第114話 クランハウスお披露目(1)

 緋色の精霊アムリと契約を交わした翌日。

 妻と共にフリフロへログインすると大工のドワーフさんたちの大きな声が聞こえた。


「「「お~い! クランハウスが完成したぞ!!!」」」


 ついに俺たちのクランハウスができたようだ。

 途中でイベントは挟んだのでかなり時間がかかったように思う。そう考えると感慨深いものがある。


「ハイト、聞こえてないの? ドワーフさんたちがクランハウス完成したって言ってるよ」

「あぁ、ちゃんと聞こえてたよ。ようやく完成したんだなぁ~ってちょっと浸っちゃってたんだ」

「そういうのは普通どんなクランハウスになったか確認してからじゃない?」

「確かに。そうかも」


 ルンルン気分の妻に連れられて、俺はクランハウスの建設地へと足を運ぶ。


「「「やっときたな。これが完成したクランハウスだ! これから案内するからついてこい!!」」」


 またしても声を揃えるドワーフさんたち。仲が良いのは微笑ましいが、ずっとこれだと流石に耳が痛くなりそうだ。案内役を1人に絞ってもらおう。


「すみません。それは有難いんですけど、案内してくれるのは1人で大丈夫です」


「おっ、そうか。なら俺は休ませてもらおう」

「俺は帰ろうかな。嫁が今日体調悪いみたいだから心配なんだ」

「じゃあ、俺は……ファーレンにメシ食べに行ってくる!」

「こっちは釣りでもして気分転換させてもらうか」


 依頼人である俺から案内は1人でいいと言われたので、大工さんたちは我先にと別のことをし始めた。最終的に残った1人のドワーフさんが案内をしてくれることとなった。


「あいつらバカみたいにサボりやがって。あとで絶対に姉御に怒られるぞ……。おっと、すまん。独り言だ。とりあえず俺が案内するから」

「よろしくお願いします」


「まず構造についてだが、要望通り基本的に木材で組み上げた」


 目の前にあるのは2階建ての大きなウッドハウス。

 真上に昇った太陽。それを反射する湖と共に視界へ収めるととても風情を感じられる。小鳥のさえずりや魚が湖面を跳ねる水音。肌を撫でる心地良い風もこの癒しの場を作り上げるのに一役買っているのだろう。


「まぁ、外から見る分には普通のよくある木造建築だ。俺たちの工夫が詰まっているのは主に中だから楽しみにしておいてくれ」

「えっ、外から見るだけでも十分すごいと思ったのに……中はもっとすごいの? 楽しみすぎ!」


 大工さんの本番はここからだ宣言に、妻のテンションが1段階上がる。俺も口には出していないが、本職がそこまで言う内側にとても期待している。


 先頭を行くドワーフさんが木製のドアをゆっくりと開く。それに続いて俺たちもクランハウスへと足を踏み入れる。


「うわぁ~、ひろーーーーい!!!」


 片開きのドアの先にあったのは1つの大部屋だった。家具を一切運び込んでいないことを考慮してもかなりの広さだ。


「ここはな、依頼主が夫婦揃ってテイマーだということを考慮してこういう構造にしたんだ」


 続く大工さんの説明を聞いて俺は納得した。


 まず気になったこと。どうして靴箱などがないのかという点。それは従魔が頻繁に出入りすることを考慮したからなのだと。

 従魔たちは裸足で外と中を行き来するので、いくら俺たちが掃除をがんばったところで従魔がくるエリアには土があがってしまう。ならば、いっそのこと1階部分は靴を履いたまま過ごす、人も魔物も気兼ねなく使える共同スペースにすればいいということでこうなったらしい。

 俺たちが入ってきた扉は人用なようだが、それ以外にも大きめの従魔でも入れるように別口を作ってくれているみたいだ。


「あれが説明した別口だ」


 大工さんが指したのは、人用の玄関から見て左側。両開きの特大扉があった。


「リーナのお嬢のとこのブラックボアでも普通に通れると思うぞ」

「ほんとですか? お~い、ぶーちゃん。おいでー!!」


 ドコドコドコドコ。

 妻の大声に答えるようにうるさい足音が猛スピードでこちらへ迫ってくる。


 プゴッ!


 ぶーちゃんの登場だ。


「おお~、ほんとに余裕で通れたね。これなら今の従魔たちは全員出入りできそう」

「そうだね。こっちは1番大きい子がマモルだけど、それでも俺より背は低いから大丈夫だと思う」

「……部屋の中に入れるって知ったらみんなどんな反応するかなぁ」

「うちの子だとバガードとバク丸が喜んでくれそうだよ。その2体は雨の日にダルそうにしていることが多いから、悪天候時には避難してくるだろうね」


 なお、マモルは雨風が激しかろうが、雷が鳴っていようがいつも外で遊んでいます。


「確かに、バク丸が雨を嫌がってるのよく見るかも。でも、うちのすらっちやスラミンは全然気にしないのに……不思議だね」

「まぁ、同じスライムでもそれぞれ個性があるからね」


 俺の予想ではバク丸は雨水に眠りを妨げられるのが嫌なんだ思う。


「おう、2人とも。盛り上がるのはいいが、まだ案内は始まったばかりだぞ。このペースだと全部回るのにけっこう時間がかかっちまう」

「はーい。ごめんなさい」

「あっ、すみません。気をつけます」

「そうしてくれ。じゃあ、次いくぞ。1階もあと2つ別の部屋があるから」


 1階の大部分はこの共有スペースが占めているが、まだ別室も用意されているらしい。これはまだまだ楽しめそうだ。


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