第159話 一日目の成果
「へぇー、ここに住むことになるんだ~」
拠点となる洞窟の近くの茂みで見つけた採取ポイントで野草を取っていると、妻の声が聞こえた。どうやらイッテツさんたちが洞窟へと帰ってきたようだ。
「みんなおかえり」
洞窟の前まで戻ると、みんなの姿が見えたので声をかける。
「あっ、ハイト! ただいま!!」
「ただいまです」
「ハイト……ただいま」
妻が最初に返事をしてその後に他のメンバーからも声が返ってきた。しかし、ユーコさんの姿が見当たらない。
「ユーコさんはどこへ?」
イッテツさんに尋ねる。
「あー、それがその……中に壁画があると話したら、走って洞窟に入っていってしまって」
苦笑いをするイッテツさんは洞窟の方を見ていた。
「なるほど。まぁ、中には魔物はいないし、大丈夫でしょう。とりあえず今日の収穫等の話もありますし、僕たちも奥へ行きましょうか」
俺が先導して洞窟の中へと入る。そして松明で通路が明るくなっているところまで進むとユーコさんがいた。真剣な表情で壁画を見ている。
「あらっ、みんなきたのね」
一瞬、チラッとこちらを見てそう口にすると視線を再び壁画へ戻す。
「あちゃ~。これはしばらく動きませんね」
イッテツさんが何かを諦めたような表情でそう零した。
「だったら、ユーコさんはこのままにして他のメンバーで今日手に入った情報の整理でもしましょうか」
「あっ、ならその間に私はご飯作るね! 持ち込みアイテムとして包丁を持ってきてるから」
「うん、任せるね。これ俺が採取した野草だから使って」
俺は二種類のアイテムを妻へと手渡した。
コトウノシソ
レア度:1 品質:中
第一回夏イベントで訪れる島に自生しているシソ。
普通のシソよりも香りが強い。
コトウノタケノコ
レア度:2 品質:中
第一回夏イベントで訪れる島に自生しているタケノコ。
旬は普通のタケノコより遅い八月。
海が近い場所に生息するためなのか、少し塩味。
「ありがと! よーし、私たちが取ってきたボアと一緒においしく調理しちゃうぞ~」
妻は料理をするために洞窟の入り口付近へと移動した。
「じゃあ、こっちは情報の整理ってことだけど……ミミちゃんたちの探索はどうだった?」
俺とイッテツさんはほとんど一緒に行動していたので、情報交換する意味はあまりない。よって先に別行動していたミミちゃんに今日はどうだったのか尋ねた。
「まず、うみのよこ、歩いたけど……何もなかった」
「やっぱり海岸沿いで食料を手に入れるのは難しいのか。海に潜るか、釣りでもすれば可能性はあるのかな?」
「魚が獲れるかどうかは、明日以降確認必須ですね」
「俺が潜水のスキル持ちなので任せてください」
海に潜っての食料調達は俺がやると申し出た。潜水スキルがあるかないかではかなり水中での動きに差が出るからね。従魔を連れてこられるなら、マモルと一緒に魚獲りに挑戦できたんだけど。今回はいないから一人で潜るしかない。
「それで海岸を調べた後、ミミちゃんたちはどこに行ったの?」
ミミちゃんが話を続けて良いのか分からないといった感じの表情をしていたので、話す
ように促す。
「つぎは……ちょっと山を、のぼった」
なるほど。俺たち同様海岸から島の内側へ進んだのか。
「そこでボア、みつけた」
俺たちはオオヤシガニとの戦闘後、一切魔物と遭遇することはなかった。
俺は魔法が使えるし、とっておきのスキルもあるから戦闘になっても大丈夫だった。でも、イッテツさんが武器なし魔法なしでできる限り戦いたくなかったため、魔物と会わなかったのはある意味運が良かったのかもしれない。
「それで三人で倒したんだ?」
「そう。お母さんとリーナが、まほうつかって……くーちゃんがパンチした」
ミミちゃんは両手で抱えていた熊のぬいぐるみを自慢げに見せてくれた。実に子供らしい仕草で癒されるな。
「ミミちゃんもくーちゃんもすごいね!」
「うん、ありがと」
この後もミミちゃんサイドの話を聞いていたが、ボアの発見以降は特に目立った収穫はなかった。俺とイッテツが何をしていたのかも、簡単にミミちゃんへ伝えた。するとイッテツさんが何か思い出したように声を上げる。
「あっ、そういえば! ハイトさんと別れた後、少しですけど鉱物が見つかったんですよ」
コトウノテッコウセキ
レア度:2 品質:中
第一回夏イベントで訪れる島で採掘できる鉄鉱石。
これを素材に武器を作れば何か良いことがあるかも……?
「鑑定内容からして何かありそうですね。イベント特効的なものが付くのかな?」
「ハイトさんもそう思います? 俺もそういった効果がつくんじゃないかなと思ってたんですよ」
まぁ、イベント特効のアイテムや武器ってゲームのド定番だしね。
「うちのメンバーだとハイトさんが近接武器を使うから、最初に剣を打ちましょうか」
「いや、その前にイッテツさんの武器でしょ! オオヤシガニと戦った後、自分が悲鳴を上げたこと忘れたんですか?」
「えっ、あー、確かに。でも、いいんですか? 俺は生産寄りのビルドにしているので、武器が手に入ってもそこまで役に立たないかもしれませんよ?」
「そこはまぁ、また新しい鉄鉱石を見つければいいかなって――――あれ? ピッケルなしでどうやって鉱物を手に入れたんですか?」
イッテツさんが持ち込んだアイテムは簡易鍛冶セットだ。ピッケルを持ってくることはできないはず。
「実は、採掘ポイントのいくつかに鉄鉱石がそのままの状態で転がっているんですよ。もちろん形が悪いので武器への加工は少し面倒になりますけど」
「へえ~、そうだったんですか。なら、俺も採掘スキルは持っているので明日一緒に鉄鉱石を探しましょう。その後時間があれば海へ潜ってきます」
この後、俺たちの元に妻お手製の料理が運ばれてくる。皿は洞窟周辺に落ちている石ころから手頃なサイズのものを選んで使った。箸は適当な木の枝で。
ユーコさんはどうするのかなと思っていたら、どうやら良い匂いがしたらしく呼ぶまでもなくこちらに合流。五人でおいしい夕食を済ませたのだった。
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軽く新作の宣伝です。
<引退済みの元最強探索者、暇を持て余しチュートリアルおじさんとなる>という作品の連載も始めたので良ければ読んでみてください。
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