第1章 第15話 「生徒会に入りませんか?」
ミンミン――
開いている扉からセミの音がズンズンと大きな態度で入ってくる。
今日は昨日よりさらに暑い。夏至から1か月近く立っているのにジリジリと照り付ける太陽は下がることを知らないようにさえ思う。
一歩一歩と歩くだけで冷房の効いていない廊下に体力が奪われていく。
ただトイレに行って帰るだけのはずがこんなに疲れるものだろうか。次の授業は爆睡確定だな。
ガラガラ――
俺、海原雄志が教室のドアをゆっくりと開けるとガラス越しの太陽の光が目を覆う。
「海原君、ちょっといい?」
俺の幼馴染、学校ではただの友達ということにしている新見遥がおれにトコトコと駆け寄ってきた。
「うん」
遥の背中を追いながらもう一度教室を出る。暑い、気温も視線も。
ほとんど人がいない階段の近くまで来たところでヒラリと遥がこちらに振り返る。
「雄志、ドキドキした?」
「は?」
小悪魔のような笑顔とかがむとすこし見えそうなカッターシャツが俺の思考を停止させる。
うん、もうちょっとかがんで胸元の開いているところをクイっとやってくれない?
「雄志~、どこ見てんの?」
「見せつけられてんだよ」
「うれしいくせに」
「今夜のおかずは決まった」
「言うようになったね、陰キャくん」
「はいはい。で、何の用?」
「今日の昼休み暇でしょ?」
「決定事項で言うな」
「生徒会室に来て。会長と副会長がお待ち」
「は?なんで?俺ほとんど話したことねーよ」
「私も理由は知らない。けど私も一緒に行くし」
「そっか、ありがと。でもさ……」
「ん?」
グリグリ
「イタイイタイ、雄志グリグリやめて~」
「その要件なら教室でもNineでも言えたよね?わざわざあんな呼び方しなくてもよかったんじゃない?」
「ごめんごめん!ごめんなさい!今度何でもするから~」
「へ~?何でもするんだ、女子高生がねぇ。頼んだよ」
「ふぇ!?い、いや、そ、その……」
「何を想像しているのかな遥さん?俺の好きなハンバーグ作ってね」
「ぐう。はめられた。今度作りますよ、ちゃんと」
「おう、そろそろ教室もどろーぜ」
「うん。あと、さっきの痛くなかった。ありがと……」
「ん?なんか言ったか?」
「何でもない!先帰っとくね」
ったく聞こえてるつーの。女の子に痛くするわけねーだろ。
教室び戻ると先に帰ったはずの遥はいなかった。
「おー海原戻ってきたか~」
「ただいま」
「海原はモテるなぁ」
「そんなんじゃないよ、獅子原君。少し用事があったんだ」
「ふーん。まあ、俺は松原さんとたくさん話せられたからいいけど」
「獅子原君!?」
風香が目を見開いて恥ずかしそうにもじもじとしている。風香ならいろんな男子に言い寄られるだろうに。
「大輝あんま松原さんをいじるなよ。あと、そろそろ授業始まんぞ」
「おう」
獅子原君が三木君と篠原さんのもとにもどっていく。気まずいのか風香はまだ下を向いてもじもじとしている。
「ゆ、雄志くん」
「ん?どした?」
「新見さんと何お話してたの?」
顔はまだ下を向けたままで窓に近いからか耳が赤くなっている気がする。
「生徒会に呼び出されちって。なにも呼び出されることはしていないんだけどなぁ」
「そ、そうなんだ。なんだろうね」
「ねえ、風香」
風香はゆっくりと顔を上げてすこし上目遣いの様な顔で俺を見上げる。
「今日、一緒に昼飯食べようか」
「え、う、うん!」
高校生になって初めて誰かとお昼ご飯を食べる。たぶんほとんどの人から見れば当たり前でなにも特別なことじゃない。
でも、その普通が俺にとって特別なんだ。特別で憧れていたんだ。たまたま一人で食べるのとずっと一人で食べるのはまったく違う。
4限目の授業が始まりすこしずつ楽しみを緊張が押してくる。
えっと、どのぐらいのスピードで食べればいいんだ?だって早く食べ過ぎても浮いちゃうよね。今日のお昼何だっけ?パンだったよな。今日お弁当にすればよかったかも……。
キーンコーンカーンコーン
考えていたらいつの間にか眠っていたのかすでに授業は終わっている。
ざわざわとした教室からいつもなら一目散に逃げるが今日は逃げない。逃げる必要がないのだから。
「海原、一緒にくおーぜ」
「獅子原君……」
「紗季も良太もすぐ来るから先食ってよーぜ」
「う、うん」
松原さんと獅子原君が自分の弁当箱を開ける。すごく綺麗お弁当だ。お母さんが朝早くに起きて作ったのだろう。獅子原君のなんて松原さんの量の2倍いや、3倍はあるんじゃないのか?
俺も自分のパンを取り出して手を合わせて、
「「「いただきます」」」
パンの袋を開けてかぶりつく。
「海原そんだけで足りるのか?」
「んーまあ大丈夫だよ。獅子原君はすごい量だね」
「おう!部活してるこんぐらいないとダメなんだよ。部活前後のおにぎりとパンもあるぜ」
「た、炭水化物」
風香は獅子原君の大きい弁当をみてくつくつと笑いながら、
「獅子原君さすが運動部だね。雄志君はいつもパンなの?」
「んー結構パンかも。あとはおにぎりかお弁当」
「そうなんだ」
弁当は遥がたまに作ってくれる。うまいし結構楽しみだったりする。
「ん?海原、親御さん忙しのか?」
「あぁ獅子原君たちには言ってなかったか。ほぼ一人暮らしなんだ」
「え?」
「母親は仕事が忙しくてな」
「そうか……。ならこんど遊びに行ってもいいか?」
「え?まあ、いいけど?」
「紗季たちも誘っていい?」
「あぁ」
小さな声で、
「わ、わたしも……」
と恥ずかしそうに言った風香に笑顔をさかせて獅子原くんが、
「松原さんももちろんいこーぜ。いいよな?海原」
「お、おう」
こういうところが獅子原君の人気なるところなんだろうなぁ。おれもこんな男になれれば幼馴染の男の子から昇格できるんだろうけど、俺にはちょっと難しいや。
返ってきた篠原さんと三木君もこっちに来てお弁当を広げる。さっきまでの会話を獅子原君が二人に伝えて二人とも頷いている。
いつもよりゆっくりとご飯を食べながらざわざわとした声に耳を傾ける。
あ、そろそろ時間だ。生徒会室に行かなければ。
「ごめん、ちょっと用事があるからごちそうさま」
「あ、う、うん」
事情を知っている風香はすこし反応に戸惑っているが、
「おう!いってらっしゃい」
ほかのみんなは笑顔でバイバイと手を振ってくれている。
俺はすこし急ぎ目に教室をでて生徒会室に向かう。くそ暑い夏を走るのは一瞬で汗が噴き出してので早歩きで許しもらおう。
「悪い待たせた」
短いスカートから綺麗な足見えていつも気にしないようにしているはずなのに心臓の音が大きく聞こえる。やっぱり遥は綺麗だ。そしてかわいい。
「ううん。私も今来たところいこっか」
ガラガラ――
ゆっくりと開けた部屋に電気はついておらずまぶしい外の光が部屋を薄暗くしている。
「新見さん、海原君こんにちは」
会長の椅子に座っている女の子、いや女性が椅子に手招きをする。
「生徒会長の宮前望です」
きれいな黒髪とその口調がどこかのお嬢様を連想させる。大人っぽさのなかにすこしあどけない感じが残っているとてもきれいな人だ。
「副会長の鈴峰渚だよ~。よろっ!」
ノリがいいというか俺の苦手なギャルだ。でも前話したときこの人悪い人ではなさそうだったんだよな。
「まあまあ、二人とも座りなよ」
俺と遥は副会長の反対側の椅子に座る。
「えっと、今回はどのような用件でしょうか?」
遥ナイス!
「そうですね、単刀直入に言わせてもらいます」
人通りが少ないからか会長が取った一瞬の間で静寂が生徒会室を包み込む。
数秒静寂の中でじっとした後、自分で作った静けさを切り開くようにゆっくりと短く俺の顔をみてこう伝えた。
「海原雄志君、生徒会に入りませんか?」
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