第1章 第17話 俺にはない僕の記憶
生徒会室から戻ると風香たちが机の周りで談笑していた。
「お、遅かったな海原。どこ行ってたんだ?」
「職員室~」
俺はなんとなく嘘をついた。
生徒会に居たことを隠すよりも遥との時間をばれたくない、知られたくなかった。
遥との二人を誰かに邪魔されるのはなんかもやもやする。
「何かしたのか?」
「いや、授業のこととかで相談うけてた」
「え、先生が海原に?」
「うん、授業簡単すぎやしないかとか」
「雄志君理系科目学年1位だもんね……」
「俺たちには程多い世界だなぁ」
「おい、大輝。私も混ぜんな」「俺は混ざってないよね?」
篠原さんと三木君が獅子原君に突っ込みを入れる。
風香もけらけらと笑ってる。いつもの昼休みだ。あこがれだった日常が日常と言えるようになっている。
でも、この日常の中に遥はいない。俺の日常に遥はいるけど俺以外にはいない。
たまに遥のほうを見ると視線が合う。もちろん遥は人気者だ。だから、俺たちのグループに入れようとかは全く思っていない。
だけど俺たちの「日常」には入ってほしい。単なる俺のわがままかもしれないけどやっぱり遥と青春とまではいかなくても高校生活を送りたい。
獅子原君たちのじゃれあいが収まって予鈴が鳴ると一気にロッカーにみんなが集まる。風香と俺の周りにだれもいなくなった。
生徒会室に行ったことを風香だけには伝えてある。
だからだろう、すごく心配そうな目でおれを見つめてきて、
「大丈夫だった……?」
「うん。大丈夫だったよ」
「えっと、理由とか聞いてもいい?」
「ここでは難しいかも」
「じゃあ、夜時間ある?」
「え?うんあるけど?」
「つ、通話とか……」
「うん、大丈夫だよ」
「ほ、本当!?やった!」
顔の前でガッツポーズをした後、風香もロッカーに行った。
「ずいぶん、仲良くなったんだ」
「遥」
「ぼっちだった雄志がねぇ」
「悪いか」
「ちょっと寂しいかも」
「え?」
「うそだよーん」
そう言って遥は自分の席に戻っていく。
そういえばラノベで読んだことある、こういう時女の子は嫉妬するって。
でも遥って嫉妬する?あの遥だよ?
でもこの時「嫉妬してる?」って聞いたらラノベで読んだ主人公殴られてたなぁ。
「雄志くん準備しなくていいの?」
「あ、えっと次の授業何だっけ?」
「もう!雄志君そういうところあるよね」
「ごめんって~。で、なんだっけ?」
「現代文だよ」
「寝ます」
「もう!」
世界一かわいい「もう」いただきました。
これで次の時間は安眠です。お腹もいっぱいなのでおやすみなさい。
ここは……?またいつの日か見た夢の続きだろうか。
あの時のように白い靄がかかって前が見えにくい。
「――ちゃん!こっちこっち」
「ゆうくんまって、あんまり遠くに行ったら……」
「大丈夫!手つないどく?」
「うん」
またあの時の小さいときの俺が女の子を連れ出している。女の子の顔にはやっぱり白い靄がかかってあまりよく見えない。
「ゆうくん、今日はどこ行くの?」
「今日はうーん、駄菓子屋?」
「駄菓子屋さん?お菓子なら家でも……」
「ふふーん、わかってないな!夏の暑い日に駄菓子屋の売っているアイスは格別なんだよ」
「ほ、ほんとに?」
「ほんと!よし。いくぞ!」
そう言って小さい俺が女の子の手を引っ張っていっている。
今の俺にもこんな勢いがあればいいんだけどね。
場面が変わって駄菓子屋の前で二人がアイスを食べている。
「おいしい!」
「だろ?」
小さい俺はソーダのアイス、女の子はバニラだろうかぺろぺろとなめている。
二人ともアイスを一口ずつ交換してパクパクと食べ進める。
「ねえ、ゆうくん」
「なんだ?」
「足、大丈夫?」
え?なんでそのことを知っているだ?夢だとしても納得ができない。
「うん。大丈夫だよ」
「しんどくなったらいってね。私心配」
「ありがと」
小さい俺は別に気にしたようにはしていない。
だって、あれが起きたのはもう少し後なのだから。
もしかして、あの事の前に本当に俺はこの子と遊んでいたのか?
くそっ!
なんとか昔を思い出そうとしても思い出せない。
思い出すのはあいつの顔。思い出したくないはずなのに。
仲良くしていた、もしかしたら好きだったかもしれない子の顔も名前さえも思い出せないなんて。
「――くん、雄志君」
遠くから俺を誰かが呼んでいる。
俺がゆっくりと目を開けると風香が俺を覗き込んでいた。
「わりぃ、寝てたわ」
俺はいつもと同じように振る舞う。
だがなぜか風香はあたふたしている。
「えっと、もしよかったら……」
ハンカチ……?
いや、その前に……え?
頬を何かが滑った後口からすこししょっぱい味がした。
まさか俺……泣いてる?
「ごめん、ありがと」
風香のハンカチを受け取って急いでふき取った。
高校生にもなって人前で泣くなんてはずかしすぎる。いくらつらいことでもさすがに恥ずかしい。
風香もたぶん理由が気になっているのだろう。
でもどうしたらいいかわからないのだろうからか、あたふたしながら、
「も、もしよかったら私のでよかったらいつでも貸すからね」
と言って教室を飛び出していった。
眩しい空から俺は目を逸らすようにぎゅっと目を閉じた
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