第1章 第9話 君は誰

 「――ちゃんこっちこっち」

 「――くんまってまって」


 ここは……?

 俺の目の前に二人の小さな男の子と女の子が走っている。

 男の子が女の子の手を握ってエスコートいや、半ば無理やり連れ出そうとしている。

 男の子と女の子の顔がよく見えない。誰だ?

 どこかで見たことある風景、でもどこだ?

 そしてこの子たちは?


 「――ちゃんこれみて」

 「きゃあ!」


 女の子が男の子の手の中を見て驚いて尻もちをついて、


 「ゆうくんのばか!」


 といって泣き出してしまった。

 ゆうくん……?

 俺はその名前に聞き覚えがあった。

 小さいとき、遥と出会うもっと前に遊んでいた子が俺のことをゆうくんと呼んでいた。

 たった1ヶ月ぐらいだったかもしれないがすごく楽しくてすごくかわいい子だった気がする。


 「ごめんって!ね?ほら飴あげるからね?ごめんね」

 「わっイチゴ味!好きな味だ~」

 「あげるから許してよ」

 「えーどうしよっかなぁ」

 「うわもらっておいてずるい!」

 「おいしい!ありがとね」

 「う、うん」


 すでにおれ女の子の尻にしかれてるやん。

 俺の小さいときの顔ははっきり見えるのに女の子の顔はもやがかかっている。


 「今日はどこに連れて行ってくれるの?」


 女の子がキラキラした目で小さい俺に聞いている。


 「うーん。暑いし川は?」

 「川?近くにあるの?」

 「すこし歩いたところにあるよ。水筒もっていかなきゃ」

 「わかった!水筒持ってくるからまっててね」



 女の子が大きな家に入っていく。

 それにしても大きな家と大きな庭だ。中に小さい公園は余裕で作れそう。


 「誰」


 心臓がどくんと跳ね上がる。

 小さい俺が俺を見ながら、いやすこしにらむような眼で


 「君は誰」


 と言い放って俺に近づいてくる。

 ダメだ、体が動かない。話すこともできない。

 俺の手が俺に伸びてくる。


 

 「はぁはぁはぁ……」


 何だったんだ今の夢。

 小さい俺が女の子と遊んでいてそのあと小さい俺に俺が迫られる。

 まじなんだよ、この夢。

 あたらしいBLでもでもはじまるんか?

 いや、冗談はおいといてあの目は本当にあの時の俺か?

 女の子と遊んでいた記憶はある。でもあの目は当時はしていない……はずだ。

 

 7:30


 俺は時計をみてベッドから起き上がる。

 そういえば昨日学校になかった日本史の教科書はあるだろうか。

 もし家にあるなら本棚だったと思うけど……。

 無いな。なんでだろう、どこかになくしてしまったんだろうか。

 とりあえず準備しなきゃ遅れる時間だ。

 とりあえず何か曲を流そうとスマホを見ると風香からNineが来ていた。


(海原君、おはよう!朝早くごめんね。今日一緒に帰れたりしない?)


 かわいいおはよ!というスタンプも下に添えてある。

 風香こんなかわいいスタンプ使うんだ。


(うん、大丈夫だよ)


 すぐに既読が付いてOK!のスタンプが返ってきた。

 スタンプの可愛さにすこし笑みをこぼした後スマホの時間が現実に連れ戻されて部屋を後にした。


 ――――――――――――――

 ガラガラ

 私、新見遥は教室のドアをあけてすこし足が止める。

 クラスの女の子と男の子から一気に視線が集まってくる。

 まだなれない、いやというか変な感じだ。


    調子に乗らないで


 その言葉がリフレインされる。

 昨日雄志君と仲良くなった後に私の机に入っていたルーズリーフ。

 誰が書いたのかわからないし誰が入れたのかもわからない。

 雄志君がせっかく伸ばしてくれた手を昨日私は断った、大丈夫って。

 でも気づいてほしくて考えた結果漏れたのが大丈夫だった。

 めんどくさい女だなぁ、私って。


「おはよ、風香」

「ふぇ!?」


 突然の男の子の声に私はびっくりして持っていたタオルが落ちる。


「ごめん、驚かせちゃった?」


 そう言いながらタオルを拾って「はいこれ」といいながら渡してくれる。

 かがんだ君からすこし汗のにおいとシャンプーの交じったにおいが鼻をかすめる。

 わからないけど、落ち着く。


「ありがとう。ううん、大丈夫だよ」


 私は君に気づかないふりをして君を見る。

 

「ま、松原さん?」


 いつもとは違う方向からの声にびっくりして一瞬反応が遅れる。


「えっと獅子原君……?」


 私がこの学校に入って初めてしゃべる人。獅子原大輝、バスケ部で体はごついけど顔はかなりよくて人気がある…………とよくほかの女子が話しているのを耳にする。


「わ!名前知ってもらえてたんだ!よかった~よろしくな」

「う、うん」


 急にどうしたんだろうか。というか獅子原君といえば……


「大輝なにしてんのー?」


 やっぱり獅子原君といつも一緒にいる篠原さんと三木君がこっちに来た。

 三木君はなにもいわず後ろから私と雄志君を見つめている。


「松原さんと前からおれ話してみたかったんだよー。今絶好の機会かなって」

「ほんとか~?」

「ほんとだよ!」

「私は篠原紗季、こっちは三木良太。よろしくな」

 

 かわいい見た目に反してすこし荒っぽい言い方が耳に残る。


「うん。よろしくね」

「大輝、松原さんかわいいから狙ってんのか?お前じゃ無理だ」

「あぁん?まずそんなことじゃないけどお前にそんなこと言われるのは癪だな」


 獅子原君と篠原さんがかるいじゃれあいのようなものを始めている。

 幼馴染ってきいたことあるけど本当に仲いいんだ。後ろの三木君もまた始まったみたいな顔をしてすこし笑っている。

 ってか雄志君寝てる?いや、寝たふり?どっちにしてもずるくない?

 いや、その前に周りの女子からの目が痛い。

 獅子原君人気あるし篠原さんはめっちゃ可愛いから男子からも見られているような……。


 キーンコーンカーンコーン


 朝礼のチャイムが鳴る。

 立っていた人たちが席に座る。

 机の中に何かが入っている。


   今日の昼休み美術室で待ってる

 

 昨日と同じ筆跡。

 心臓がドクンと跳ね上がった。



 



 

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