第1章 第6話 優しい君

 「……るか!」

 

 どこか遠くから何かが聞こえる。

 なんだろう?いやここは……?

 ゆっくりと目を開けると知らない、いやどこかで見たことのある天井が視界に入ってくる。


 「遥、よかった……」

 

 声がする方向を向くとを嗅いだことのないベッドのにおいが鼻をくすぐる。

 辺りをみまわすと数回見覚えがある景色を思い出す。

 かすかなシップのようなにおいとお花のような匂いがする。

 

 「えっと、雄志?ごめんなんで私保健室に?」

 「廊下で急に遥が倒れたって。それで保健室まで連れてきたよ。」


 雄志の話を聞いているうちになんとなく思い出してきた。

 雄志が私以外の幼馴染がいるって聞いてパニックになっちゃったんだ。

 私何やってんだろ……。雄志にも迷惑かけたし。

 でも松原さんと雄志が幼馴染?どういうこと?

 また君は私の横にいるしほんとにどいうこと?

 私の中をもやもやのようなものが埋め尽くしていく。

 でもまずは助けてくれたお礼言わないとだよね。

 ん?というかこの時間って……。

 

 「ねえ、雄志」

 「ん?どした?」

 「授業は?」

 「あーいまやってるよ。数学だっけ」

 「で、なんでここに居る?」

 「遥が心配だったから」


 もう!先生もいるし授業なら教室戻ってくれてよかったのにさあ。

 確かに雄志がそれで勉強遅れるとかは思わないけどさ?

 でもやっぱ迷惑かけちゃうじゃん。

 っていうかこいつさぼりたかっただけじゃない?いつも授業中寝てるし。


 「ねえ、雄志?」


 私はクラスメイトとしゃべる時の笑顔を作って話す。


 「えっと、どうしましたか遥さん?笑顔をが怖いですよ?」

 「授業さぼりたかっただけですよね?」

 「ソンナコトナイヨ」


 明らかな棒読みでぷぷっと笑いがこぼれてしまった。

 

 「今なら怒りませんよ?」

 「えっとちょっとだけ……?」

 「お仕置きが必要だね」

 「ええ、怒らないって言ったじゃん」


 雄志のおでこにデコピンをしようとしたけどひょいっとかわされる。

 雄志は、そのまま椅子から立ち上がってベッドの周りをかこんでたカーテンをあけた。

 うわっ、まぶし。

 急に入り込んできた光に目を細める。

 

 「1限もうちょいで終わりそうだし水買ってくる。先生ちょうどさっきでていったし」

 「うん。ありがとね」

 「ねえ、雄志」


 なんだ?と言いながら君の振り向いた顔にすこし驚きながら私は続ける。

 

 「ありがとね」

 

 「おう」とすこし照れくさそうに頭を掻きながら君が出ていく。

 コツンコツンと君の足音が小さくなって、ふぅと口から息が漏れる。

 いつも学校では全然話さないのにこんな時はちゃんと助けてくれるのヒーローじゃん……。

 でも君の横にいた女の子かわいかったなぁ。

 松原さんって聞いたけどいつもと雰囲気がちがったし雄志とも仲がよさそうだったよね。

 雄志のことだからなにか事情があるんだろうけど……。

 それでも……。

 君の横には誰がいるんだろう。

 体の中にまたもやもやが広がっていく。

 まだ朝なのに夜が来たような気がする。


 「雄志の前だったら強がれたのになぁ」

 

 小さな声がよく耳に残った。

 ――――――――――――――

 バタン

 俺、海原雄志はドアを閉めてはぁとため息をついた。

 風香との関係をやっと説明して落ち着いたと思ったのになぁ。

 俺は遥と幼馴染っていうのを言っても別にいい。

 けど、たぶん遥が困る。

 遥が困るのは嫌だしそれこそ幼馴染として許せない。

 っていうか信じてもらえるか?遥とも風香とも幼馴染なんて。

 しかも遥に風香のこと説明しなきゃいけないしなんて説明すれば?

 ありのままを説明して信じてもらえるだろうか。

 さっきは優しさで多分聞かれなかっしこっちが言い出すのを待っているはずだ。

 保健室のある校舎から出るとミンミンとセミの鳴き声が耳に突き刺さる。

 授業中だからか誰も視界に入らない。 世界に取り残されたような気さえする。

 ゆっくりと過ぎていくような時間を感じながら水を買って保健室に戻る。

 

 キーンコーンカーンコーン


 あぁ1限終わったのか。

 ちょうど保健室のドアをあけようとしたところでチャイムが鳴った。

 俺はゆっくりとドアをあけて、


 「遥、水買ってきた」

 

 といって遥のベッドに向かう。

 誰か人がいるのか?まぁ休憩中だし誰か来てるのか。


 「新見さん大丈夫ですか!?」


 遥のベッドからどこかで聞いた声が聞こえる。


 「はるかっち大丈夫?」


 これも最近どっかで聞いた声だ。


 「大丈夫です。ご心配おかけしてすみません」


 これは、遥の声だ。言葉遣い的に遥の先輩?遥の先輩ってことは……。


 「あ、ゆう……海原くん。お水ありがとう」

 「お、おう」


 やっぱりか。生徒会長と副会長だ。遥は生徒会に入っているからその関係だろう。

 俺はさっと遥の横にお水を置いてその場を去ろうとする。


 「君が海原くんですね。新見さんをありがとうございます」


 言葉遣いもなびいている黒髪もきれいな女の子は生徒会長の宮前望。

 どこかでやっぱり見たことがある気がするけど思い出せない。


 「え、君は噂の海原君かー。やっぱりイケメンだね!」

 「あ、ははぁ」


 横の俺が苦手なノリの女の子は副会長の鈴峰渚。まあギャルってやつ。


 「えっと、海原雄志です。新見さんの友人やらしてもらってます」


 いや、なんだよその自己紹介。もっとあるだろほかに。


 「えーなにその自己紹介、めっちゃうけるんですけどー」


 副会長が笑ってくれた。案外優しいのかもしれない。いや、笑いの沸点低いだけ?


 「雄志……?」

 「え、えっとはい?」


 会長に名前を呼ばれてビクッとする。やっぱ名前呼ばれるのにはなれないな。


 「すみません。お気になさらないでください」

 「あ、は、はい」

 「新見さん、しっかり休んでまた元気になったら生徒会室に来てくださいね」

 「はるかっちー、最近頑張りすぎじゃない?朝も今日早く来てたし?」

 「いえ、私の体調管理不足です。すみません」

 「はるかっち謙遜しすぎだよー。お大事にね」

 「私たちはそろそろお暇させていただきますね」

 「あ、はい。ありがとうございます」


 二人が帰った後俺はベッドの端にぼすんと座った。


 「いい人たちでしょ」

 「後輩思いだな」

 「まあね。ありがとね、お水」

 「おう。俺もそろそろ戻るわ」

 「うん。ありがと」

 「クラスのみんなには適当によろしくね。合わせるから」

 「おう。友達ってことにしとくな」

 「うん。ありがと」


 笑って手を振ってくれてる遥を背に保健室のドアをガチャンと閉めた。


 ――――――――――――

 「友達かぁ……」

 雄志の優しさが私の胸にずきずきと入り込んでいった。

 


 

 

 


 

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