第147話 ミコリコのアクセサリーショップ
夕日に照らされるファーレンの中をミミちゃんの案内で進む俺たち。転移クリスタルのあった広場から移動すること10分。ついに目的の店の前へ辿り着いた。
――――ミコリコのアクセサリーショップ。
店の入り口に掲げられた看板にはそう書かれていた。おそらく店名だと思う。店主さんはミコリコという名なのだろうか。
外観はファーレンにある他の建物と似たようなレンガ造り。ミミちゃんのお店のように周囲との違いで目立ったりすることもなく風景の一部としてしっかり馴染んでいる。ただ、店名の書かれた看板はこだわりがあるのか、イヤリングやブレスレット、リングなど様々な絵も描かれていた。まぁ、それが手描きなのでオシャレというより子供が作ったみたいでかわいい雰囲気が醸し出されている。
「ここ。ミコちゃんの、お店」
「店主さんはミコさんって言うんだね~。仲良くなれると良いなぁ」
「ミコちゃん、元気。リーナと、似てる。だから大丈夫」
「それならよかった。よ~しっ。じゃあ、早速入っちゃお!」
アクセサリーを見れるということでテンションが上がった妻はミミちゃんを追い抜かし、先陣切って店の中へと入っていった。
「お邪魔します」
数秒遅れて店内に入るとすぐに商品が目に映った。大きな木製のテーブルが4つ並んでいて、そこに種類別でアクセサリーが並んでいる。主にブレスレット、アンクレット類。ネックレス類。ピアス、イヤリング類。そして指輪類だ。
俺は商品から一旦、目を離して周囲を観察する。床や壁は木でできており、とても温かみのある店内。高級なアクセサリーを取り扱っている店というより、個人でやっているハンドメイドのお店みたいな感じ。
「店主さん、見当たりませんね」
イッテツさんが近くにあったピアスを見ながら言った。
「もしかしたら急用で出かけちゃったのかもしれませんよ」
「それはないんじゃないかなぁ。俺も店をやっているから分かるんですが、どんな急用でも店に人がいなくなるときは入り口にcloseの看板かけるんですよ」
イッテツさんが言うにはそうすればこのゲームでは絶対に盗人に入られなくなるらしい。反対にそれを忘れて店主が店から出ると一定確率で泥棒が現れるとか。
それをきっかけに始まるクエストなんかもあるらしいが、見返りが大きくないという情報がすでに店を持つプレイヤーの間では広がっているため、戸締りはしっかりとするのが基本らしい。
NPCの場合は自身の生活が懸かっているのだから店を留守にするときは当然鍵をする。なので何か事件でも起きない限り、このような状況にはならないと思うというのが彼の意見だった。
「イッテツさん心配しているんですね」
「ええ。まだ話したことはありませんが、ミミちゃんのお友達ですから」
ミミちゃんは自身の母もしくはイッテツさんと共にゲームをしている。これまでここへくるときは彼女の母が付き添っていたためイッテツさんは店主と面識がないらしい。
「たぶんですけど……そこまで心配する必要ないと思いますよ」
「それはどういう意味ですか?」
俺の発言の意味を理解していない彼は、怪訝な表情を浮かべる。
「たぶんですけど、ミコさんは店の奥にいるんだと思います。理由はおそらくイッテツさんと同じですね。作業に没頭して客が入ったと気づいていないのでしょう」
店に入ってからずっと、店のカウンターの奥から微かな音が聞こえていた。鍛冶作業のような大きな音はしないため何をしているのかまでは分からないが、店内に俺たち以外がいるのは確かだ。
俺は聴覚強化というスキルを持っていたから気づいたが、他のメンバーはそんなスキルを持ち合わせていないため気づかないのも仕方ない。
「……職人なら確かにその可能性はありますね」
自身が以前、俺たちの来店に気づかず、しばらくの間鍛冶をし続けていたことを思い出したのだろう。少し恥ずかしそうな顔をしたイッテツさんは小声で俺の言葉を肯定した。
「ミミちゃん、イッテツさんと一緒に店の奥にそのミコさんがいないか確認してきてくれないかな?」
「いいよ。イッテツお兄ちゃん、いこ」
ミミちゃんはイッテツさんを連れてカウンターの奥へと入っていった。
「俺たちはアクセサリーでも見て待ってよっか」
「そうだね――――あっ、そうだ。いいこと考えた。せっかくだし、ハイトに似合うアクセサリー私が選んであげるよ!」
「いいの? ありがとう」
「任せて。その代わりに私の分はハイトが選んでね!」
妻はセンスが良いのでアクセサリー選びを安心して任せられる。
ただ、俺自身のセンスは悪くはないが良くもないと思う。なので、彼女に似合うアクセサリーを選ぶことができるか心配だなぁ。
ん? そういえば同じようなことを前にも考えた気が…………あー、リアルで彼女にネックレスを誕生日プレゼントとして渡したときだ。結婚指輪のときは2人で選んだから大丈夫だったけど。まぁ、あのとき別の緊張感があって――――って今は関係のない話だった。
とにかく俺は自分のセンスにいまいち自信がないわけだが、精一杯妻に似合うものを選べるようがんばろう。
「わかった。でも、気に入らなかったらちゃんと言ってね。また別を探すから」
ミミちゃんたちが戻ってくるまでじっくりと商品を見させてもらおう。
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