第150話 モフアイさんの癖
条件付きでモフアイさんの願いを聞き入れることにした俺は経営地へマモルを呼びに帰った。1往復するのにそれなりに時間がかかるため、できるだけ早く経営地用の転移クリスタルを手に入れたいものだ、などと考えながらも道中遭遇した魔物を倒しつつ進んだ。
経営地についた際にマモルがファーレンへ行くことを嫌がるようなら、お断りすることも考えていた。だが、マモルは特に嫌がる素振りは見せなかったため、影を纏った状態でついてきてもらうことにした。
「お待たせしました。この子がモフアイさんの会いたがっていた従魔のマモルです」
先程、イッテツさんとモフアイさんに会った場所へと戻った。
今、マモルには隣でおすわりの状態で待機してもらっているのだが……モフアイさんの視線はさっきからそちらへと向いている。それこそ合流した瞬間からずっと。せめて話しかけている間はこちらを見てくれてもいいだろうとも、思わなくもないがそれだけ魔物が好きなのだということで気にしないようにしておく。
「あ、あのおさわりよろしいでしょうか!?」
モフアイさんがワクワクした様子で両手の指を細かく動かしながら、マモルへ1歩近づいた。するとマモルはかつてないほどの速さで2歩後ずさる。
しかし、モフアイさんもそう簡単には諦めない。俺から制止がかからないから大丈夫だと思ったのか、再びマモルとの距離を詰めた。
「――――あっ」
マモルはこれまでにないような反応を見せた。さっきまで太陽の光から身を守るためだけに使っていた影の一部を槍に変形させてモフアイさんの眼前に突き出したのである。
「ひぃ!?」
もちろんマモルもやって良いことと悪いことは区別できるので、そのまま攻撃するわけもなく寸止めで終わった。だが、これまで人に対してここまで拒絶することはなかったため、正直俺は驚いていた。
「マモル、落ち着け。嫌なのは分かったから」
モフアイさんは後ろに倒れて尻もちをついたようだが、ゲーム内だし問題ないだろう。だが、これ以上のことをマモルがするとまずい。俺は一旦なだめることにする。
しゃがんで頭を撫でながら、しばらく話してやるとマモルは落ち着きを取り戻して影の槍を消した。
しかし、どうしてマモルはあそこまで過剰に反応したのか。ただ、触ろうとしただけでは決してこのようなことはしない。俺やリーナはもちろんイッテツさん、ミミちゃんにも嫌がる素振りなく触れさせてくれる。いったい俺たちとモフアイさんで何が違うのか…………彼女は魔物が人一倍大好きで悪意なんてもってないだろうし。
「モフアイさん大丈夫ですか?」
俺がマモルのことで頭がいっぱいになっているのを察したのか、イッテツさんが転んでいるモフアイさんを起こした。
「こ、怖かったですけど、大丈夫です! 私の魔物への愛情はこの程度ではなくなりません。マモル君と肌と肌で触れ合えるなら、この程度の試練なんということはありませんから!!」
ん?
もしかしてこの人の魔物好きって、ペットに向ける感情ではなく異性に対しての向けるような意味での好きなのではないだろうか。流石に今の言い回しは、ただの動物好きのレベルを超えている。だけどもしそうだとすれば、マモルは初めてプレイヤーから欲情されたことになる。それを気持ち悪いと思い自己防衛本能が働いた、なんていうこともあるかもしれない。
確かめてみるか。
「モフアイさん、その……好きって人間の男に向ける好きとかそういうのと似た感情だったりします?」
「えっと、それってどういう意味ですか? 私、リアルでも人を好きになったことがないのであまり分かりません」
「あ~。じゃあ、魔物対して欲情しますか?」
「はい! もちろんです!! 四肢を押さえつけられて、体を蹂躙されるのを思い浮かべるだけで胸がジンジンしてしまいます」
モフアイさんの発言を聞いたイッテツさんが口をぽかーんと開けたまま固まってしまう。まさか彼女がただの動物好きではなく異常性癖の持ち主であるとは想像もしていなかったのだろう。
「なるほど。でしたら、さっきのはきっとそういう感情を向けられたことが嫌だったのだと思います」
「いっ、嫌ですか…………」
モフアイさんは途端に落ち込んでしまう。その様子はまさに失恋した者の姿そのもの。放っておけば今にも泣き出してしまいそうな雰囲気まである。
「ハイトさん、ちょっとまずいですよ。ここでモフアイさんが泣いちゃったら、この場にいるほとんどの人から注目されるかもしれません。ただでさえマモル君が珍しくて視線が集まっているのに、これ以上はまずくないですか?」
「確かに。これは一旦、目立たない場所に移って話をした方がよさそうですね」
「ええ。そうしましょう」
俺たちは人目を避けるため、路地裏へと移動した。
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