第168話 ペンギンに似た魔物

 モフアイさんから「コトウノ」というワードが名前についた魔物はテイムできるという情報を教えてもらった。

 前回のイベントではサクラボア等をテイムすることはできず、イベントポイントとサクラボアのスキンを交換することのみ可能となっていた。そのため今回もイベント限定の魔物はテイムできないと考えていたのだが……良い方向に仕様が変更されていたようだ。もしかしたら、前回のイベントのときに誰かがイベント限定の魔物もテイムできるようにして欲しいという意見を公式ホームページのご意見箱から送ったのかもしれない。


「情報交換したテイマーさんの話だと、この辺りにコトウノウミガラスという魔物が出現するそうです!」


 モフアイが連れてきてくれたのは、俺とオトナシさんが出会った場所とは別の砂浜だ。あそこよりも少し波が荒れている。潜って探索するのは少し難しいかもしれない。 


「ウミガラスかぁ~。どんな元の動物もどんな子なのか知らないけど、名前からして浜辺で暮らす魔物なのかな?」

「烏ってことはうちのバガードと被りそうだな」


 個人的にテイムするのは避けたいところだな。

 あの子の性格からして、イベントで数日会わなかった挙句に別の烏を連れて帰ったとなるとへそを曲げてしまいそうな気がする。食べ物を上げたりして機嫌を取れば、なんとか普段通りの戻ってくれそうではあるが、あえて今いる従魔が不満を覚えそうな種族の魔物をテイムする必要はない。


「ちなみにウミガラスはパッと見ペンギンに見える動物ですよ。魔物なので見た目に変化はあると思いますが、あまり烏らしさはないのではと思います!」

「ペンギン!」


 ウミガラスの外見がペンギンに近いと聞いた妻は露骨に目を輝かせる。


「ペンギンそんなに好きだったっけ?」

「特別に好きとかではないけど、実際に触れ合ったことがないからテイムしたらなでなでしてみたいなって!」


「あ! あそこ、見てください!!」


 俺と妻がペンギン談話をしていると、モフアイが大きな声を上げた。彼女が少し先にある岩場を指していたため、視線をそちらへ向ける。


「ん? んん?」


 確かにペンギンみたいな形をした魔物はいた。


「えっ、あれは……」


 いつも新しい魔物を見るとすぐにはしゃぎ始める妻だが、今回は戸惑いの表情を見せた。


「な、な、な、なんというか……とても個性的な子ですね」


 挙句の果てにはあのモフアイさんでさえ、眉をひそめている。


「いや、流石に顔がヤバい」


 俺は思わずそう呟いてしまった。

 顔がヤバい。非常に失礼な言い方にはなるが、それ以外に表現のしようがない。大きさや体系は普通のペンギンみたいでかわいい。だが、顔が、顔だけが明らかにおかしい。どうしてそんな厳ついヤのつく人みたいな面をしているんだ……。


「なっ!? お二人とも騙されないでください。あれはコトウノウミガラスではないみたいです! 鑑定してみてください!!」


 いつもなら初見の魔物はすぐに鑑定する。だが、今回は衝撃のあまりモフアイに言われるまで忘れていた。




シマジメペングイン

海岸の岩場を縄張りとし、その領域のボスとしてデカい顔をする魔物。

しかし、あまりの面の恐ろしさに多くの魔物が逃げ出してしまうため子分は少ない。




「ほんとだ! なんなら、イベント限定の魔物ですらない」


 こんな魔物とイベント以外でもいつか出くわすことになるのか。

ん?

 でも、橋で戦ったマーマンジュニアとかもあまり褒められた見た目をしていなかったし、今更気にするところでもないのか?


「ちなみにリーナはあれをテイムする気があったりは――――」

「しない! だって、かわいくないもん!!」

「モフアイさんは?」

「う~ん、私もちょっとあの子はパスかなと。それに今回のイベントでテイムできるのはコトウノというワードを名前に持つ子たちだけですから。鑑定結果からして、本編でも出会えるようですし、きっと先出し的な感じ配置されたんじゃないですか?」


 これから皆さんがマップを進めていくとこんな魔物と出会いますよ、みたいなものをチラ見せしてくれているということか。確かにありそうな話だ。


「ねぇ、ハイト。とりあえずテイムもできないんだし倒しちゃわない?」

「そうだね。モフアイさんもそれでいいですか?」

「もちろんです!」


 全員の意見が揃ったため、すぐに戦闘態勢に入る。


「こい、アムリ」


 俺はスキル、緋色の紋章を発動。

 左手の甲の紋章が輝き始める。


「じゃっじゃーん! 呼ばれて登場。緋色の精霊アムリだよ!」

「読んですぐで悪いけど、一緒に戦ってもらっていい?」

「もちろんだよ、ハイト! 今回の敵は……顔が変だけど、前のより強そうだし。ちょっと楽しみ!!」

「えっ、ちょっと待ってハイト! その子だれ!?」


 妻が小さな精霊の少年を見て大喜び。

 別にそっち系の癖があるわけではないはずなので、おそらく小さくてかわいいから反応しているのだと思う。


「そうですよ、ハイトさん! 私もこんなかわいい子がいるなんて聞いてないです!!!」


 モフアイさんまで食いついてしまった。


「みんな何騒いでるのさ! ほら、あっち見て。僕たちに気づいて突撃してきてるよ!!」


 アムリに言われてシマジメペングインの方を見ると、やつは般若のような形相でこちらへと向かっていた。


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