第106話 大誤算

 春祭りを寝坊してすっぽかすという大失態をした。そんな俺のことを最後まで待ってくれていた妻も同じく祭りに参加できていない。

 本来なら即打ち首、デスペナルティ付与してもいいくらい。いや、それでも足りないくらいのことをしでかしたわけだが、妻の優しさで無罪となった。

 それどころが優しさの権化たる彼女から兎の丸焼きと温かいシチューまで作ってもらったのだから、俺は本当にどうしようもない馬鹿で幸せ者だ。


「ねぇ、ハイト。みんな帰ったことだし、イベントポイントをアイテムに変えておかない?」


 絶品手料理を完食し、湖畔に寝転がって休憩していたところに妻がやってきた。


「そういえばイベントポイントなんてのもあったね。いいよ、交換期限がいつまでかわからないし覚えているうちに済ませとこう」


 魔物はそれなりに倒しているが、依頼は2種類しかやっていないから……そこまでポイントは貯まってないと思うけどね。


 適当にメニュー画面を開いていろいろいじっていると、イベントのページを見つけた。そこから更にイベントポイントをアイテムへ変換するページへと飛ぶ。




<第1回公式イベントファーレンの春祭り:イベントポイント内訳>


サクラボア討伐(46体):100×46=4600


サクラマス討伐(3642体):300×3642=1092600


サクラトレント討伐(2体):500×2=1000


桜色のボア皮10枚の納品(3回):500×3=1500


サクラマス10尾の納品(4回):1500×4=6000


合計:1105700ポイント




「は?」


 イベントポイントの内訳を確認したわけだが、1項目バグっているところがあった。そこの数値だけの異常さに開いた口が塞がらない。


「どうしたの? 思ったよりポイント稼げてなかった?」

「……いや、違う」

「じゃあ、交換したいアイテムまでほんの少しイベントポイントが足りなかったとか?」

「ううん。そうでもない」

「え~、だったらもうわかんないよ。もったいぶらないで教えて!」

「わかった。でも、言うより見せた方が早いから。ほら」


 俺はイベントポイントの内訳を全て妻に見せる。


「――――ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 綺麗な叫び声が湖畔に響いた。


「な、な、なにこれ!? いったいどんな裏技使ったの、ハイト!」

「俺は別に何もしてないというか……」


 一応、思い返してみると原因らしきものが頭に浮かんできたのだが……それに関しては俺は本当に何もしていない。


「じゃ、じゃあ、チート!? 例え愛する夫でも、流石にそれは軽蔑するよ!!!」

「いや、違う! それだけはない!! だから落ち着いて」


 すごい剣幕でチートはダメだと詰め寄ってきたので、すぐに否定する。俺だってあんな犯罪行為しないよ。1人プレイ用ならまだ情状酌量の余地はあるかもしれないが、他のプレイヤーと関わるゲームにそんな物を持ち込む輩はイカレてると思うし。


「……ほんとにチートじゃない?」

「もちろん。神にも仏にも、君にも誓うよ」

「わかった。信じるね」


 どうにか妻に信じてもらうことができた。


「でも、それだったらどうやって大量のサクラマスを倒したの? イベント期間中サクラマスを倒してたのってほんの数日でしょ。後半は鉄鉱石取りに行って、そこから今日までお仕事が忙しかったからログインできてないわけだし」


 妻が口にしたのは当然の疑問である。イベント期間の半分はログインしていなかった奴がどうやってここまでの戦果を挙げたのか。傍目から見れば絶対におかしいので、チートの疑いをかけられるのも無理はない。


「そう急かさないで。今から説明するから」

「わかった。黙って聞くね」


「――――まず、こんなことになったのは俺がテイマーだったからだと思う」

「テイマーだったから?」

「うん。リーナも自分のイベントポイントの内訳を見れば分かると思うけど、テイマーは従魔が倒した分もイベントポイントをもらえるんだ」


 この1000000を超えるイベントポイントのほとんどは従魔たちからもたらされたものだと思う。


「……たしかに」

「それでここからが問題なんだけど。うちのマモルとバガードって普段何してる?」

「えっ、え~とバガードはよく何かを食べてるのを見かけるかな? マモルはいつも湖で遊んでるよね」

「正解。じゃあ、そのマモルの遊びって具体的に何?」

「たぶん狩りだよね。いつも楽しそうにしてる」


 俺の従魔のこともよく見ている妻は難なく答えた。


「そう。そしてイベント期間中、うちの湖にもサクラマスが大量に現れることを考えると?」

「――――ハイトがいない間、暇だったマモルがひたすらサクラマスを倒してた?」

「その通り。でも、それだけじゃない。そこに食い意地を張ったバガードも参戦したとしたら、このくらいの数倒していてもおかしくはない」


 マモルたちが他の魚を無視して、サクラマスを狙っていたら多分これくらいは倒せる。どうして都合よくイベント限定の魔物だけを狙ったのかというと、おそらくマモルが俺と一緒にサクラマスを狩った日のことを覚えていたからだろう。バガードは賢い子なので、マモルが1種類の魔物だけを狩っていたら何か理由があると悟るだろうし。


「なるほど……? 一応、ちゃんとした理由だけど、これっておっけーなのかな」

「さぁ? 俺には分からないよ。でも、こうしてイベントポイントに数えられてるってことは使ってもいいんじゃないかな。最悪アウトなら交換したアイテムはく奪とかされるかもだけど、ダメ元で欲しいもの片っ端から交換してみたらいいと思うし。これは実際にマモルたちががんばった成果なんだし」

「そ、そんなものかなぁ? でも、たしかに悪いことしてるわけでもないし、垢バンとかまではされないか。だったら、ハイトの言う通り好きなもの交換した方がいいね!」


 そういうわけで、俺たちは膨大なイベントポイントをどんなアイテムに変えるのか。交換可能なアイテムリストを開き、じっくりと考えることにする。



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