第166話 まさかの再会

 イッテツさんを除いたメンバーでオトナシさんの拠点にお邪魔することになった。イッテツさんが一人だけ拠点に残っている理由は俺の武器の作製のためにもう少し時間が必要だからだ。


 俺たちの拠点からオトナシさんの拠点までの距離はそれほど離れていなかった。 ただ俺たちがあまり探索していない方角にあったので通る道は初見の場所ばかりだったが。


「ここが拙者たちの拠点でござる」


 彼の拠点はウッドハウスだった。簡易的なものとはいえ、俺たちのように天然物を利用した拠点とは明らかに違う。人の手によって作られたものである。


「まだ二日目なのに……すごい!」


 妻が大袈裟に驚いて見せたため、オトナシさんは少し得意気な顔になる。


「これは拙者の仲間の大工の兄弟が作ってくれたものでござる」

「なるほど。仲間に大工がいたから、これを短時間で作り上げることができたのか」


 職業は初期状態だと<見習い>という言葉が頭につく。俺も今でこそ<テイマー>だが、最初は<見習いテイマー>という職業名だった。つまりオトナシさんの仲間である大工の兄弟というのはどちらもそれなりにゲームをやり込み、職業のランクアップを済ませている人たちということ。それならここで親交を深めて協力してみるのも良いかもしれない。

 尤もオトナシさんが説明しやすいように<見習い>というワードを省いて話した可能性もあるが、どちらにせよ大工のプレイヤーは知り合いにいないので是非とも仲良くなりたいところだ。


「ちなみにオトナシさんの仲間は他にどういった人がいるんですか?」


 ――――カチャ。


「あれ? オトナシのおっちゃん戻るはえーな!」

「えっ、オトナシさんもう帰ってきたんですか? もしかして何か――――って、ハイトさん!?!?」


 俺の問いにオトナシさんが口を開こうとしたタイミングで、丁度木の扉が開かれた。中から小柄な男の子と見たことある女性が出てきた。


「えっ? モフアイさん?」


 まさかここで顔を合わせることになるとは思っていなかった。驚いた俺は上手く言葉を紡ぐことができず、名前だけ口にして固まってしまう。


「何、この微妙な空気。ていうか、ハイトいつの間に私の知らない女の人と仲良くなったの!?」


 隣にいる妻が俺たち二人が知り合いだと感づき、何を勘違いしたのか眉を吊り上げながら詰め寄ってきた。


 オトナシさんは目の前で何が起こっているのか分からず、フリーズ状態。

 子供のミミちゃんが割って入ってこれるはずもなく。俺は急いで妻の勘違いを解かなければと思い、言葉を頭に浮かべる。だが、無駄に焦ってしまっているのか上手く説明できる気がしない。


「は~い。リーナちゃん一回落ち着いて。そんな鬼の形相で詰め寄っちゃ、ハイト君が話せないでしょ?」


 ここでユーコさんが割って入ってきてくれた。


「ユーコさん、ありがとうございます。あのねリーナ、俺と彼女が顔見知りな理由は――――」


 ユーコさんのおかげで落ち着きを取り戻した俺はイッテツさん経由でモフアイと知り合いになったことを説明した。


「な~んだ、ただのテイマー仲間だったんだ。早とちりしてごめんね?」

「こっちこそすぐに説明すれば良かったのに、あたふたしたせいで余計怪しかったよね。ごめん」


 妻と軽くハグをして仲直りした。


「モフアイさんもごめんなさい。勝手に疑っちゃって」

「えっ、いえ! 私はほとんど傍観していただけなので。気にしないでください。それよりもハイトさんの奥さんってことはテイマーなんですよね? 私、魔物が大好きでいろんな魔物と触れ合いたいのでよかった今度従魔を連れて親睦会しませんか? ちなみに私は従魔全員自慢の子なのですけど、中でも一番大好きなのはアイススライムでぷらぽりりんって名前なんですけど――――」


 え~、モフアイさんの従魔愛が爆発してしまった。マシンガントークが始まった以上ここから十分は一方的に自分の従魔について語り続けるぞ。


 妻の方がチラッと見てみる。俺もイッテツさんも初めてこれをされたときは顔が引きつったのだが、妻は一切嫌な顔を見せず興味津々といった感じで話に耳を傾けていた。


「……すみません。また話し過ぎちゃいました」


 一通り話終えたところでモフアイさんがやらかしたと思ったのか、申し訳なさそうに肩を落とした。


「いえ! 私も従魔が大好きだから、気持ちすっごい分かります!! 私も語れと言われればいつまでも自分の従魔について話し続けられますもん!!!」


 妻とモフアイさんでまさかの化学反応が起きていた。

 今度は妻が従魔愛を語り始めて、二人はそのまま話しながらウッドハウスの中へと消えていく。


「……モフアイの姉ちゃんのマシンガントークについていける人間は初めて見たぜ」

「拙者もでござる……はっ! ひとまず拙者たちも中に入るでござる。せっかくハイト殿たちを招いたのに、いつまでも立ちっぱは良くないでござる」

「その人たち客だったのか。じゃあ、俺先に入ってくそ兄貴起こしてくるよ」

「頼んだでござる、ピロシキ殿」


 拠点前でひと悶着あった後、俺たちはオトナシさんたちの拠点の中へと招かれたのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る