第140話 お風呂?


 最後に妻から案内してもらうのは風呂だ。先導する妻の後ろを追うが、クランハウスからどんどん離れていく。日の照り返す湖を通り過ぎて経営地の端の方へと。


「……もしかしてあれがお風呂?」

「そうだよ~」


 視界に入ったのはクランハウスより少し小さいサイズの平屋だった。そして入り口には【ゆ】と書かれた暖簾がかかっている。


「いや、あれって…………お風呂というより銭湯じゃないかな」

「やっぱりそう思う?」

「うん。どう見てもそうだね」

「私も初めてみたときはびっくりしちゃった。聞いた話によるとアネットさんが暴走したみたい」


 あ~、なるほど。確かにアネットさんお風呂に執着ありそうだったしね。今のところこれ以上建物を増やすことも考えていないし、まぁいいか。色々と師匠にはお世話になってるし、このくらいなら。

 今まで来客はほとんどなかったけど、フリフロを続けているうちに誰かくるようになるかもしれないしね。経営地の開発はひと段落ついたし、そのうちイッテツさんやミミちゃんを招待してもいいかもしれない。


 それはそれとして。俺は1つ気になったことがある。

 ファーレンやフェッチネルの外観を見たところ少なくともこの国は日本を元に作られてはいない。確か昔の西洋にも大衆風呂みたいなのはあったって聞いたことはあるけど、これはどう見ても日本のものをモチーフにしている。

 それなのにどうしてアネットさんがこれを建てることができたのだろう。もしかしたら日本をモチーフにした場所があって、昔行ったことがあるとか、実はそっちの国出身だったとかそういう話があるのだろうか。今度会ったときに聞いてみたい。


「一応、ハイトが湖畔の景色が好きなのは知ってたからできるだけ湖から離して作ってくれたみたいだけど」

「そこはちゃんと考えてくれてたんだ。まぁ、できてしまったものは仕方ない。どんなお風呂になってるのか、中も見てみよう」


 妻と一緒に暖簾をくぐると、下駄箱があった。適当なところに靴を置いて奥へ進む。


「男と女は分かるけど、魔って何?」


 普通の銭湯なら男湯と女湯に分かれているだけだが、この平屋にはもう1つ魔と書かれた暖簾が垂れている入り口があった。


「それは従魔たちを連れ込んでも大丈夫な混浴風呂だよ。私がすらっちやスラミンとお風呂に入りたいって話したら作ってくれたの」

「へぇ~、混浴か」


 確かこのゲームって子供もプレイするから全裸とかって見えないようになってなかったか。混浴したときはどうなるんだ?


「ハイト、今エッチなこと考えた?」


 突然、妻にニヤニヤした顔で問われた。


「へ? いや、全然。ただ単純な疑問として混浴したら全部見えるのかなって思っただけだよ」

「それってエッチじゃない?」

「エッチなのか」

「微妙なラインだね。ちなみに混浴風呂に入ると強制的にバスタオルか水着が装着されるらしいよ。私たちは水着をアイテムとして持ってないからたぶんバスタオル姿になるんじゃない?」


 なるほど。それならたぶんバスタオルはガッチガチに巻き付いて何しても取れない仕様になってるんだろうな。


 それにしても水着ときたか。夏イベントが近いし、そのタイミングで入手できるのだろう。おそらく何種類か実装されるだろうから、今から妻の水着姿が楽しみだ。


「じゃあ、1回試しに入ってみる?」


 俺が水着について考えていると何故から妻から混浴しようと誘われる。


「いいよ。せっかくなら従魔たちも誘おう」


 というわけでプレイヤー2人とお風呂を希望した従魔たちで混浴することになった。


 しかし、俺はお風呂へ入る前にやることがある。火魔法で水を温めるのだ。妻からシャワー用の水が貯められているタンクの場所を教えてもらったので、そこまで行きウォームを何度か発動。そしてお湯が出来上がったので魔の暖簾をくぐった。


「あ、ハイト! お疲れ様」


 石造りの床を歩いて中に入ると妻がこちらに気づいた。


「ありがと。でも、このくらいなんてことないよ」

「いや~、それにしても外から見た以上に広くて嬉しいなー!」


 バスタオルを巻いた姿で妻が大はしゃぎしている。

 自身の従魔であるすらっちとスラミンを抱いて跳ねている姿はなんとも可愛らしい。


 うちの従魔で入浴を希望したのはマモルとパルムの2体。バガードは翼が濡れることを嫌い、バク丸はまだまだ虫が食い足りないらしい。

 今回は日頃の労いを込めて、俺はマモルとパルムの背中を流すことにした。


「ねえねえ、ハイト! ダークエルフにバスタオルって意外とありかも」


 シャワーを軽く浴びた俺が石鹸でマモルたちの体を洗い始める。すると何故か妻が隣にきて興奮した様子で体を見せつけてくる。


 小麦色の肌を包む真っ白なバスタオル――――。


「うん。悪くない」

「えー、良いって言ってよぉ~」

「それよりも腕の中の子たちがつぶれかけてるけど大丈夫?」


 妻がスライムを抱きしめている腕に力が入り過ぎている。そのせいで小麦色の豊かな双峰と2体の従魔がぎゅうぎゅう詰めになってしまっていた。


「あっ! ごめん、すらっちとスラミン。痛かった?」


 俺の指摘でハッとした妻はすぐに腕の力を緩める。するとスライムたちは体をフルフルと揺らしてみせた。


「大丈夫みたい」

「よかったね。なら、リーナたちも体洗っちゃいなよ。もうちょっとでうちの子たちは洗い終わるから先にお湯に入るよ?」

「えっ、一緒に入りたいから待ってて! よし、じゃあすらっちもスラミンも私があわあわにしてあげるから覚悟してね」


 妻は楽しそうに泡まみれのスライムたちを揉みしだくのだった。



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