第145話 サラダのお店


 以前、訪れた際、ミミちゃんのお店に並ぶ商品は頑丈な石製のものやボア皮を使用したものが多かった。鉄製品も店内に並べられていたものの、その数はやや少なめであった。だが、今日改めて店内を見て回ったところ並べられている商品の半数以上が鉄製になっている。彼女も会わないうちに生産者として沢山活動しているのだと感心し、サブ職に生産系である見習い錬金術師を入れている身としてはもっと戦闘以外のことにも力を入れないとなと刺激を受けた。


 明日にでも見習い錬金本に載っているアイテムをいくつか作製してみよう。できれば、これまでに作製したことのないアイテムを作りたいな。

 それと転移クリスタルを使えばファーレンからフェッチネルまで一瞬で移動できるみたいだし、またレベリングに向かう可能性を考慮して低級ポーション(アップルン風味)を作り足しておかないと。未だにあれの作製にはかなりの集中力が必要だし、10回やったら4回くらいしか成功しないので材料費がかさむけれど、必要経費なので仕方ない。とはいえ、俺の所持金は少し心許なくなってきているので、どこかで稼がないといけないね。


「おまたせ」


 1人で明日の予定を考えていると店じまいをしたミミちゃんから声がかかる。妻とイッテツさんも出かける準備はすでにできているので、そのまま出かけることになった。


 レンガ造りの家々が建ち並ぶ町中を進む。


「ミミちゃん、お友だちのお店に連れて行ってくれるって言ってたけど、何屋さんなの?」


 イッテツさんと手を繋いで歩くミミちゃんに、妻が問う。


「アクセサリー、とか、作ってる」

「そうなんだ! 私たちまだ装飾品装備してないし、かわいいのがあったら買いたいなぁ~」


 経営地やエルーニ山を中心に生活している俺たちは、ファーレンを訪れることはあっても目的を終えるとすぐに帰ることが多かった。特に必要に迫られることもなかったため、装飾品の購入をする機会がなかった。なので今回は良い機会だし、俺もピアスかネックレスでも買いたいところだ。

 それと俺は未だに頭の装備もしていないので、そちらも探したいところだ。妻はいつの間にか魔女っぽい帽子を買っていたしね。今は黒兎のローブとは合わないからと外しているみたいだけど。


 でも、俺は帽子被ったりするの実は苦手だし、良いアイテムないものかなぁ。


 だいぶ距離感が近くなってきたミミちゃんと妻は楽しそうに会話をしながら進む。その様子を見てイッテツさんは嬉しそうにニコニコしている。


「あっ、屋台だ」


 ふと視線を道の端に向けるといくつかの屋台が並んでいた。確か、ここはゲームを始めた当初俺たちがフライドラビットを頻繁に買っていた屋台や出店がある地域だ。


 揚げ物、果物、お惣菜。プレイヤーも出店することが増えたからか、以前よりレパートリーが増えている。


「ほんとだ。あっ、焼き鳥! ハイト、ちょっと買ってきていい?」

「良いね。じゃあ、俺はあっちでお惣菜でも買ってこようかな」

「それなら俺もミミちゃんと一緒に何か探してきますね」

「了解です。じゃあ、買い物が終わったらそこの焼き鳥の屋台の隣に集合で」


 俺たちは一旦、解散して各々が食べたいものを買ってくることになった。


 さてと、俺は何を買おうかな。妻は焼き鳥を買うと言っていたし、違うのにするのは決定だけど……。

 とりあえずいろいろ見て回るか。


 1番近くにあった出店を覗く。

 様々な野菜や果実が並べられていた。


 熟したアップルンやクルーミー、ラニットペアーといった見知った果実が並んでいる。味付きの低級ポーションを作るときに必要になるから、ついでに買っておくか。

 店員のNPCからそれぞれ10個ずつ購入。これで明日の錬金術の素材を確保できた。


 そして本来の目的である惣菜探しに戻る。

 いろいろ物色していると、急に声をかけられた。相手は兎の獣人だ。


「そこのお兄さん! お昼ご飯にどうですか?」


 もう太陽は真上を過ぎているが、まぁギリギリお昼ご飯の時間ではあるか? 別にお昼ご飯のつもりはなかったが、食べ物を求めて歩き回っていたわけだしちょっと寄っていくか。せっかく声をかけてくれたんだし。


「へえ~、ポテトサラダに野菜スティック。コールスローか。見事に野菜系で統一されてるんですね」


 見本として置かれているものを見るも肉や魚料理は一切ない。肉好きの俺としては少し物足りない。でも、妻が焼き鳥を買ってきてくれるのだし丁度いいか。


「気づいちゃいました? 実は私、リアルでも肉と魚がダメで。五感を限りなく再現されているからこっちでも同じなんですよ。だからポテサラもベーコンは入っていません。一応、肉料理の作製にチャレンジしたことはあるんですけど、やっぱり自分が嫌いなものを作っているからか品質の悪いものしかできなかったんですよね。でも、普通の人からすればやっぱり野菜だけじゃダメですかね…………」


 プレイヤーの店員から野菜しかおいていない理由を聞かされた。リアルに近い五感を再現する機能がマイナスに働いくこともあるんだなぁ。


「ダメってことはないと思いますよ。同じような人はきっと他にもいるでしょうし。サラダ系だけでも極めればそういうお店として人気が出るかもしれないじゃないですか!」


 目の前で白いうさ耳をぺたんとへたらせて落ち込む様子が可哀想だったので、つい励ましの言葉を口にする。


「……そうですかね?」

「ええ、だからがんばりましょう! ってことで、俺も何か買っていきますね。じゃあ、今日はポテトサラダを2人前ください」

「あ、ありがとうございます!」


 店員がアイテムボックスから取り出した料理を受け取り、すぐに俺のアイテムボックスへと収納する。そして代金を渡す。


「それじゃあ、また」


 彼女の今後は少し気になるので、たま~に覗きにくることにしよう。妻たちにもしっかり紹介して宣伝しておいてあげようかな。



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