第165話 オトナシさんからのお礼


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

夏イベントの設定を追加したので<なお、ゲーム内時間は普段の七倍。つまり現実での六時間がゲーム内での一週間となる>という文章を154話に追加しました。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






 拠点として利用している洞穴に戻るとすぐにみんなの姿が見えた。


「ただいま」

「あれ? ハイトおかえり。思ってたより早く戻ってきたね」

「ちょっと問題があってね」

「問題って……その人?」


 妻は不思議そうに首をかしげる。

 俺はオトナシさんに肩を貸した状態で歩いてきたため、妻はすぐに気づいたのだろう。


「うん。海で出会って一緒に食料調達と探索をしてたんだけど……魔物に襲われて少し厄介な状態異常になってしまったんだ」

「そうなの!? それは大変!!!」


 俺は口頭で簡潔に裂傷という状態異常について説明する。


「ふんふん、なるほど。じゃあ、低級ポーションがいくつか必要ってことだね?」


 妻は急に得意気な顔になる。


「――――じゃ、じゃーん! お水は一杯組んできました~」


 なみなみと水が入った四つの鍋を見せられた。


「水! って、ことは水源を見つけたんだね!?」

「うん! 湖よりは小さい池って感じかな。でも、水を汲んで鑑定したら普通の水らしいから持って帰ってきたんだ」

「流石リーナ!!! さっそく錬金術で低級ポーションを作るよ」


 妻から鍋一つを受け取った。


 俺たちが話している間に洞穴の奥から他のメンバーも出てきた。その中にいたイッテツさんにオトナシさんのことを任せて、俺は奥へと向かう。

 松明で明るくなっている場所でアイテムボックスから錬金の釜を取り出す。鍋から適量の水をすくい、錬金の釜へ。そして昨日集めた薬草を一つ。そこからはいつも通りの手順を踏んで失敗することなく低級ポーションを作り上げた。

 裂傷の状態異常は一度HPを満タンにするまで続くようなので、おそらく最大HPの10%しか回復しない低級ポーション一つでは足りない。更に俺は九つの低級ポーションを急いで作成する。

 全てが揃ったところで俺は洞穴の出口へと向かう。


「お待たせ! オトナシさんは?」

「大丈夫! まだ生きてるよ!!」


 妻の返事を聞いてほっとしつつも、俺はオトナシさんの元へと足を進める。


「オトナシさん、低級ポーションです。HPが満タンになるまで飲み続けてください」


 俺は試験管のような瓶に入った低級ポーションを合計で十個渡した。


「あ、ありがとうでござる」


 裂傷の追加効果である行動阻害のせいで動きづらいオトナシさん。とてもぎこちない動きで低級ポーションを口にし始めた。


 オトナシさんが裂傷を解除するには少し時間がかかるだろう。その間に先程から気になっていた水を入れていた鍋をどこで手に入れたのかについて妻へ聞いた。

 妻によると俺が海で向かった後に水源を見つけたとしても汲む容器がないとあまり意味がないという話になったそうだ。そこでイッテツさんが俺と一緒に集めたアイテムの一部を使って鍋を作ったらしい。


「――――かたじけないでござる、ハイト殿」


 鍋の話をしているうちにオトナシさんが復活した。


 最終的に五本の低級ポーションを飲みほしたオトナシさん。裂傷の状態異常が回復して無事、自由に動けるようになったようで頭を下げて感謝された。


「気にしないでください」


 利害の一致から協力していたのだ。その間に怪我をしたのなら、助けて当然だと思う。結局、治療のために途中で引き上げてきたから、海中探索はあまりできていないけど。


「いや、流石に気にするでござる。なので……お礼になるかは分からぬが、拙者の持つ情報を一つお教えするでござる」

「それはこのイベントに関する情報ですか?」

「さようでござる」

「教えてもらえるなら、ありがたいですが」


 低級ポーション五本の対価としてイベントの情報をもらっても良いものなのだろうか?


「ハイト殿たちがこれから用があるなら、この場で教えてもいいでござるが……もし時間があるのならうちの拠点まできて欲しいでござる。恩人を仲間に紹介したいのと、実際に見てもらった方が情報についても理解しやすいと思うでござるから」

「俺は特に用事はないのでいいですが……みんなは?」

「もちろん私はついて行くよ!」

「わたしも、行く。ひまだから」

「そうね。当初の目的だった水の確保はできてるし、私たち親子もご一緒するわ」


 最終的に俺の武器を打ってくれているイッテツさん以外のメンバー全員でオトナシさんの拠点へとお邪魔することになった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る