第1章 第3話 満ちていく月


 「ま、松原さんがなんでここに?と、というかそ、その恰好!?」

 

 俺、海原雄志はよくわからない状況に置かれていた。

 クラスのたった一人の話せる人だと思っていた人が超絶美少女になって目の前にいる。

 正直松原さんには悪いがいつもは俺と同じ陰のオーラを感じる。

 あ、でも俺見た目だけはイケメンだったわ。


 「あ、えっとご、ごめんなさい!き、急に話しかけちゃって」

 「い、いや、全然大丈夫。お、俺こそ驚かしちゃってごめんなさい」


 よかったいつもの松原さんを感じる。

 見た目はめっちゃ美少女なのに内面は変わらないんのなんか親近感。


 「海原君はなんでスーパーに?」

 「え、えっとちょっと買い出してやつ?松原さんは?」

 「私もだよ。家のお手伝いとか?」

 「えっ」


 すこし言葉に詰まってしまう。

 二度と思い出したくない顔が脳によぎる。


 「んーあーいや、まあそんなとこかな」

 「そ、そうなんだ」

 

 また俺の頭をあいつの顔がよぎる。


 「ごめんうそ」

 「え?」

 「これ家の手伝いじゃなくて自炊用なんだ」

 「え?えっと」


 松原さんが複雑な顔をした後困った顔になっている。

 整った顔立ちでそんな顔されたら俺も困る。

 てか俺今普通にしゃべれてね?いや、松原さんだからしゃべれてんのか。


 「海原君って一人暮らしってこと……?」

 「んー厳密には違うけどほとんど一人暮らしだよ」

 「そっか、なるほど」


 詳しい理由を聞こうとしてこない。

 多分松原さんなりの優しさと気づかいだろう。


 「松原さんはお手伝いとか?」

 「うーん。そんな感じ」

 「そっか」


 少し濁された感じするが俺が追及するのは違う。

 いつかもっと仲良くなった時に話してくれればいい。

 

 「海原君今から何かすることある?」

 「え?えーっとこれ買ったら家に帰るよ」

 「そ、そうだよね」

 「う、うん?ごめん、何かあったかな?」

 「そ、その、一人暮らしなら私…………るよ」

 「ん?ごめん、もう一度言ってもらってい?」

 「そ、その海原君さえよければ」

 「うん」

 「ごめんなんでもない!私そろそろいかなきゃだからごめん!」

 「う、うん」


 あたふたときれいな黒髪を揺らしながら去っていく。

 本当に綺麗で、いつも通り優しい子だ。

 松原さんと別れたて買い物を済ませて外に出ると夕日が広がっていた。

 燃えるような赤と何かさみしさを感じる青い空、俺はこの空が好きだ。

 あいつが去った日はどんな空だっただろうか。

 よく思い出せない。いや、思い出したくもない。


「月がきれいだなぁ」


 俺は有名な言葉を思い出しながら不完全な月を見てつぶやいた。

 15歳最後による、不完全な月と不完全な俺。

 16歳に見る月はどうなっているだろうか。


「雄志、今帰り?」

「えっ?」


 急に後ろから名前を呼ばれて振り向くと見慣れた顔が立っている。


「なんだ、遥か。驚かさないでくれ。」

「ごめんごめん。買い物帰りかな?」

「うん。友達は?」

「みんな今日は用事あるって」

「そっか」


 俺と遥は学校ではほとんど話さない。

 遥は学校でも有名な美少女でそれでいて優等生な完璧な生徒だ。

 一応俺も成績優秀、そこそこモテる。

 だから俺たちが仲いいところがばれると学校中で噂になる。

 そうすると俺の本性がばれて俺だけでなくはるかにまで影響を及ぼしかねない。


「久しぶりじゃない?雄志と並んで帰るの」

「そうだな」

「今日の夜ごはんはなに?」

「親子丼」

「やった!私雄志の親子丼好き~」

「そんくらいいつでも作るよ」


 手を延ばせば届く距離に遥がいる。

 俺にとって当たり前な空間。

 無言の時間が俺たちを包み込む。

 でもなんかそれが嫌とは感じない。

 家族といるより家族のような安心感がある。

 風が吹くたびに俺の鼻をかすめる君の髪は俺に誘惑してくる。

 ミントのようなにおいに柔らかい花の匂いが混ざっている。

 上目づかいで笑う君は反則だ。

 縮まらない数センチを縮めてしまいたくなる。


(お前なんていらない)


 俺の中のあいつが俺につぶやく。

 そうだ、俺には大切な人を作る資格はない。


「ねえ雄志」

「ん?どうしたの?遥」

「久しぶりに競争しない?」

「へ?」

「家まで」

「いいけど、俺に勝てるんか?」

「勝つよ!よーいどん」

「おい待てよ、ずるいぞ!」


 もしかしたら俺の浅い考えなんて遥にはばればれなのかもしれない。

 でも、今俺が君に言える最大限の言葉を君に伝えるよ。


「ありがとう」


 ――――――――――――

 私、新見遥は君を想っていた。

 想っていたなんて言うのはすこしキザな感じがする。

 でも本当に君を、雄志を想っておいた。

 さっきだって触れてしまいそうな君の指にドキドキしてたし、今だって多分顔赤い。

 でもいまは、走ったせいで顔が赤いのかもしれない。

「遥、足速いじゃん」

 私が雄志の家につくと同時に雄志も家に着いた。

 雄志は買い物の荷物もって走ったのにあんまり息切れしてない。

 たぶん私が置いて行かれないようにペース合わしてくれてたんだ。

「あ、ありがとう」

 って私今かなり汗かいてるよね?

 私何してんの!?

 恥ずかしいからって走って汗臭くなって嫌がられたらどうすんの?

「え、えっと雄志?」

「ん?あ、シャワー浴びるだろ?準備するから待ってろ」

「え、いやちょっと」


 女の子には準備あるのに!

 し、下着も変えたいしスキンケアだってあるし……。


「あ、すまん。着替えとかないし家となりだし家でシャワー浴びてきた方がいいか」

「え、うん。1回家に帰って1時間後ぐらいにくるよ」

「おう。俺もいろいろしとくな」


 着替えとかって別に、雄志の着てもよかったんだけどな……。

 というか、着てみたいし…………。


「ん?遥なんか言ったか?」

 え?い、今の声漏れてた?

 やばい顔が熱い絶対赤くなってる。

 早くこの場から逃げたい。

「じゃ、じゃあね。またあとで」

「おう」


 逃げるように靴を履いて玄関を出る。

 ちゃんと夜のために一応準備しとこ。

 い、一応ね?一応。


 ――――――――――――――

 

 ガチャン

 私は玄関を占めてため息をつく。

「海原くん…………」

 だれもいないここに声が飲み込まれていった。








 

 





 

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