第111話 孵化装置起動

 禍々しい見た目をした不死系統の卵。アイテムボックスから取り出したのはいいが、いつまでも野ざらしにしておくわけにもいかない。


「とりあえず孵化装置も出してみるね」

「うん、わかった」


 アイテムボックスから通常の孵化装置とスキル付与効果がついているものをそれぞれ取り出す。


「うわ、でっか!」

「大き過ぎ!?」


 目の前に現れた孵化装置は地面から俺の背を超えて、2mちょっとくらいまである。まさかこれほど大きなものだとは思ってもいなかったので、思わず声が漏れてしまった。


「びっくりした……」

「そうだね。まさかここまでの大きさとは思わなかったよ」

「私も。せいぜい腰くらいまでかなーって勝手に思ってたけど、全然違ったみたい」


 どうしてここまでのサイズになってしまったのか。理由もなくここまでの大きさになることはないだろうし…………もしかして、これくらい大きくしないと入らない卵が存在するのか?

 いたとしたら、そいつはいったいどんな化け物なのだろう。従魔にはしてみたいが、敵としては現れて欲しくないね。


「な~んか、長閑な湖の畔にぽつんと2つこんな機械っぽいのがあるの変な感じがするね」

「たしかに周りに馴染まないね」


 大きさのインパクトが強過ぎて、見た目について考える暇もなかった。だが、改めて考えてみると、妻の言う通りこの湖畔には似合わないな。

 

 縦2m以上、横1.5mくらいの円筒型のガラスケース。そこへよくわからない管やらパイプやらが繋がっている。それらの反対側はというと、ガラスケースの隣に固定されている謎の正方形の箱型機械へと接続されていた。


「あっ、こんなこと話してる場合じゃないね。はやくこの子を入れてあげようよ!」

「そうだね。魔物の卵だしそう簡単に死にはしないと思うけど、万が一があったらダメだもんね」


そういうわけで俺は不死系統の卵を孵化装置(スキル付与)に入れることにした。


 見た感じガラスケース部分の中に入れると良さそうなので、卵を抱えてそちらへ近づく。孵化装置は何故かそれに反応してガラスケースをパカッと開いた。


「ハイテクだね」


 妻が感想をぽろっと零す。


 俺はそれを聞きながら、ガラスケースの中に魔物の卵をゆっくりと下ろした。閉め方がわからなかったので、とりあえず離れてみるとこれも自動でやってくれる。


「ここからどうするんだろう?」


 ここまでほとんど自動だったし、放置でいいのか?


「う~ん、わかんな――――あっ!」


 突然、箱型機械に一面が明るくなった。どうやらそこだけ画面になっているみたいだ。注視していると文字が浮かんでくる。


「えっと、なんだ?」


<魔物の卵がセットされました>


<孵化作業を開始するには魔核をエネルギー源として補充する必要があります>


<なお、当孵化装置は特別製であります。セットした魔核由来のスキルを1~2つランダムで卵の中にいる魔物へと継承させることが可能です>


「……なんかすごいこと書いてない?」


 画面に表示されている内容のすごさに妻が唖然としている。


「うん、これはやばい。高価な上、1個しか交換できないのも納得できるよ」


 まず孵化装置を1回使うごとに魔核を1つ要求してくること。正直、これはなかなか大きい要求だ。これまでに数百体魔物を倒してきた俺たちでも手に入れたのはたった2つ。怨嗟の大将兎とビッグスライムのものだけ。つまり単純計算ドロップ率は1%を下回るということだ。


 あともう1つ、やばいところがある。それは誰が見ても分かると思うが、セットした魔核のスキルを一部継承できることだ。

 セットするのが普通の魔レッドボアや一角兎といった普通の魔物の魔核だったらまだいい。だが、ユニークボスだった怨嗟の大将兎の魔核なんかをセットしてしまったらどうなるのか。きっととんでもない化け物が生まれる気がする。


「どうする、ハイト。一応、私が持ってるビッグスライムの魔核を使ってもいいけど……」


 妻も怨嗟の大将兎から魔核が取れたことを覚えているのだろう。だから最後の方で言いよどんだのだと思う。


「せっかくだし、怨嗟の大将兎の魔核をセットしてみるよ」


 名前の怨嗟って部分から不死系統との相性も良さそうだし。生まれてくる子にはできることは全てしてあげたいというのもあるから。


「わかった。じゃあ、ビッグスライムの魔核は私がこのまま持っておくね」

「それでいいよ」


 アイテムボックスから怨嗟の大将兎の魔核を取り出す。採取した際は何も思わなかったが、改めて見ると本当に禍々しいな。暗い紫の球体から謎の赤黒いモヤモヤが出たり入ったりを繰り返している。


「セットするね」


 妻に一声かけてから、手に持った魔核を箱型機械へと近づける。すると卵を近づけたときと似たような反応があった。箱型機械の横部分からアームが出てきて俺の手から魔核をスッと奪う。そして何事もなかったかのように魔核を握ったアームは箱型機械の中へと格納された。


<魔核をセットしました。孵化を開始してよろしいですか?>


 画面に、はいといいえの選択肢が出てくる。これもしかしてタッチパネルなのか?

俺は画面に表示されているはいの文字に触れる。


<では、孵化を開始します>


<魔物の卵が孵化するまで、あと383:59:59です>


 やがて文字は消えてゆき、孵化までの時間のみが表示されている状態になった。


「え~と、あと……16日後ってこと?」

「うん。それもゲーム内でだから現実だと4日だね」

「案外すぐに孵るんだ」

「そうみたいだよ。でも、どんな子が産まれるんだろう? 今から楽しみだね!」

「うん! 産まれる瞬間をちゃんと見れるといいなぁ。赤ちゃんの魔物ってなんか食欲すごそうだよね。よしっ、ハイトが交換したアイテム全部見せてもらったら、料理作り置きしておこっと!」


 妻も俺と同じくこの子の誕生が楽しみで仕方がないようだ。

 あー、はやく4日経たないかな。


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