第141話 知らないソファ


 風呂からあがった俺たちは共有スペースでまったりとくつろいでいた。

 ソファに腰かけ、足元にいるマモルの背を撫でる。最初は骨身の体がごつごつしていて少し変な感じがしたりもしたが、今ではそれが心地良いと思えるようになっていた。

 隣にいる妻も、膝上に乗せたスライムをツンツンむにむにして可愛がっている。当のスライムたちは嫌がる素振りは見せずにされるがままになっていた。すらっちに関しては心地の良さを感じているように鼻ちょうちんを膨らまして寝てしまっている。


「そういえばこのソファっていつの間に用意したの? よく見ると他にもちょくちょく知らない家具も増えてるし」


 各自の部屋内部に関しては完全自費で物を揃えることになっているが、共有スペースは何か買ったりする場合は折半にしようと話していたはず。

 それなのに俺がログインしていない間に、この黒いソファの他にもなぜか獣の遺骨でいっぱいになっている小物入れ用と思われる木箱3つほど追加されていた。


「実はハイトがいない間に私けっこうがんばってレベリングしてたんだよ。そのついでに冒険者ギルドに顔を出して依頼を受けたりしてたから、お金もそれなりに手にはいちゃって。畑をやるのに必要な道具とか買ってもまだお金が余ったから勝手に買ってきちゃった」


 今はハイトよりメインもサブのレベルも高いよー、と最後に付け足す妻。とても良い笑顔で言われた。

 畑ができたからそっちばかりかと思えば、しっかり冒険もしていたのか。俺よりメインのレベルが高いってことは見習いも卒業したんだろう。これまでずっと俺の方がレベルは上だったので、逆転するのは初めてだ。置いて行かれないようにこっちもちょくちょくレベル上げしていこうかな。


「いくらぐらいしたの? 共有スペースの物は折半って約束だったし払うよ」

「そんなに高くなかったから大丈夫だよ」

「ほんとにいいの?」

「うん! 気にしないで」

「じゃあ、お言葉に甘えるね」


 気になったことも聞けたので、俺はそろそろアプデ内容を確認しようとゲームのシステムを呼び出す。

 だが、お知らせのウィンドウを開こうとしたところで誰かからメッセージが送られてきたと通知が出る。


「ん? 急に誰からだ」

「どうしたの?」

「いや、アプデ内容を確認しようとしてたら誰かからメッセージが飛んできたんだよね」

「イッテツさんかミミちゃんじゃないかな? ほら、ちょっと前にユニークボスの素材渡して防具を作って欲しいって依頼してたから」

「あー、たしかにその連絡かもしれない。とりあえず読んで確認してみるよ」


 メッセージを開くと、やはり送ってきたのはイッテツさんだった。と言っても文章から察するにミミちゃんが考えたものをイッテツさんが打って送ったようだが。

 内容は妻の言う通り怨嗟の大将兎の素材である黒兎の大毛皮を元に作ってもらっていた防具が完成したとのことである。これまでのどの素材よりもレアリティが高く扱いが難しかったが、その分やりがいがあって楽しかったと記載されている。

 初めて見る素材にテンションが上がり、喜んでいるミミちゃんの姿が頭に浮かぶ。


「ミミちゃんも楽しめたなら、依頼した甲斐があったなぁ」

「やっぱりミミちゃんからだったんだ」


 メッセージ見ながら独り言を零すと妻がミミちゃんというワードを拾い反応した。


「うん。リーナの予想通りの内容だったよ。防具の作りがいがあって楽しかったってさ」

「ミミちゃんもやっぱりイッテツさんと同じで職人さんっぽいところがあるんだね」

「どっちもメイン職業に生産系を選んでるからこだわりとかは強いだろうね。ちょっと楽しみたいくらいの気持ちだったら、俺たちみたいにサブ職業で生産系を選べばいいわけだから」


 まぁ、それを言うなら最初期に地雷と言われていたテイマーを2人揃ってメイン職業に選んだ俺たちも大概だしね。というか、掲示板とかでは今もテイマーはエンジョイ勢用の職業って言われてるくらいだし。

 それでも俺が偶然やったみたいにイベントポイント荒稼ぎしたプレイヤーがいたり、フィールドが開拓されることでテイムできる魔物の種類が増えたりしたことでテイマーの数自体は少しずつ増えているみたいだけど。

 経験値分配の話はソロプレイするか、テイマーだけで組んでパーティーの枠の使い方を考えればいいだけだから、第2陣追加によるエンジョイ勢の増加でだいぶマシになりそうだなと思う。掲示板でされていた考察だと、第2陣はテレビなどで知ったライト層とかも多そうだからガチ勢は第1陣より少なくなるだろうみたいに言われてたし。


「あっ、それと受け渡しはいつでもできるからお店にきてだって」

「いつでもいいんだ。じゃあ、今から行っちゃう? もちろんメッセージ送って大丈夫か聞いてからだけど」

「そうだね。じゃあ、メッセージ送っておくよ」


 俺はイッテツさんに今から行っていいかとメッセージ送る。おそらくすぐに返信はこないだろうから、今のうちにアプデ内容の確認でもするとしよう。



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