第126話 これ以上、溶かされるわけにはいかない
フェザースライムから初見の素材を入手。パーティーメンバー全員がレベルアップと今回は大変実りのある探索となっている。
アネットさんの仕事が終わるのは夕刻。それまでまだ時間があるので、引き続きエルーニ山で狩りをしよう。
――――前回の戦闘から20分ほど経過。俺たちは川に辿り着き、それに沿って進んでいた。
なかなか魔物と出くわさないななどと考えていると、1番前を進むマモルが尻尾で俺を軽く叩いた。接敵の合図だ。MP量が本当に少なくなったため、俺は今気配察知を使用していない。そのためマモルが敵の存在に気づいたとき、こうするようにと予め決めていた。
テイマーと従魔という関係で結ばれているので黙っていても意思伝達可能なわけだが、それをするよりも体を動かした方が早いということで物理的な合図を優先した。俺が従魔たちに指示する際、あえてそれを口にするのと同じだね。
バガードにも警戒を促そうと上を見ると、すでに敵の存在に気づいているようだ。バレないようにゆっくりと高度を下げて、こちらへと合流。
続いてマモルから敵の数が報告される。
4体らしい。
それもおそらく遭遇したことのない魔物。
相手側はこちらに気づいている素振りはなく奇襲が可能と。
さっきまで同じように先手を打ちたいところだが、今回はこれまでと少々状況が違う。
前2回の戦闘は同じ山でも、周囲の環境は森に近いもの。そのためある程度の距離まで草木に隠れつつ接近し、走ればすぐに詰められる距離になったら一気に仕掛けることができたわけだ。
だが、今いるこの場所は川沿いで開けている。敵がいるのも30mほど先の少し大きな岩の裏。障害物がないため距離は最短で詰められるわけだが、一瞬でも敵が岩からこちらを覗いてきたら奇襲失敗となる。どうにか気づかれずに近づきたいわけだが、案を出そうともたもたしていたら魔物が岩裏から出てきてしまうかもしれないのであまり悠長にもしていられない。
仕方がない。ここはシンプルな作戦で行こう。ダッシュで詰めて攻撃する。
「俺とバク丸が岩の右側から。マモルは反対。そしてバガードはまた上空から敵を襲って! 詰めている間に俺たちのことがバレると思うけど、気にしなくていい」
バレなきゃ有利。バレても不利にはならないのだから、これでいい。
指示を出した俺はすぐに走り出した。聞いた従魔たちもそれに続く。
走り出して岩まで10mを切ったところで、どうやら相手がこちらに気づいたらしい。岩裏から4体のアリのような魔物が現れた。
アイアンアント
山に巣穴を作り住まう蟻。
外骨格が鉄のように硬いことからその名がついた。
確かに蟻だけど、大き過ぎないか?
1体が人の顔くらいのサイズなんだけど。
それより鉄のように硬いって絶対剣の通り悪いよね……。
「バク丸、溶解液を頼む」
どうやって倒したものかと考えながら、頭上にいるバク丸へ指示を出した。
従魔のスライムはすぐに従い、溶解液をアイアンアント4体のうちの1体へと放つ。
「ん!?」
それに対してアイアンアントは予想外の迎撃方法を見せた。
溶解液と似たような液体を口からこちらへと発射したのだ。
互いの遠距離攻撃はぶつかり、その場で周囲へと飛び散る。敵の出した液体が落ちた場所を見ると、そこに生えていた雑草が少し溶かされていた。やっぱり溶解液と同質の攻撃らしい。
あれを再度使われるのは非常に辛い。これ以上、鉄の盾をボロボロにされたくないのだ。耐久値を減らすならちゃんと強力な攻撃を受け止めてがいい。
ここはできるだけ短期決戦といこう。MPが空になる可能性もあるがファイヤーボールを使ってしまおう。今バク丸の溶解液を打ち落とした個体はスキルのクールタイムがあるのでしばらく撃ってこないだろう。それならあの攻撃をまだしていない3体のうちマモルとバガードが狙っていない個体へ魔法はぶつけた方がいいね。
「バク丸、ちょっと時間稼ぎ頼むよ」
わかった。とバク丸の意思が伝わってきたので、俺は一旦下がる。さっきの攻撃を見たところ射程はせいぜい10mあるかどうかといった感じ。なのでその範囲から逃れる位置へと移ることにした。
よし、これで魔法に集中できる。俺は魔法陣を展開しつつ、バク丸の戦いを見守ることした。
まずバク丸が最初に使ったスキルは膨張だ。体積が3倍近くに膨れ上がり、アイアンアントよりも巨体となった。
そしてそのまま目の前に敵に向かって突っ込む。
アイアンアント側は2対1ということで有利だと考えたのだろう。それを真正面から受け止めようと2体とも前進。
互いの距離が詰り、衝突――――する寸前にバク丸は液状化を発動。アイアンアント2体を自身で包み込む。そして元の形状へと戻った。これで敵はまとも身動きが取れなくなった。どうにか逃げ出そうと噛みついたりして攻撃しているが、それほどダメージが入っているようには見えない。
「バク丸、魔法行くよ! ファイヤーボール!!!」
回避するように大声で叫んだ後、俺は火球を放った。
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