第1章 第18話 青と黒とオレンジと
もうこんな時間か……。
授業が終わり、クラスメートが部活や帰宅する中、俺は教室で勉強していた。
教室に残っているのは俺だけらしい。勉強に集中していて気づかなかった。
教材を片付けて疲れを感じながらゆっくりと歩き出した。
風香とはあれから何事もなかったかのようにしゃべれたし篠原さんたちには生徒会に呼ばれたことすら気づかれなかった。
非常灯にだけ照らされている廊下を見つめながら歩く。
基本昼間は節電で廊下の電気は消えているがそのままになっているらしい。
ガラガラ
廊下から外に出るとまだ空は黒と青が入り混じっている。
19時を回ろうとしているのにまだ運動部の声が遠くから反響している。
ちらほらと自転車を押す人を横目で見ながら校門の坂を上る。
「海原……くん?」
「え、は、はい?」
おれは急に呼ばれて驚きながら振り返ると、そこには生徒会長がいた。
「か、会長、お疲れ様です」
「お疲れ様」
えっと、こんな時なにを話したらいいの?最近仲良くなって話せるようになったと思ってたけど陰キャあるある、仲良くなるとめっちゃ話すを発動していたのか……。
「海原君は今帰りですか?」
「はい」
「何していたんですか?」
「教室で勉強していました」
「そうですか。さすがですね」
「い、いえ。えっと、会長。なんで後輩の俺に敬語使ってくださるんですか?」
「いえ、別に理由はないのですが慣れですかね?いやですか?」
「そういうわけではないんですが……」
「ならできるだけラフに話しますね」
「はい!」
生徒会に誘われてまだどうするか決めてないからちょっと気まずい。入るメリットもデメリットも一応理解しているはずだがまだ判断を出すには早い気がする。
「海原君、今日の件考えていただきましたか?」
「まだ考え中です。すみません」
「いいですよ。ゆっくり決めてください」
「ありがとうございます」
「すこし歩きませんか?」
そういって会長は川のほうに歩きだした。
「海原君はなにか好きなことありますか?」
えっと、これはアニメとかでもいいのかな?いや一応読書にしておこう。嘘じゃないし。
「読書ですね」
「そうなんですね。私も好きですよ」
「あと、空を見るのが好きです。ちょっと変わってますよね」
「私も空は大好きですよ。特に月や星を見るのは」
「俺も月や星が好きです」
「海原君は何かきっかけとかあるんですか?」
「俺はそうですね。星って毎日見てもちょっとづづ違うんですよね。同じ日の時間によっても。だからぼーっと見てると時間を忘れられるので好きです。会長は?」
「私は、小さいとき仲良くしてた子がたまに家から連れ出してくれたんですよね。でも、あえなくなっちゃって。でも空を見ると同じ空を見てるんだって気がしてその子が横にいるみたいに感じられるので好きですね」
長くてきれいな黒髪を夜風に任せながら会長は空を見上げている。
きれいだ。
ただ、単純にきれいだ。
もし俺に絵や写真の才能があったならばこの一瞬を手の中に収めたい。
「海原君、私が君を生徒会に誘った理由すこしお話してもいいですか?」
俺がこくっと頷くとくるりと振り返って会長は続けた。
「今の学校の生徒会選挙で負けた方が去るというシステム、おかしいと思いませんか?」
まったくもってその通りだ。もちろん負けた方からすれば正直気まずいと思うが生徒会長に立候補する人は基本優秀だ。その優秀な人材を失ってしまうこのシステム、いや伝統は正直おかしい。
「私は次の会長に新見さんを推すつもりです。まだ私自身会長になったばかりですが後任のことは早めに考えておかなければなりません。もし新見さんが会長になったとき新見さんを補助するのは誰かと考えました」
「そこで、俺ですか……」
「はい。海原君は成績優秀で人気も高いと聞きました。そして、何より新見さんとは幼馴染ですよね」
「え!?」
なんでそれを知られているんだ?学校では俺と風香が幼馴染となっているはずなんだが。
遥がしゃべった?
いや、それは考えにくい。遥がもし会長に行ったのなら会長が俺を生徒会に誘った時あんなに驚かないはずだ。
ならどうして?
「なぜそれをご存じなんですか?だれにもいってないはずですが」
「なんででしょうか?」
「か、会長?」
会長が触れそうな距離まで近づいて覗き込んでくる。
なんの匂いかわからないけどいいにおいが鼻をかすめる。
ってか近い!いろいろとこの距離はまずいって。
「ふふっ。かわいいですね」
「会長!?」
心臓の音が一気に大きくなる。
絶対いま顔真っ赤じゃん。薄暗くてよかった……。
会長ってイメージないけど意外とお茶目さん?
「からかわないでくださいよ」
「モテてる海原君でも、そんな顔するんですね」
「モテてないですから……」
絶対俺より会長のほうがモテてるし、こんなギャップ出されたら誰でも落ちるじゃん。
「海原君?学校では会長で良いのですが二人の時はそ、その……」
会長は一度空を見上げて俺の顔をまっすぐ見て、
「望と呼んでくれませんか」
さっきまで青と黒が入り混じっていた空は黒く塗りつぶされ、月と星の光がほんのりと朝焼けのような会長を照らしていた。
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