第164話 貝


「それにしてもハイト殿がテイマーというのは信じられないでござるな。先程の身のこなしはなかなかに素晴らしかったでござる」


 オトナシさんと協力して海中探索兼食材確保をすることになった。俺が再び海に潜る準備をしていると彼が急にそんなことを口にした。


「そうですかね? さっきもオトナシさんの方が速かったし、別に並みのテイマーと変わらないと思いますけど」

「いや、水中で遭遇したときの話でござる。同じ潜水持ちだとはいえ、水遁の術で水中運動能力を向上させている拙者と遜色ないあの動き。普通とは思えないでござるよ」

「あー、それなら格闘術(初級)の効果かもしれないですね」


 装備をしていないときの身のこなしが軽くなるという効果が水陸どちらでも発動している。オトナシさんが指摘しているのはその効果だと思う。

 俺がそのことを教えるとオトナシさんはその場で格闘術(初級)を取得。今まで以上に動きが機敏になった。


「逆に俺からも質問いいですか?」


 海中でオトナシさんと遭遇したときから一つ疑問に思っていることがあった。せっかくだからそれについて聞いてみることにした。


「もちろんでござる」

「下忍って、気配察知から逃れるようなスキルを覚えたりします?」

「それなら隠密というスキルがあるでござる。これを覚えると感知系のスキルから逃れやすくなる上、移動に生じる音もかなり抑えられる。とても素晴らしいスキルでござる!」

「なるほど。それで」


 気配察知で周囲の警戒をしていたにも関わらず、オトナシさんの存在に気づけなかったのはそのせいか。予想外の出会い方をしたから心臓が止まりそうだった。もう少し心拍数が跳ね上がっていたら強制ログアウトさせられていたかもしれない。


 お互いに今回のイベントについての情報をある程度共有した後、海へと潜り始めた。

 オトナシさんによると俺たちが遭遇したような岩の裏に貝類などの食材となるアイテムが潜んでいるらしい。採取スキルがあると問題なく手にできるようなので、俺たちはまずそれらを確保することにした。


 水中なので会話は特になく、ひたすら岩裏や海底の砂地に潜む食材を集めていく。




コトウノニジシジミ

レア度:2 品質:中

小ぶりな貝。

殻がカラフルなのは外敵を寄せ付けないため。

かつての島民はこれで装飾品を作っていた。


ハコガキ

レア度:3 品質:中

殻の形が四角形の牡蠣。

身は大ぶりだが、非常にミルキーで雑味が少ないことから高値で取引される。




 一時間ほど食材集めしたところ、シジミが二つと牡蠣が一つ取れた。牡蠣の方はレア度3。普通に採取スキルを使って手に入れたアイテムでは最高レアリティな気がする。品質も悪くないので妻へ良いお土産ができた。


 そしてコトウノニジシジミの方だが……どうも気になる文言がある。<かつての島民>の部分だ。俺たちは島にきてから現地民と遭遇していない。かつてのと書かれている部分から予想すると今は島民はいないということだろうか。そういえばイベントのテーマも『常夏の無人島を冒険しよう!』だった。島の住民たちはどうしていなくなったのか。壁画の化け物との戦いのこともある。気になるところだ。


 酸素ゲージの回復がてら水面から顔を出しながら、戦果の確認をしていると海底付近に魔物の存在を察知。丁度オトナシさんが潜っていた付近だったので、俺は海中へと戻る。


 深くまで潜っていくと巨大な貝?に噛みつかれているオトナシさんを発見。どうやらこれが気配察知に引っかかった魔物らしい。




肉食真珠

大きな真珠で獲物をおびき寄せ捕食する。

貝殻の淵には鋭利な牙が無数に生えており、噛みつかれたら一巻の終わり。




 これまた物騒な魔物だ。っていうか、オトナシさん噛みつかれてるんだけど……どうしよう。とりあえず肉食真珠を攻撃してみるか?


 声は出さずに水魔法を発動。使用するのはウォーターボールだ。海中で生み出された水弾は真っ直ぐに魔物へと飛んでいく。それが貝殻に直撃すると、肉食真珠は踏ん張りが利かず後方へと大きく吹き飛ばされた。

 同時にオトナシさんも解放されたため、すぐに彼の元へと泳ぐ。

 気配察知に肉食真珠の存在が引っかかっているためまだ倒せてはいないが、俺はオトナシさんを助けることを優先。彼を担いで浮上した。そしてそのまま砂浜へと彼を連れて上がる。


「オトナシさん、大丈夫ですか!?」

「かたじけない。助かったでござる。もうだいじょ――――うっ!?」


 砂浜に寝かせたオトナシさんに語りかけるとすぐに返事があった。彼はすぐに体を起こそうとするが痛みが走ったかのように動きを止める。


「どうしました?」

「いや、どうやら状態異常になってしまったようでござる。裂傷状態とステータスに出ているでござる。一度HPを最大まで回復しないと小さい継続ダメージを受け続けるのと、行動阻害を受けるみたいでござる」

「……少し厄介ですね」


 今の俺は回復手段を持っていない。そのため彼の状態異常をここで解除することは叶わない。妻たちが水を手に入れてくれていたら、低級ポーションを作れるのだが――――。


「一旦、俺たちの拠点へ行きましょう。賭けにはなりますが、仲間の探索が上手く行っていれば回復手段が得られるかもしれません」


 日の高いうちに俺は一度、拠点へと戻ることとなった。



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