒会が発足して時間がたってないから忙しいのかもしれないけどそれでもだ。

 俺に遥を手伝えることがあるとすればおそらく2つだ。

 1つ目は、俺の家に来なくていいと伝えること。

 だが、多分それは遥を傷つけて裏切ってしまうことになる。最近友達ができたからといっていままでしてくれた恩を仇で返すわけにはいかない。

 それになにより俺が嫌だ。遥の料理を食べられなくなるのももちろん嫌だけどそれ以上に遥との時間が無くなってしまうのが耐えられない。

 家でたった一人で食事するとき、たまに遥と二人でご飯を食べるときとは全然違う。ふと、洗い物をしているときに前をみたらリビングでくつろいでいる遥を見るあの瞬間が俺は好きなんだ。

 だったらもう1つのほうをするしかない。


 「そろそろ皆さん帰りましょう。お疲れ様です」


 そう言って望先輩は教室のカーテンや資料の片づけを始める。

 副会長も食べていたお菓子を片付け始める。

 今しか言うときはない。すこしでも早く遥の手伝いができるようになるためには今日いうべきだ。

 なのに……言ってないか言われたらどうしよう。俺なんかのスペックでこの人たちの手伝いなんてできるのだろうか。

 いつもの陰キャ根暗な海原雄志が出てきた。


 「お前なんかいらない」


 あいつの言葉がよみがえる。俺を暗く、引きこもらせたあいつの言葉が。

 やっぱり俺ではこの人たちの力になんて無理だ。

 

 「ゆ、海原君?」

 

 聞き馴染んだ声が海原雄志を前に向かせる。


 「はるか……」


 何を迷ってんだ俺は。俺を救ってくれた女の子に対して今度は俺が手伝う番だろ。手を差し伸べるとか、救うとかは今の俺ではまだ遥にできないけど幼馴染として手伝うことはできるだろ。

 俺はイケメンで勉強も運動もできる。大丈夫だ。


 「会長、すみません」

 「はい?」

 「俺、生徒会に入ります」

 

 望先輩と遥は目を見開いて、副会長はにやにやとこちらを見る。

 そうだ、理由。理由を言わないと。


 「今日一日だけですが新見さんの仕事、会長や副会長のお仕事もすこし見させていただきました。皆さんさすがの頭脳とスペックだなと思いました。しかしそれでも3人で生徒会活動を円滑にすすめるのはとても大変だと感じ、これから体育祭、文化祭などたくさんの行事がある中すこしでも僕にお手伝いできればいいなと思いました。また、先輩方は僕と新見さんが幼馴染ということをご存じですので言わせていただきます。幼馴染と一緒にいたい、ただそれだけです」

 「そうですか、海原君よろしくお願いします」

 「かいはらっちよろしく!あ、もう仲間ならゆうくんとかダメ?」

 「え、いいですけど……」

 「ならゆうくんも私のこと副会長じゃなくて渚って呼んでね」

 「な、渚先輩」

 「よし!」


 本当に副会長はつかめない人だ。なんにも考えてなさそうだけど多分相当に頭は切れる。


 「な、なら私もそう呼んでいいですか……?」

 「「え!?」」

 

 俺と遥の声が重なる。さすがにこの展開は読めなかった。


 「大丈夫ですけど……」

 「えーじゃあなら親睦を深めるためにみんな下の名前で呼び合おうよ!」

 「いいですね、渚先輩!」

 「お、いーじゃーん。遥ちゃん」

 「えっと、そろそろ帰りましょうか」

 「あ、そうですね。そろそろ時間ですね」


 完全下校時間までもう10分を切っていたので俺たちはすぐに片づけを終わらせて教室を出た。

 先輩たちに続いて遥と俺も校舎から出る。夏とは言え20時が近くなるとさすがに真っ暗だ。


 「きれいな月ですね」

 「きれいですね」


 望先輩と俺が月を見ていると渚先輩が、


 「二人とも月はいいからあれやろうよ」

 「あれですか?」

 「生徒会新メンバーを祝うのとこれから頑張るぞの気持ちを込めて!」

 「いいですね」「私もやりたいです」


 俺はなんのことかわからなかったけど4人で円陣を組むと会長から真ん中に手を伸ばす。


 「新生徒会が学校にとって、生徒にとっていいものになりますように」


 それに続いて渚先輩が会長の手の上に自分の手をそえる。

 

 「たくさん楽しんで活動できますように」


 次に遥が、


 「先輩たちとたくさん思い出を作って楽しめますように」


 やばい、何言おう。俺の番だけど全然決めてない。

 とりあえずなんか言わなきゃ。


 「生徒会の一員としてみんなから認められますように」

 

「「「「えいえい」」」」


「「「「うぉー!」」」」」


 静かな空に俺たち生徒会の声がどこまでも走って行った。

 




 




 


 

 

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