第146話 ミミちゃんの嫌いな食べ物
各々、屋台や出店で食べ物を買ってきた俺たち。一通りものを揃えて妻が買いに行った焼き鳥の屋台の近くに集合した。
流石にそこで立ち食いするのは屋台に迷惑なので、イッテツさんの案内で近くの広場へと移動する。
大きなクリスタルが中心に飾られている円形の広場。
つい最近、ゲームを始めた初期装備のプレイヤーから俺たちのようなサービススタートから遊んでいると思われる良い装備に身を包んだプレイヤーまで沢山の人間で賑わっていた。
「あれって、もしかして転移クリスタル?」
「そうですよ。実はこの広場は今回のアプデと共に新たに追加された場所なんです」
「へえ~。イッテツさん物知りですね」
「まぁ、おふたりと違ってファーレンに住んでますから。そこらへんの情報はすぐに入ってきますよ」
ひと際目を引く紫紺のクリスタル。確かにあれがそうなのなら新規と熟練者どちらもここに入り混じっている説明がつく。
新規プレイヤーたちはまだ遊び始めたばかりなのでファーレンを探索しているのだろう。
攻略に熱を注ぐ熟練のプレイヤーたちの方は転移クリスタルができたことによって、簡単に最初の町へと帰還することができるようになったことを上手く利用。攻略最前線だと高いが、ファーレンだと安く手に入れられるものなどを購入しに戻ってきているのだろう。後は新規の中に将来有望な者がいないか、見定めにきている人もいるかもしれない。
情報屋をやっているシャムさん辺りは特にこのシステムの追加は嬉しいだろうな。色んな場所を飛び回るのに便利だし。
「それより、お腹へった」
妻とイッテツさんが転移クリスタルについて話していたところへミミちゃんがひょこっと顔を覗かせた。
このゲームには満腹度というものが存在するものの、本当に空腹を感じることはほぼない。感覚的に満腹度が20%を切るとあっ小腹空いたかな? くらいの感覚にはなるけど。だからミミちゃんが言ったお腹が減ったっていうのはたぶん買ってきたご飯を早く食べたいっていう意味だと思う。
「あっ。ごめんね、ミミちゃん。私も食べたいから焼き鳥買ってきたのに、クリスタルの話をしているうちに忘れちゃってた」
「それじゃあ端の方にいくつかベンチ並んでるみたいだし、そこで食べようか」
「うん」
妻とイッテツさんもミミちゃんの気持ちを察してすぐにベンチへと移動することとなった。
空いているベンチは1つだったので、ミミちゃんを座らせることに。隣にもう1人座れるスペースがあったので3人で譲り合いをすることとなる。最終的にはミミちゃんの保護者であるイッテツさんに隣へ座ってもらうことになった。
「いただきます」
ミミちゃんが早速料理に手を付ける。
最初に口へ運ぶのは妻が買ってきた焼き鳥である。妻が店主に聞いた話だと穏やかな草原の先にあるフィールドに出る魔物からドロップする肉を使ったものらしい。
「……おいしい」
どうやら満足できる味だったようだ。ミミちゃんの口角が少し上がっている。
「私たちも食べよっか」
俺も妻からももの焼き鳥を1本受け取って口へ運ぶ。
……うまい。
ジューシーな鶏肉とほのかに香る炭の匂い。そして濃厚な甘いタレ。定番の味付けだが、それ故に安定している。
チラッと妻の方を見ると彼女も味に満足しているらしく満面の笑みで焼き鳥を頬張っていた。
ん? 右手に1本。左手に1本ってもう2本目に手を出しているのか……。
「ミミちゃんこっちもどうぞ」
いつの間にかミミちゃんが焼き鳥を食べ終えていたので、串を受け取る代わりに俺の買ってきたポテトサラダを差し出す。
「…………おやさい」
しかし、彼女はそれを受け取らなかった。泣きそうな顔になり、イッテツさんの方を見る。
「イッテツさん、もしかしてミミちゃんって野菜が苦手なんですか?」
「そうなんですよ。現実だと渋々食べるんですけど、こっちだと食べないといけない理由もないので絶対に口にしないんです」
子供の野菜嫌いは良くある話だ。
まぁ、ゲームの中だし無理させる必要はない。ポテサラは大人3人で食べてしまおう。
「じゃあ、これは3人で分けましょうか」
「そうですね。あと、ミミちゃんリクエストで買ってきたラニットアユ? っていう魚の塩焼きも人数分あるんで分けますね」
「ハイト、ラニットアユって――――」
「うちの経営地でも取れるやつだね。そういえばあんまり食べてないからもしこれが美味しかったら、今度料理して欲しいな」
「うんっ! おいしいの作れるようにしっかり味わって食べよっと」
焼き鳥にラニットアユの塩焼き、それからポテトサラダ。4人でたわいもない話をしながらゆっくりと食べた。
ポテトサラダはじゃがいもやきゅうりといった野菜も味が良かった上マヨネーズの分量も程よくリピートしたいと思わせてくれるものだったため、あの兎獣人の少女のお店の話をしてイッテツさんに宣伝もしておいた。他にも様々なサラダの種類が取り揃えられていたことを伝えると、彼は嬉しそうに今度行ってみますと返事をしてくれた。
「ゆっくりしてたら、結構時間経っちゃったねー」
「そうだね。ミミちゃん、そのお友だちのお店ってまだ開いてる?」
妻の言う通り、なんやかんやでもう時間が経過して夕方になっていた。
「うん、大丈夫。夜まで、やってるから」
「よかった。じゃあ、そのお店に行こうか」
満腹になった俺たちは、今度こそミミちゃんの案内で装飾品店へと向かうのだった。
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