第149話 魔物好き
「お待たせしました。イッテツさん」
「いえいえ。俺も今きたばかりなので」
「お相手の方は――――」
「まだですね。約束の時間までまだ少しありますし、気長に待ちましょう」
ゲームにログインしてすぐ、俺はイッテツさんの店を訪れた。今日、俺はイッテツさん立ち合いのもとモフアイさんとゲーム内で会うことになっている。
話を聞く限り、相手の目的はマモルだろう。
先輩冒険者のガストンさん曰く、骨狼は別のフィールドで登場するらしい。だが、俺たちが攻略したところで鉢合ったことはないため更に先で出現するものだと思われる。一応、定期的に新種の魔物について書き込まれる掲示板を覗いたりもしているが、骨狼に関しては未だ報告はない。おそらく攻略組がいる場所よりも更に先、もしくは彼等が主に攻略している方角とは別方面のフィールドにて出現するのだろう。
おそらくそんなレアな魔物に興味があるということだと思っている。
俺はガストンさんとの雑談で骨狼について情報を得ているが普通のプレイヤーはそれすらないだろうからね。
ちなみに骨狼は不死系統の魔物であるためそういった魔物が現れるフィールドを攻略していけばいずれ出会うのではないだろうかと考えている。
ただ、このゲームでゾンビやマミー等々の定番の魔物と遭遇したらきっとかなり怖いはずだ。何せ、感覚がほぼリアルと変わらない状態で腐った死体や全身包帯まみれの干乾びた死体と相まみえることになるのだから。
実際、そういった事情で見た目が醜い不死系統の魔物が出現するフィールドの攻略は他より遅れることが多々あるらしいし。
一応、グロ表現をマイルドにする設定も存在するのだが、怖がりな人間にとってはそれでも耐えられるものではないとの噂だ。あと腐敗臭とかもきついらしいので、見た目に耐えられてもなかなか厳しいらしい。
そう考えると同じ不死系統でも、骨身で特に臭くもないマモルとパルムは従魔にするのにもってこいだったんだなぁ。どうやら俺は引き運が良い方ならしい。
「すみませ~ん! お待たせしました!!」
イッテツさんと他愛ない話をして時間を潰していると、女性の声が聞こえる。そちらを振り返るとショッキングピンクのボブヘアーを揺らしながら走るヒュームの姿が見えた。
「こんにちは、モフアイさん。こちらがあなたが会いたがっていたハイトさんです」
「はじめまして。ハイト・アイザックと申します」
「はじめまして! わたしはモフアイと言います。テイムしている従魔はスライムのぷらぽりりん、レッドボアのちょっとつん、マーマンジュニアのぼくくん、それからスモールラビットのひよこちゃん、それからそれから――――」
挨拶を交わした直後、モフアイさんのマシンガントークが始まった。彼女の従魔の紹介から始まり、お気に入りの魔物やそれらの特性。また今日フィールドで見かけたレッドボアに他の個体よりも可愛かった子がいたなど。とにかく色々言葉が飛んでくるのだが、そのどれもが魔物に関してだったため、素直に俺はすごい熱量だと思った。
「……すみません。つい話続けてしまいました」
俺とイッテツさんはしばらくの間、聞き手に徹していた。気を遣ったというのももちろんあるが、それ以上に彼女がとても楽しそうに話すものだから止めたくないと思わされたのである。
「いえいえ。気にしないでください。それにしてもモフアイさんは本当に魔物が好きなんですね」
「はい! もちろんです。子供の頃から魔物とかモンスターが大好きで、そういうのが出てくるゲームばかりしていましたから。読む本も昔からテイマー系のラノベばかりでしたし!」
「筋金入りですね。それならフリフロでテイマーができるって分かったときはかなり嬉しかったんじゃないですか?」
「それはもう! 嬉し過ぎて初回生産限定盤の抽選の当落を知ってからテンションが上がり過ぎて、寝不足の日々が続くくらいには喜びました!!」
「それは……かなりの重症ですね」
こうやって会話しているとモフアイさんという人が少しだけ分かってきた。重度の魔物好きである。まぁ、このくらいの人じゃないとわざわざテイマー掲示板に魔物の情報を逐一書き込んだりできないよな。
「おふたりとも上手く打ち解けられたみたいですね。引き合わせた身としてほっとしました。交友を深めるのも良いですが、そろそろ本題に入ってみてはどうでしょう?」
「あっ、そうでした。モフアイさんはどうして俺に会いたかったんですか?」
だいたい理由は予想できているが、それが合っているのか本人の口から聞かなければ。
「実はハイトさんが骨の大型犬? 狼? みたいな子といるのを昔見ちゃいまして。これまでに見たことない子だったので、是非会わせて頂きたいなと。わたしはそれなりにフィールドの攻略もしたんですけど、あの子の同種とは未だに出会えてなかったので……どうにかお願いできませんか? あっ、もちろんステータスとかについては秘密で大丈夫ですし、誰にも言うなと言われればその子とハイトさんについても絶対に口外しません」
やはりマモル目当てだったらしい。
彼女の魔物好きがかなりのものだというのは十分伝わってきたし……会わせてあげるくらいならしてもいいか。
これまでに俺とマモルがセットでファーレンを歩くこともそれなりにあったので、モフアイさんが秘密にしたところで感はある。だが、せっかく提案してくれたわけだし、その条件のもとマモルと合わせることにしよう。
「分かりました。では、その条件で。今から従魔をここに連れてきますので、しばらくイッテツさんと待っていてください」
俺はマモルを呼びに経営地へと走るのだった。
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