第113話 ファーストコンタクト
ランダムレアスキルスクロールを使用した結果、緋色の紋章という名称から内容があまり予想できないスキルを入手してしまった。
レアスキルであることは確定しているが、これが強いかどうかはわからない。珍しいけど、使えないようなスキルも存在するらしいので。
掲示板に載せられていたレアだけどクソスキルは覚えているものだけでも3つほどある。
まず、1つ目がマゾヒズム・バルクというスキル。戦闘中、ダメージを受ければ受けるほど力のステータスが上昇するというものだ。
これだけ聞けば強力なスキルと思われるかもしれないが、非常に厄介な点が1つある。それは1度でもこのスキルを発動すると回復不可能な混乱状態が戦闘終了時まで続くということだ。
このゲームで混乱状態になると体を操作する際に動かそうと思った方向と逆に動いたり、発動したスキルのコントロールが難しくなったりする。普通に人間はそんな状態でまともに戦えないため、このスキルはレアだけどクソ認定を受けているのだ。
このスキルを取得したと判明しているプレイヤーは10名。そのうちの9名は絶対に使わないと言っているらしい。ただ、残りの1名は大変重宝するスキルだと血迷った発言をしているのだとか。
そして2つ目。必殺の前歯というなんとも格好の悪いスキルがある。
効果はまぁ、名称通りというか。噛みつき攻撃をした際に確率で即死効果があるらしい。
そもそも嚙みつき攻撃って人のすることではないので、クソ認定。獣人としてこの世界にいるプレイヤーならまだ使えるかも……なんて言われていた時期もあったみたいだが、即死させる確率が0.5%だったのでクソ評価を挽回できず。
最後に仲間喰人というスキル。
これはスキルの効果が胸糞という意味でクソ認定を受けている。
肝心の効果は、パーティーメンバーを殺害することでその戦闘中のみ己のステータス値を増加させるというもの。調べによると1名殺害で1.4倍。2名で1.8倍。3名で2.2倍。と倍率が上昇していき、最終5名殺害で3.0倍になるらしい。
普通のプレイヤーなら、まず手を出さないものだ。だが、ソロで活動しているPKなどはスキルで身元を偽装し臨時のパーティーを組む。そして、いざ戦闘が始まると仲間を殺害してPKとしての目的を達成。かつ、目の前の魔物が強力だったとしても自身がかなりの強化を受けているため単独で討伐できるという感じの使い方をする奴がいるらしい。
もちろんレアスキルなので、PKのほとんどは持っていないが。
ちなみにプレイヤー間の攻撃は中学生以下の子供に対しては全て無効化されるので、幼い子が被害に遭うことはない。
とまぁ、3つほどレアかつクソスキルを挙げたわけだが、緋色の紋章はこれらとは違うと思う。己の手に入れたレアスキルがクソだなんて思いたくないというのもあるが、理由は別にある。先の3つは全て名前がダサい。しかし、緋色の紋章はかっこいい。つまりそういうことだ。この名称でクソスキルなんてありえないはず?
「ふぅ……いつまでも考えているだけじゃ意味ないか。そろそろスキルの効果を確かめよう」
ステータスウィンドウを開き、スキルを選択。その詳細を確認する。
――――――――。
「うん? どうだろう。強そうではあるけど……」
緋色の紋章の効果はこうだ。
この紋章を持つ者は緋色の精霊と契約を交わすことができる。無事、契約が成立すればその精霊を召喚できるようになる。ただし、精霊召喚中は常に一定量MPが減少していく。また精霊はパーティーメンバーとしては数えない。
そう強そうではある。だが、全ては使ってみなければわからないだろう。
「マモル、バガード。今からスキルを使うから少し、離れてて」
召喚した精霊とやらが暴れる可能性もあるため、一応従魔たちに警戒を促す。
「――――緋色の紋章」
発動の仕方がわからなかったので、とりあえず呟いてみた。
左手の甲に突然、緋色の紋章が浮かび上がる。スキル名通りだ。紋章は燃え盛る炎の中央に何かの顔っぽいものがあるような感じの。
次に緋色の紋章と同じ陣が目の前の地面に展開される。そしてそこから赤い民族衣装を着た子供が現れた。
色黒で真紅の髪を持つその子供は、状況を把握しようとしているのか周囲を見渡す。
「なるほど、そういうことか…………。じゃっじゃーん! 呼ばれて登場。緋色の精霊アムリだよ!」
小さな体を精一杯動かして、俺の目の前で自己紹介をしてくれた。
って、ん?
この子、浮いてるね。すごいな。
「ちょっと、ちょっと! 僕が名乗ったんだから、そっちも名前くらい教えてよ。契約したくて呼び出したんでしょ?」
俺の反応が薄かったのが、不満だったようだ。またしても体を大きく動かしている。
うん。男の子だろうけど、かわいいね。
「ごめんね。俺はハイト。ヒュームのハイト・アイザック。君の言う通り、契約がしたくて呼び出したんだ」
「なるほど。ハイトね! 悪いやつじゃなさそうだし、いいよっ。さっさと済ませちゃうから、紋章だして」
アムリ君、人のこと簡単に信用し過ぎじゃないか?
まだ互いの名前くらいしか教え合っていないのに、何を根拠に悪いやつじゃなさそうだと思ったのだろうか。
「ほらほら、どうしたの? さっさと言う通りにしなよ。こう見えて僕だって忙しいんだからね!」
「ごめんごめん。ほら、これでいい?」
言われた通りに、左手の紋章を差し出す。
「うん、おっけー! では、いきます。我、緋色の精霊アムリはここにハイト・アイザックと契約を結ぶ」
アムリ君の体と緋色の紋章が眩い光を放つ。
「よし、契約完了。ちなみに僕を呼び出すときは敵が強いときだけにしてね! それ以外だとやる気出ないから、反応しないよ。じゃあね~」
スッとアムリ君の姿が消える。左手の甲を見ると緋色の紋章は残っていた。
「契約したけど……いまいちわからん」
まぁ、いいか。
敵が弱いときはそもそも俺たちだけでどうにかなるし。強敵のときは助力してくれるなら十分だろう。
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