第138話 久しぶりのログイン


 仕事一色の日々がようやくひと段落した。今日から3連休なのでフリフロを思う存分楽しむ予定だ。

 第2陣の参戦およびアップデートは昨日だったので、どんな追加要素があるのか楽しみにしている。公式ホームページを見れば内容を確認できるのだが、今回はあえてそれを見ずにログインすることにした。


「おはよう、リーナ」

「おはよー!」


 ゲームにログインするとクランハウスの自室のベッドの上で目を覚ます。1階の共有スペースへ顔を出すと先にログインしていた妻とその従魔たちがいたので挨拶をする。


「こっちでハイトに会うの久しぶりだね」

「リアルで3週間くらいだから、こっちだともっと長い間顔を合わせていないことになるね」


 仕事漬けの日々と言っても、リアルは一緒に生活しているので毎日顔を合わせている。ただ、それは色白の妻であってダークエルフで小麦色の肌をしたリーナではないので、彼女のアバターを久しぶりに見て少し懐かしさを感じた。


「そのせいでマモルとパルムが寂しそうにしてたから、顔を見せてあげて」

「バク丸とバガードはあんまり気にしてなさそう?」

「気にしてないわけじゃないと思うけど、態度には出してないよ」

「そっか。だったら、自分の従魔たちにも挨拶してくるね」

「はーい。じゃあ、タイミングを見て私も外へ行くね。ログインしてない間に、お風呂と畑は完成しちゃったから案内してあげる!」


 アプデ内容の確認や畑と風呂のこと。気になるところはたくさんあるが、まずは大切のな従魔たちに会いに行こう。


 バガード、マモル、パルムは湖畔で遊んでいることが多いので、俺もクランハウスから出る。いつものように影を纏ったパルムとマモルが2体で一緒にいるのが視界に入ったため声をかけようと近づいて行く。


 アーアーアァー!!


 マモルたちの元へ歩いて向かう途中、上空から聞き覚えのある鳴き声がした。


「ん? バガードか」


 空を見上げると黒い翼をはためかせた烏が猛スピードで接近してきた。


「あぶなっ!?」


 真っ直ぐ顔めがけて飛んできたので、ぶつかると思いぎゅっと目をつぶる。

 しかし、いつまで経っても衝撃はなく、代わりに肩にすとんと何かが乗った感覚があった。


「なんだ。肩に乗りにきただけだったのか……。おはよう、バガード。しばらく顔を見せられなくてごめん」


 右肩に止まる従魔に顔を向けて謝罪する。

 どこか不満げな表情のバガードはプイっと顔をそっぽに向けた。 


 食欲に忠実なところを除けば非常に大人なバガードにしては珍しい反応だった。それだけ俺が会いにこなかったが悲しかったのだろうか。そう考えると申し訳ないという気持ちと同時に可愛いところもあるものだと思ってしまった。


「会いにこれなくなる前もマモルとパルムばかりに構いがちだったもんな。よし、バガードまた近いうちに2人で遊びに行こう。街でも山でもどこでもいいから」


 テイマーと従魔の2人旅というのもたまには良いだろう。強い魔物が出る場所に行きたいと言われると少し困るが、そのときはそのときで何か考えればいいだろう。


「じゃあ、他の子たちにも挨拶しに行こうか」


 バガードを肩に乗せたまま俺はマモルたちの元へと移動する。


「久しぶり。マモル、パルム」


 2体が影を纏ってじゃれ合っているところに声をかけると、揃ってこちらへ振り返る。そして勢い良く跳びついてきた。


「うおっ! どうしたんだよ。いきなり抱きつかれるとこけるって」


 どうやら2体とも久しぶりに会えたことが嬉しかったらしい。マモルは俺の足を甘嚙みしているし、パルムは頭を胸に擦りつけてくる。

 この子たちにも寂しい思いをさせたんだな。今度から仕事が忙しい期間に入っても顔だけは見せにきた方がいいなと思った。


 バガードも肩から離れて湖畔に着地すると、俺の足を突き始める。

 しばらく揉みくちゃにされていると妻がクランハウスから出てきた。


「なんだかみんな楽しそうだね」


 俺たちの様子を見た妻は優しい笑みを浮かべる。


「楽しいというか、好き放題やられてるだけなんだけどね。でも、しばらく寂しい思いさせたから仕方ないと思ってるけど」

「じゃあ、みんなが飽きるまでは私も待ってるよ。畑とかの案内はその後で!」

「うん、ありがと。それとバク丸がどこにいるか知らない? さっき共有スペースにもいなかったし、外でも見当たらないし」

 

 マイペースで自堕落、その上あまり構われたくないタイプのバク丸。

 だからと言ってこれだけの期間放置していたのに会いに行かないのはダメだろう。あの子もうちの従魔なわけだしね。


「あー、あの子はその……1番元気にしてるよ。たぶん…………」


 妻は微妙な表情で答えた。


「バク丸が元気って、いったい何があったんだ?」


 いつも共有スペースのひんやり冷たい床で溶けたみたいにへばりついているあのバク丸が元気とはおかしな話である。


「説明するより見た方が早いかな? バク丸は今、私の畑にいるから見に行こっか。みんながハイトで遊ぶのをやめてくれたらだけど」


 それから30分ほど経過して従魔たちがようやく俺を解放してくれる。バク丸のことも気になるので、妻の案内で新しくできた畑に向かうのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る