第1章 第7話 光と影

 どうすっかなぁ。

 俺、海原雄志は正直困っていた。

 風香とのことは幼馴染として通したけど遥は友達って言ってもなぁ。これまで全く話さなかったのおかしいもんな。


 「ねえねえ、朝の見た?海原君、新見さんと仲いいのかな?」

 「いや、あれ見たけど仲いいってより……」

 「え、まさか海原君と新見さんって付き合ってるの?」

 「い、いやわかんないよ?でもただの友達って感じじゃなかったよ」


 こんな会話があたりからずっと聞こえてくる。

 そんな気になるなら話しかけて来いよ!まぁ話しかけられたらきょどって逃げるけどさ。

 教室の前で1回深呼吸してドアをあける。


 「海原くん!」

 

 ドアを開けた瞬間子犬用に風香が駆け寄ってきた。


 「ふ、風香?えっとどしたの?」


 まってまってめっちゃ注目されてるしそれより風香なに!?

 めっちゃいいにおいするんですが?

 え、今日俺と走ったよね?汗かかないの?女の子の汗ってこんな甘い香りなの?

 あと、風香近い!くっついてはないけど近いですよ?

 周りの男子から殺気感じるしほんと今日僕死んじゃいますよ?


 「飛び出して行っちゃったから……」

 「ごめん、新見さんが倒れったって聞いてさそれで」

 「新見さん?海原君のお友達?」


 きれいな黒髪をなびかせながら上目づかいで聞いてくる。

 こりゃ普通の男子ならイチコロだわ。


 「うん、そうだよ」


 ここで遥との仲を詳しく言えば幼馴染設定の風香との関係が疑われるから言えない。

 風香の顔にぐっと近づけると近くの女子たちからきゃあという声が耳を突き刺す。

 

 「か、海原君!?」

 「ごめん、ほかの人に聞かれたくないから後で二人で話せない?」

 「ふぇ?」


 ふぇ?

 いや、こっちがふぇ?ですが。

 ふと視線を落とすと風香の耳が赤くなっている。

 あぁ耳弱い人だったか。


 「ごめん。調子乗りすぎた」

 「え、い、いやちがうちがう!わかったよ、お昼で良い?」

 「うん。今日あさ逃げたところ来てね」


 

 俺は4時間目が終わり、いつもの場所に向かう。

 風香にはご飯を食べてからでいいって伝えてあるとりあえず飯だ。

 

 「なあ、海原のやつきいたか?」


 俺はだれもいないはずのいつもの昼食場所、いやトイレから自分の名前が聞こえてさっと身を隠す。


 「新見さんと松原さんだっけ、あのかわいい子のやつだろ?」

 「うん。いままで誰とも話してなかったのに急だよな」

 「噂、本当なんかな」

 「かもな」


 噂……?なんだそれ。

 俺が知らない間になにか噂が広がったらしい。俺だけならいいんだが。


 「お姫様もイケメンには優しいってわけか」

 「いや、新見さんは俺たちにも優しいだろ」

 「そうだったわ。篠原とは違うな」

 「たしかに。というか、早く食堂行かないと席なくなるぞ」

 「おっと、そうやな」


 篠原さん?しゃっべたことないが強気な人らしいが何かあるのだろうか。

 いや、いまはそんなことよりも噂がなんなのか気になる。

 こいうとき遥にききたいけどもし遥にも関係があったらまずいから聞けないしな。

 男子二人組が出て行っていつもの場所に入る。

 今日はコンビニで買った昼ご飯だ。

 別にコンビニのご飯もおいしいけどやっぱり手作りの弁当とは全然違う。

 朝起きたとき遥が家に居てご飯を作ってくれる、幸せ以外何物でもない。

 でも幸せだからこそ今の関係が崩れてしまうのが怖い。

 はぁとため息をつきながら食べたゴミをまとめてその場を去った。


 「おそいな……」

 

 風香と約束した時間から10分以上過ぎている。何かあったのだろうか。

 いや、先生につかまってる可能性もあるしなんともいえないか。


 「ごめーん!」


 スカートをひらひらさせながら風香が手を振ってこっちに走ってきている。

 その短さで走ったら見えそうですがみてもいいんですか、ありがとうございます。


 「おくれてごめんね、海原君」

 「い、いや全然大丈夫」


 すこし汗が額ににじんでるが風が吹くたびにめっちゃいいにおいする。

 やっぱ女の子の汗っていい匂いなの?


 「なんかあった?」

 

 俺がそう聞くと風香は一瞬ビクッと目を見開いた後笑顔に戻って、


 「なんでもないよー、ごめんね。で、話って?」

 「新見さん、いや遥のことなんだけど」

 「うん」

 「遥とおれは幼馴染なんだ」

 「えっ!?」

 「いままで学校では話してこなかったのは遥に迷惑かけそうだからなんだ」


 俺が陰キャ過ぎることはだまっとく、一応。


 「そ、そうなんだ。たしかに新見さんと海原君が幼馴染って知ったらみんなおおさわぎだもんね」

 「遥に迷惑かけちゃうしね。でも、今日のことで隠すわけにもいかなくなったから一応友達ってことにしたんだけど風香には言っとこうかなって」

 「そっか、ありがとう」


 夏の蒸し暑い風が体にまとわりついてくる。

 やっぱり嫌な感じだ。


 「ねえ、風香」

 「どしたの、海原君」

 「大丈夫?」

 

 すこし強い風が俺たちの間を通り過ぎる。

 ミンミンと夏の音が俺たち以外の音を消してしまっているように感じる。


 「大丈夫だよ」


 君は、俺の目の前の女の子は、いつにもまして輝く笑顔で俺に言った。

 

 

 


 

 

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