第163話 ござる?


 海底にある大きな岩裏から空気が漏れ出ているのを発見した俺は、それの正体を確かめるために接近する。

 あまりそちらにばかり意識を向けて別方向からきた魔物に襲われたりすると危険なので、気配察知に魔物が引っかからないかどうかには常に注意しておく。


 潜水というスキルを持っているおかげで水中での移動が比較的スムーズにできる俺はすぐに海底まで沈むことに成功。カラフルな珊瑚礁が視界に入って鑑賞したい気持ちが少し芽生えるが、今はそれよりも岩裏の何かを優先する。


 この大岩の裏だな。


 水中なので言葉を発することはない。ただ心中でそう呟き、空気を排出しているものの正体へと迫る。


 ――――!?!?!?!?


 岩裏にあるものの正体を確認した俺は驚愕のあまり口から大量の空気を吐き出した。空気を大量に吐き出したからと言って酸素ゲージの減る速さが変わったりはしない。だが、丁度酸素ゲージの残りが少なくなってきたタイミングだったため、浮上することにした。


「あー、びっくりした!」


 海面から頭を出したことで酸素ゲージが徐々に回復していく。


「どうしてあんなところに人間がいるんだ?」


 岩裏で俺が見つけたのは人間だった。

 気配察知を発動していたため、まさか生物がそこに隠れているとは予想もしていなかったため驚いてしまったのである。


「ちょ、ちょ、ちょっと待つでござる!!!」


 俺が一旦、落ち着くために陸に上がろうと泳ぎ出すと、岩裏にいた人物も浮上してきた。そしてなぜかこちらへ話しかけてくる。

 いや、もしかしたら近くに別の人がいるのかもしれない。俺は首を振って周囲を確認。その後、気配察知にも人の反応がないか確認。


「そんな誰に話かけてるんだろう? みたいな反応はやめるでござる!! 拙者はプレイヤーネーム:オトナシ、メイン職は下忍でござる」


 岩裏にいた人物――――俺と色違いの海パンを履いている謎のプレイヤーはなぜか名前と職を明かした。


 それにしても、ござるって喋り方……ちょっと変な人なのかもしれない。モフアイさん以上に強烈な個性の香りがするし、避けた方がいいかな?

 いや、でも自己紹介されたし無視するのもなぁ。


「俺はハイトです。テイマーしてます。それじゃあ!」


 手短に返事をした俺はそそくさと陸へと上がった。

 海岸沿いに歩いてある程度距離を取ったら、再び入水するつもりだったのだが……オトナシさんはなぜか俺の背を追ってくる。下忍という職業のおかげか速さのステータスが高いらしく、俺との距離は徐々に縮まっていた。


「あのー! ついてくるのやめてくれませんか!?」


 俺は走りながら、後方へ声を飛ばす。


「だったら、話を聞いて欲しいでござる!」

「それって俺以外でもよくないですか?」

「ダメでござる!」

「どうして!?」


 この後も俺は必死に逃げ続けたが、オトナシさんは一向に諦めることなく背後にピッタリと付けて追いかけてきた。最終的に俺は諦めて話を聞くことにした。


「それで何の用ですか?」

「おっ! やっと話を聞く気になったでござるか?」

「先に言っておきますが俺にはやらなきゃならないことがあるので、面倒な頼みならお断りしますよ?」


 イッテツさんは鍛冶を、女性陣は下級ポーションの材料である水を探すという役割をそれぞれ務めてくれている。海中の探索をすることになった俺だけ目的を忘れて脇道に逸れるわけにはいかない。そのためあまりこの人に時間を取られたくない。


「むぐっ……それは」


 今ので口ごもるって、いったい何を頼もうとしていたんだろうか。


「と、とりあえず話を聞くだけ聞いて欲しいでござる。断られたらちゃんと諦めるでござる」

「はぁ……分かりました。それで何ですか?」

「実は拙者は少人数ながらチームを組んでこのイベントに挑んでいるでござるが……手に入る食材が少ないため全員の満腹度を満たせていないのでござる。そこで先程、海中で食材を探し始めたところ――――」


 オトナシさんから事情を説明された。簡潔にまとめると食材確保を手伝って欲しいという話らしい。それだけなら別に他のプレイヤーでも問題ないのだが、普通のプレイヤーは俺ほど海中で機敏に動けないらしい。SPは貴重なものなので、俺のようなエンジョイ勢か海ガチ勢でもない限り潜水というスキルは取らないらしい。オトナシさん的には忍者なら陸でも水中でも機敏に動けなければならないため、潜水を持っているらしいが。とにかく海中で一緒に食材確保ができるプレイヤーを探していたようだ。


「手伝ってもいいですけど条件があります」

「ほんとでござるか!?」

「はい。手に入れた食材は俺とオトナシさんで半分ずつにすること。それと俺は海中の探索をするつもりでここにきたので、それも手伝うこと。この条件を呑めるなら協力しましょう」

「その条件なら、喜んで受け入れるでござる! いやー、本当にありがとうでござる!!」


 海中探索もソロより味方がいた方がいい。食材に関しては気配察知を利用してコトウノスナガニを乱獲すればどうにか持ちそうな気もするが、同じ食材ばかりだと飽きるしね。ここはオトナシさんの個性強めのロールプレイにはできるだけ触れずに協力していきたいと思う。



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