第115話 クランハウスお披露目(2)
玄関から直接繋がる、従魔も出入り可能な共有スペース。部屋に入って左には人用とは別に従魔用の大きな両開きの扉が設置されていた。
そして人用玄関の右方面、従魔用の出入口の対面にもう一つ扉があった。扉は人サイズに合わせられている。どうやら従魔たちが出入りする場所ではないようだ。
「次に紹介するのはここだ」
大工さんの後ろをついて、扉の向こうへと入る。
「――――さむっ!」
中に入るとひんやりと冷たい、なんてレベルではなく冗談抜きで長時間滞在すれば凍え死ねるほどの冷気で満たされていた。
もちろんゲームなので感じられる寒さには限界が設定されているだろうが、長く留まれば状態異常とかにはなりそうだよね。
「ハイト……ヤバいよ、ここ」
妻は寒いのが苦手なので、すぐに俺の背中側に回って抱きついてきた。少しでも暖を取りたいのだろう。
「こ、ここは冷蔵庫ですか?」
「そ、その通りだ。テイマーなら、こ、これから従魔も増えていくだろうと思って。大きな冷蔵庫を作っておいた」
凍えながら質問すると、こちらと同じく体をガクブルさせながら大工さんは答えた。屈強なドワーフさんでも、この寒さは素知らぬふりで耐えるのは無理らしい。
「そ、それは有難いですね。温度の調整は……ど、どうなってるんですか?」
本来は料理スキルを持つ妻が自ら質問するところだろう。しかし、彼女は今寒さに耐えることに必死でそれどころではない。代わりに俺が聞いてみる。
「そ、そりゃあ、冷蔵庫の温度設定なんて……氷魔石を使うに決まってるだろ? 常識だぞ」
「あはは……そうでしたね。自分は全くキッチン周りを触らないので忘れてましたよ」
なるほど、氷魔石なるアイテムがあると。ここまで入手したことはないが、冷蔵庫に使われているとなるとそこそこ供給量があるはず。今度、ファーレンで探して――――いや、もの知らずついでにどこで買えるのかも聞いておこう。
「ち、ちなみに氷魔石ってどこで手に入りますか?」
「そ、それも知らないのか。ついでだから教えてやるけど、その前に一旦出よう。ドワーフの俺でもこれ以上は耐えられん」
「そ、そうしましょう。背にいる妻がもう限界を迎えているので」
一旦、共有スペースへと戻る。
大工さんはドスっと床に腰を下ろす。
「お~い、ぶーちゃん! リーナが寒さで動けなくなってるから温めてあげて」
体の芯まで冷えてしまった妻は、俺から離れようとしない。このままドワーフさんと話しを続けるわけにもいかないので、ぶーちゃんを呼び妻を温めてもらうことにした。
プゴッ!
主人の異常を察知したぶーちゃんはすぐに駆けつけた。俺の言う通りにしようと、妻に自分の体を近づける。
柔らかくて温かいブラックボアの体毛に妻の体が包まれた。これなら心配ないだろう。
俺はドワーフさんの向かい側に腰を下ろす。
「で、氷魔石が買える場所だったか」
「はい」
「あれはここら辺じゃ、なかなか手に入らないからな。予備が欲しかったら、アネットの姉御に頼むしかない。今、冷蔵庫に設置されている分も姉御が知り合いに頼んで手に入れたものだからな」
あれ?
てっきり冷蔵庫なんかに使っているから入手は簡単なアイテムかと思ったのだが。違うようだ。もしかして冷蔵庫自体が一般的ではないというパターンだろうか?
「そうなんですね。自力で調達しようと思ったのですが諦めます」
「そうするのが賢明だ。氷魔石の産出地である北方はヒュームやエルフが生活できる土地じゃないからな」
一応、氷魔石が取れる場所は教えてくれるんだね。まぁ、北方ってざっくりとしか言わなかったけど。それでも俺たち夫婦が何の準備もなしに足を踏み入れたら痛い目に合うということが分かっただけでも良いだろう。
「ちなみに氷魔石は通常どのくらい持ちますか?」
聞けることはいろいろ聞き出してしまおう。
「使い方次第だが……どうせ使い方も知らないだろうから、一緒に説明するぞ」
「お願いします」
「まず氷魔石っていうのは魔力を込めると冷気を発する物だ。冷蔵庫はそれを冷気が逃げないような構造で作った部屋に設置することで出来上がる」
元から冷気を発するアイテムではないと。
「そしてここの冷蔵庫のサイズを冷えた状態で1日キープするなら、平均的なヒュームの大人が持つ魔力量の3割ほどを込めれば十分だ。まぁ、2人はテイマーだからそのあたりの心配はいらん」
その平均がどのくらいのMP量なのかは知らないが、俺たちは気にしなくていいらしい。テイマーは一応、魔法職寄りだからかな?
「で、もちろん冷蔵庫は毎日キンキンにしておかなきゃ意味がないわけだ。それを考慮すると氷魔石を使用できる期間は1年ってところだな」
こっちで1年だとリアルでは90日ちょっとか。3ヵ月以上持つなら、すぐに予備を用意する必要もないか。
「わかりました。教えてくれてありがとうございます!」
氷魔石について知りたいことはだいたい聞けた。
再び、クランハウスを回りたいのだが……妻はもう少しの間、動けそうにない。
「すみません。リーナが元気を取り戻すまで、もう少し待ってもらえますか?」
「いいぞ。流石にこの様子のお嬢を連れまわそうってほど、俺は鬼じゃないからな」
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