第1章 第14話 友達

 ジリジリ ジリジリ

 んんっー

 まだ寝たいのに朝日が私、新見遥に朝を与える。

 昨日夜、雄志と話したあと寝落ちしたんだっけ?おやすみって言った後恥ずかしくなって布団に隠れちゃって寝ちゃったんだ。

 机に置いてある薄いピンクの丸い置き型時計を見るといつもより針が進んでいる。


 「おはよう」


 私は伸びをしながら誰もいない部屋でぼそっとつぶやく。

 

 「おはよう、遥。よく寝れた?」


 ふぇ?えっと、何か聞こえた??何か聞こえたよね。


 「遥?あれ、まだ寝てるのかな?」


 スマホがしゃべっている。いや、そんなわけないしまさか……


 「ゆ、雄志?えっと、おはよう?」

 「あ、やっぱ起きてた~。おはよう」

 「ごめん、まだ寝起きなのか整理できてなくて状況把握できてないんだけど」

 「あーそうだよね、俺も起きたときはびっくりしたよ。昨日寝る前通話したじゃん?あの後お互い切るの忘れたらしくてさそのまま寝落ちしたらしい」


 ま、まさかの寝落ち通話!?あの、友達がよく彼氏としてるってやつ?インスタの小さい文字で(今日彼氏と寝落ち通話した)とか書いてあるやつ?

 え、まって。寝言とか言ってないよね?いびきとかかいてたらマジで死んじゃう!

 バクバク、バクバク

 うるさい心臓に酸素を回すために大きく息を吸って何とかいつもの新見遥を取り戻す。


 「ご、ごめんね。切ってくれてもよかったのに」

 「ううん。朝起きたとき一人だと寂しいし、ありがとう」

 

 朝起きたとき誰もいないって多分家族がいることが当たり前になっている私にはわかろうと努力してもたぶん分かりきれない。

 朝、雄志の家にお邪魔するとき、カギを開けると音がない。家にあるはずの音がない。

 お母さんの朝ごはんを作る音やお父さんの仕事の準備の音そんな音が一切しない。

 たまに両親が出かけて私一人の時もあるけど帰ってくる人がいるときの一人と誰も帰ってくる人がいない独りは全然違う。


「たまにでよかったら夜、付き合うよ」


 私はすこしかっこつけた。かっこつけたかった。

 感傷に浸るには早すぎる時間だけど今の私のはそんなの関係ない。だって、雄志のそばに居たいから。

 松原さんとのことも気になるし、もちろん嫉妬してないかって言われたら嘘になる。昨日話を聞いたときはすごくもやもやしてちょっと泣きそうになった。でも、それでも雄志が私のそばに居てくれる間は私も雄志のそばにいる。


「うん、ありがと。じゃあ、お互い起きたし学校でね」

「うん。学校で」


 ポロン

 通話の切れる音が部屋に響く。

 もうちょっとつないでおきたかったけど私も準備しなきゃだし仕方ない。

 まだすこしまぶしく感じるスマホを見ながらトーク画面を開く。

 会長……?

 グループNineではなくて個人チャットで会長から連絡が来ている。

 お嬢様のような会長とはすこしギャップのあるかわいい猫のアイコンをタップする。


(おはようございます。朝早くにすみません。新見さん、本日お話したことがあるのでお昼か放課後、生徒会室に来てくれませんか?もし都合がつけば海原君と一緒に)


 雄志?会長が雄志に用事ってなにがあるんだろう。二人ともちゃんと喋ったのは前に私が倒れた時の保健室が初めてだろうし。


(おはようございます。了解です。後ほど雄志に聞いて再度連絡します)


 送信っと。

 雄志には学校で聞けばいっか。


 ――――――――――――


 「か、海原君!えっと、これうけとってください!」

 「え、あ、そ、その……」


 俺、海原雄志は今絶賛持ち前の陰キャ発動中である。すごくかわいい多分先輩?からなにかを渡されてるけど、何を言えばいいのかわからない。

 夏のせいなのかどんどん体が熱くなってきた。

 えっと、えっと、どうすればいいの?もらったとしてもなにをすればいいの?


 「ご、ごめんなさい!!」


 俺は真夏の暑い空の下全力疾走で逃げた。



 はぁはぁはぁ

 まだあれている息を落ち着かせながら教室にゆっくりと入る。


 「お、おはよ。雄志君」「うぃーす、海原」「海原君、おはよう」


 風香、篠原さん、三木君が俺に気がついてくれた。


 「みんな、おはよ」

 「海原、教室からさっきの見てたぞ。モテるって大変だな。さすがイケメンって言われてるだけはある」

 「篠原さんやめてよ、そんなんじゃないって。ってか篠原さんのほうがモテるでしょ」


 篠原さんはこの学校でも知らない人はいないぐらいの美少女だ。遥や風香と並んでも全く遜色ないぐらいにスタイルも抜群だ。


 「モテねーよ。こんながさつ女、男子は嫌いだろ」


 まあ、確かに篠原さんは言葉はすこし荒いけどまったくがさつとかじゃない。


 「嫌いじゃないよ、紗季」

 「そういってくれるのは良太だけだぜ~。さすが親友」

 「親友だから」

 「まあ、その点松原さんは男子どもから人気あるだろうなぁ。あと新見さんも」

 「えっ?わ、わたし?わたしなんて……」


 風香の顔がみるみる赤くなっている。

 かわいい、さすがにかわいい。

 実際風香と遥は男子から人気あるだろうな、俺友達いないから聞けないけど。


 「そういえば、獅子原君は?」


 赤くなってあたふたしている風香のために話題を変える。


 「大輝はバスケの朝練」


 そうか、獅子原君はバスケ部のエースとか聞いたことがある気がする。絶対陽キャだ。

 

 「そっか、そっか。え、篠原さんって部活してないの?運動部入ってそうだけど」

 「えっと……。今は入ってないよ。ってか私の体みて判断しただろ?海原も男子高校生だなぁ」

 「ち、ちがうちがう!そんな目で見てないって!」

 「雄志君のえっち」

 「風香!?」

 「海原くん?紗季をそんな目で見てないよね?」

 「誓ってみてない!三木君そんな怖い目で見ないで!」


 そりゃあ、まあ?篠原さんスタイル良くてそ、そも制服越しにでも凹凸がわかるけどそんな目で居たことなんてない!はず、たぶん、絶対。


 「ぷはっ」

 「「「あはははっ」」」

 

 風香の噴き出した笑いに続いてほかのみんなも一斉に噴き出して笑う。


 「よーっす、お前ら。そんな笑ってどうしたん?」


 獅子原君がタオルをクビにかけながら輪に入ってきた。


 「あ、大輝部活おつかれー。いや、海原が変態だって話」

 「い、いや、違うからね?話省きすぎだからね?」

 「安心しろ、海原。男子高校生なんてみんな変態だ」

 「それフォローになってなくない?」


 今度は獅子原君も加えてみんな笑っている。


 「あ、そうだそうだ、海原と松原さんにお誘いなんだけどさ?」

 「うん?」

 「良太、大輝、私で今度の夏まつり行くんだけど一緒に行かね?」

 「え、えっと私も?」

 「もちろん、松原さんがよければ行こう?」

 「え、えっと、雄志君は?」

 「ごめん、俺はちょっと難しい」


 先に遥に誘われたのでそっちを優先するのが当たり前だ。でも、風香の浴衣姿とか見てみたいな……。


 「そっかぁ、松原さんは?」

 「私は用事ないし行ってもいいかな?」

 「もちろんいいよ!」

 「なーに浮かれてんだよ、大輝」

 「いや、松原さんと一緒に一緒に行けるんだから喜ぶだろ。なんで良太は真顔なんだよ」

 「いや、もちろんうれしいぞ。顔に出てないだけだ」

 「おまえら、いつも私だけで悪かったな!」

 「「ごめんって!」」


 楽しい。すこし前までの俺には、こんな光景想像できなかっただろう。

 

 「ゆ、雄志君」

 

 耳元で小さく風香が続ける。


 「次は、一緒に行きたい……です」


 視界に少しだけ入っている風香の耳が真っ赤になっている。それだけで俺には十分すぎるぐらい刺激が強い。


 「う、うん。行こうね」


 朝のせわしく動く教室の中で風香の声は俺の中をぐるぐると回り続けた。



 


 

 

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