第158話 洞窟と壁画
「ここって、洞窟ですかね?」
イッテツさんと共に拠点探しを始めてから一時間ほど経過した頃。俺たちは奥の見えない洞穴の前に立っていた。
ここにくるまで他のプレイヤーと時々遭遇しているが、この場所では見当たらない。洞穴周辺に靴跡がないことを考えると俺たちが初めて訪れたのだろう。
「っぽいですね」
イッテツさんの予想に同意する。
「ただ、人の手が入った場所なのか、自然にできた場所なのかは中へ進まないと分かりませんけど」
「じゃあ、とりあえず入ってみます?」
薄暗い洞窟の奥は入り口からでは見ることができない。そこに何があるか確かめるために俺たちは足を進めることにしたのだった。
二人で中に入ってみたはいいものの、真っ暗で先に何があるかは全く分からない。
どうしたものかと俺が考えていると、いつの間にか俺より奥へと足を進めていたイッテツさんが声を上げる。
「ハイトさん、これ!」
何事かと思いイッテツさんの声がした方へ近づく。壁に片手をついて暗い中を進むと徐々に進路は左へそれる。そのまま進むと突然明るい場所へと出た。
「松明ですか」
洞窟の入り口には一つもなかった松明が壁に設置されていた。
「ええ。これで奥へ進むまでもなくこの洞窟が人工的に作られたものだと分かりましたね」
イッテツさんの言う通りここは人の手が入った場所のようだ。
「そうなってくると奥は拠点として使えるようになっているかもしれないですね」
もしかしたら、現地民がいて遭遇するという可能性もなくはないが……魔物ではなく人が相手なら話くらいはできるはずだ。
「確かに。更に進んでみますか? ハイトさん」
「そうですね。いきましょう!」
どうやら真っ暗なの本当に洞窟に入り口だけだったようだ。先程の角を曲がって以降はずっと壁掛け松明に照らされている。
わざわざ入り口だけ松明がなかったのはどういう意図あったのか気になるところだ。
それから五分ほど松明を頼りに洞窟内を進むと壁に変化があった。
「これは……壁画?」
そう壁画だ。さっきまではただでこぼこした土の壁があるのみだったが、ここにきて壁のでこぼこは削られ、そこにカラフルな絵が描かれていた。
「ですかねぇ。人らしいものがいくつかと、こっちは何だろう? ハイトさん分かります?」
隣にいるイッテツさんは壁画を見ながら首を傾げる。
「う~ん…………俺も分からないですね。ただ、この人っぽいのからこのデカい奴に向けて描かれているこの線。矢だったりしません?」
壁にはイッテツさんも口にした通りおそらく人と思われる絵が複数。そしてよくわからない巨大なうにょうにょとした物体の絵が一つ。あとは人と謎の物体の間にたくさんの山なりの短い線が描かれていた。
「確かにこの短い線は矢に見えないこともないですね。そうするとこの人たちは何かと戦っているのか……」
「となるとあの大きなうにょうにょは魔物ってことになりますね。俺はこんな魔物見たことないですけど」
これまで戦ったことのある大型の魔物は基本的にボス級の魔物が多かった。つまりこの壁画の魔物も今回のイベントのボスと考えても良いかもしれない。
「これだけじゃ、意味が分からないですし……他に壁画がないか、もう少し探索してみます?」
「そうですね。ここまで魔物とは遭遇していないですし、危険度も低そうです。俺とイッテツさんで内部をくまなく調べましょう」
それから俺とイッテツさんは二人で洞窟内を片っ端から調べ尽くしたが、先程の壁画のようなイベントに関係しそうなものは見つからなかった。
もちろん現地民と遭遇する、なんてこともない。
「壁画以外にこれと言って収穫はなかったですね。イッテツさんはどうでした?」
「俺もです。でも、イベントのヒントになりそうな壁画と中に魔物がいない洞窟を見つけられただけでも一日目の成果として十分だと思いますよ!」
「そうですね。これ以上は中には何もなさそうですし、一回外に出ましょうか」
探索が終わった俺たちは洞窟の入り口まで戻る。外へ出るとかなり時間が経過していたらしく、夕日が沈み始めていた。
手が空いた俺たちは、洞窟付近で食べられそうなものを探すことにした。俺は採取スキルで食べ物を。イッテツさんは鍛冶に使える鉱物を採掘スキルを使って探していた。
一時間ほど経過し、完全に日が沈んだ頃。妻からメッセージが届いた。どうやら、あちらはボア系の魔物と遭遇して倒したようだ。その際に肉がドロップしたので、持ち帰るとのこと。彼女たちは拠点にする洞窟の場所を知らないため迎えに行かなければならない。
数は少ないものの、洞窟の周囲には採取スキル持ちなら野草を手に入れられる場所がいくつかあった。そのため肉以外の食材を確保するのに俺はここに残りたい。
それならとイッテツさんが妻やミミちゃんを迎えに行くと言ってくれたので任せることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます