第1章 第8話 笑顔の夕日と夜の色


 「海原君!新見さんとお友達って本当なの?」


 教室に戻った俺、海原雄志はクラスの女子に囲まれていた。


 「あ、あぁ昔からの付き合いかな」

 「え、そうなんだ!でも学校では全然話してなかったよね?」


 うっ痛いとこ突かれたな。俺と遥は幼馴染だが俺が人の前でしゃべるのが苦手なのと遥は人気があるからしゃべりにくかっただけなんだかが。どう切り抜けようか。


 「まあ、わざわざ話す必要なかったし新見さん人気あるしね……」

 「まぁ新見さんかわいいもんねー。でも海原君もめっちゃかっこいいよ!」

 「あー花音、海原君と話しててずるーい」

 「凛もこっちきて話す?」

 「うわっ、いまのちょっとうざー」


 これが陽キャのノリですか。いますぐにも逃げたいです。

 そういえば、遥がいないな。まだ保健室か?


 「海原君?」

 

 凛と呼ばれた子があざとすぎるぐらいの目で俺を見上げている。


 「あぁごめん。新見さんはどこかな。迷惑かけたしもう一度謝っておきたくて」

 「えっと、花音わかる?」

 「んーごめんわかんない!そんなことより今日の放課後あいてる?」

 「き、今日?えーっと」


 マジどうしよう。今日すきなアイドルの生写真の販売があるから帰らないといけないけどそのままいうわけにもいかないし……。濁せばいっか。


 「ごめん!今日はどうしても用事があってごめんね」

 「そーなんだー。それは仕方ないね。またこんど遊ばない?」

 「うん。またさそってね」


 はぁはぁはぁ……。

 え、陽キャ怖くね?無理だよ?急に話に来るの無理なんだけど。

 遥に一応Nine送っとくか。


(遥、いま保健室?)

(うん、保健室。心配かけてごめんね)

(返信はやいな。見つかんなよ)

(雄志こそ。ってか教室でなんか言われなかった?)

(まあ適当に流したよ。今日一緒に帰らない?)


 すこしの間があってスマホが揺れる。

 

(うん。でも私と返っていいの?)

(え、だめなの?)

(雄志がいいならいいよ)


 そりゃまあ、遥人気あるけどさすがに心配だし一人で帰らせれねーだろ。

 というかまだ風香は帰ってこないのかな?

 風香すこしいつもと雰囲気違ったし心配だな。

 いや、その前に俺やるべきことあるだろ。

 ガラガラ

 教室のドアが開いて教室中の男子がドアにくぎ付けになっている。

 スタスタと歩いて一瞬顔を曇らせた後席に座る。

 

「おかえり、風香」

「ただいま、海原君」

「もしよかったら……」


 俺はドキドキしている心臓を抑えながら大きく深呼吸して、


「Nineやってたら交換しない?」


 すこし驚いたあとうん!と笑顔で言ってくれた君から目をそらしてしまう。


「海原君、アイコンの写真なに?」

「あぁこれ?これは昔よく遊んでくれてた子がくれた花の写真だよ」

「そっかそっか。海原くんお花好きなの?」

「いや、全然」

「えぇ?そんなはっきり言わなくても」

「ご、ごめん。あんまり興味がないってだけで嫌いとかじゃないんだけど」

「ごめん、からかっただけだよ。そろそろ次の授業も始まるから準備しよっか」


 そういって風香はロッカーに向かう。

 俺も準備するか。次の授業は日本史だから俺もロッカーにあったはずだ。

 あれ?

 いつもロッカーに入れてる教科書がない。日本史なんて家に絶対持って帰らないのに。

 もしかしたら前に持って帰ったのかもしれないし家探してみるか。



 「帰ろっか」

 

 俺は放課後になってすぐ遥のとこに迎えに行った。


 「夢みたいだね、雄志」

 「まさか学校で遥と一緒にいるとはな」

 

 野球部の練習する声がグラウンドに響いている。

 周りには誰もいない。俺と遥の放課後。

 ミンミンとなく声が俺たちの距離をすこし遠ざける。

 何から話せばいいんだ?

 いきなり風香のこといきなり話していいのかな。


 「今日どうして助けてくれたの?」


 前を向いていつもより落ち着いた声が聞こえる。


 「遥だからかな」

 「そっか」

 「う、うん」


 なんで助けたって言われても遥だしそりゃ助けるだろ、当たり前に。


 「そっか、そっかー」


 外では珍しくニコニコしながらスキップでスカートをひらひらさせている。


 「おい、遥。危ないぞ」

 「ん?何が?」

 「い、いやなんでもない」


 そういったあとにやっとわらって、

 

 「雄志も男子高校生だねっ」

 

 と言いながら、すこしかがんだ君が夕日に照らされる。

 君をつつんだ夕日の赤は僕にはすこしまぶしく感じる。


 「ねえ、雄志?」

 「なんだ?」

 「夏祭りの日、あいてる?」


 夏祭りというのはここらへんで7月の下旬にある出店がメインの祭りだ。ちなみに8月の中旬には花火大会もある。



 「あいてるけど」

 「ならさ、私といかない?」

 「え?二人で?」

 「うん」


 遥はクラスいや学校の人気者だ。1軍女子ではあるが誰にでもやさしくておそらくお姫様の中で一番人気がある。だからこそ、夏祭りなんて比喩ではなく数十、数百と誘われているはずだ。

 なのに俺といってもいいのか?


 「俺はもちろんいいけど遥は?いいのか」

 「大丈夫だよ、雄志なら」

 「そっか、なら行こう。楽しみだな」

 「楽しみだね。あ、あと1つ質問いい?」

 「うん」

 「何色が好き?」

 「は?」

 「だーかーら何色が好き?」

 「ピンクか紫とかかなぁ」

 「はーい。ありがと」


 俺の横を歩く君はいつもよりすこし大股であるきながらいつもより上機嫌に感じる。

 夏服ですこしあいている場所に光が入って大人っぽく見える。

 やっぱ遥スタイルいいな。顔もほかのいろんなところも。

 いつもより大人っぽく感じるはずなのになんでかいつもより近く感じる。

 俺のすこし前で似てもう一度ニコっとわらった君に俺はドキッとした。


 遥に夏祭り誘われたことで風香のことを忘れてしまっていた。

 俺がそれに気づいたのは家に帰ってからだった。

 

 ――――――――――――

 「海原雄志……くん。やっぱり君は……」

 ――――――――――――

 ガチャン

 私は玄関のドアに体重を預けてため息が漏れる。


「雄志君……」


 君の言葉に甘えたいよ……。

 暗い夜が閉めたはずの玄関から忍び入っていた。




 

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