第167話 ピロシキ君

「冷水でござる」


 オトナシさんたちの拠点に案内された俺たち。

 中に通されると木でできたイスに座るように促されたので、腰を下ろしていた。それから少し待つとオトナシさんが木製コップを持ってきてくれた。


「ありがとうございます」


 受け取ったコップに口をつける。


「ちなみにそのコップは俺が作ったんだぜ、中々良い出来だろ?」


 もらった水を飲んでいると拠点の入り口でも会った小柄な男の子が自慢げに話しかけてきた。


「はい。持ち手もあってとても使いやすいです」

「へへっ、初めて会う人に褒められるのはうれしいな」


 小柄な男の子は柔らかに笑う。


「ピロシキ殿、兄上を起こしてくるのではなかったでござるか?」

「そのつもりだったんだけどさ、くそ兄貴の野郎まだ寝たいってほざいてて。どうしてゲームの世界にきてまで寝てるんだか」

「そうでござるか。承知した。それよりもピロシキ殿、ちゃんと自己紹介したらどうでござるか?」

「あっ、そういえばまだしてなかったっけ? じゃあ、改めて――――俺はピロシキ! メインで大工、サブで鍛冶師をしてる。あと一つは一応戦闘職にしてるけど、戦いは気が向いたときにしかしてない。これからよろしく!!」


 小柄な男の子――――ピロシキ君が自己紹介してくれたので、こちらのメンツも順番に名前とメイン職業などの情報を伝えた。


「あと俺、敬語とか苦手だからタメ語で話すけど許してくれよな。その代わりみんなもタメ語でいいから!」

「わかったよ。よろしくね、ピロシキ君」

「君!?」

「うん。たぶん雰囲気的に学生だよね? 俺より若いし、君つけとこうかなって」

「いいね。ピロシキ君って響きかわいいし。よろしくね~、ピロシキ君!」


 俺が君付けで呼んだことに対してピロシキ君は驚いた表情を見せた。それを見た妻もおもしろがって、君付けで呼ぶことにしたようだ。


「よろしくね、ピロシキ君。私はあなたのお母さんくらいの年齢だから甘えていいのよ?」

「えっ、母ちゃんと歳近いって、おば――――」

「ピロシキ君? 口は禍の元って言葉しらないかしら?」


 ピロシキ君が不用意におばさんなんて言葉を口にしようとするから、ユーコさんから咎められた。それを見た妻がおもしろそうにニヤニヤしている。


「ピロシキ……よろしく」


 一頻りユーコさんのしつけが終了したところで、ずっと話しかけるタイミングを見計らっていたミミちゃんがピロシキ君に話しかけた。


「よろしく――――って、なんで一番のちびだけが呼び捨てなんだよ!」

「えっ…………ダメ、だったの? ごめん、なさい」


 ピロシキ君の語気が強いからか、ミミちゃんは少しびくっと体を震わせた。


「あっ、いや、えー。違う! 別にいいから。そんな泣きそうな顔すんな。怒ってるわけでもないから」


 ミミちゃんがシュンっとしてしまったため、ピロシキ君は大慌て。あたふたしながらも、なんとか誤解を訂正しようとする。


「……ほんと?」

「おう! これは俺の元々のしゃべり方だから、怒ってるわけでもない」

「わかった」

「じゃあ、改めてよろしくなミミ」


 名前を呼び捨て返ししたピロシキ君はニカっと笑う。それを見たミミちゃんは嬉しそうに頷いた。


 それから少しみんなで雑談をした後、そろそろ今回のイベントについて話そうという流れになった。


「では、まず私からいいですか!!!」


 最初に声を上げたのはモフアイさんだった。


「別に構わないでござる。例の攻略情報でござるか?」

「いや、それはオトナシさんがお礼として伝えるって言っていたので私からは別の話です! せっかくテイマーのリーナさんとハイトさんがいるので、情報共有したいなって」

「あぁ、そっちの話でござるか。承知したでござる」


 何やらモフアイさんはこのイベントのテイマー関連の情報を掴んでいるようだ。非常に興味深い。


「では、早速なんですけど! お二人はこの島にきてから魔物をテイムしようと試みましたか?」

「テイムですか? 流石にイベント産の魔物はテイムできないと思って試していませんが……もしかして?」

「はい! そのもしかしてです!! 実はこの島に出現する魔物にもテイム可能な子たちがいます!!!」


 魔物の話が始まり、モフアイさんの熱が徐々に高まるのを感じる。


「そうなんですか!? どの子がテイムできます? イベント限定の従魔……すっごい欲しいです!!」


 従魔、イベント限定、妻の大好きな要素が欠け合わさったことで、彼女のテンションもまたモフアイさん並みに高くなってきた。


「他の集団で活動しているテイマーたちと交換した情報を踏まえると……今のところ、<コトウノ>という言葉が名前の頭についている魔物がテイム可能なのではという話になっています」

「そうなんだ! うわ~、良いこと教えてもらっちゃった。ねぇ、ハイト。一旦、従魔増やさない? 私たちまだテイムする枠に余裕あったよね?」

「うん、いいよ。従魔がいると戦闘も楽になるしね」

「お二人ならそう言うと思いましたよ! 私もまだ情報を得ただけで従魔にはできていません。せっかくですから一緒に探しにいきましょう!!」


 こうしてテイマー組三人でイベント限定従魔を手に入れることが決まった。


「ちょ、ちょっと待つでござる、お三方! イベントの攻略情報をまだ伝えて――――」

「まぁまぁ、オトナシさん。三人ともそのままテイムしに行く雰囲気ですし、攻略情報については私とミミに聞かせてください」

「わ、わかったでござる」


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