第102話 友人の店に行く前に腹ごしらえを
俺たちは採掘作業からの長距離移動、度重なる戦闘でファーレンに辿り着いた頃にはへとへとになっていた。
「ハイトぉ~、疲れた。休もうよー」
妻が肩にしな垂れてくる。それを受け止めて倒れないように踏ん張るのも、今はしんどく感じる。このゲームやっぱり隠しステータスとしてスタミナが絶対に設定されていると思う。
「自分で歩きなよ。もうちょっとでイッテツさんのお店なんだからさ。流石にこの状態を知り合いに見られるのは嫌でしょ?」
「ちょっと恥ずかしいけど……今はしんどい方が勝つの~」
これはダメだな。流石にこのままイッテツさんのところへ連れて行くわけにはいかない。どこか休める場所を探して、妻のスタミナを回復させよう。
「仕方ないな。それじゃあ、どこか途中で休憩しよう」
「え!? いいの?」
「うん。このままの状態で知り合いの前に行くのは俺が恥ずかしいからね」
「やったー! じゃあ、ついでに何か食べようよ」
「いいよ。丁度、満腹度も下がっているところだし」
普段はゲーム内でも1日2食以上取っているので満腹度なんて気にする必要はない。ただ、今日は宿が素泊まりだったので朝食なし。それからもファーレンに戻ってくるまで食べることを忘れていた。まだ完全に0というわけではないが、満腹度が低くなっているのでステータスに支障が出る前に何か食べた方がいいだろう。
妻が食事をしようと言ったのは完全に娯楽としてだが、結果的に良い提案だった。
「とりあえず店が多い通りへ向かおっか」
「そうだね!」
休憩と食事というご褒美を目の前に吊り下げられた妻は見事なまでに復活。今は俺の肩にもたれかかるのをやめて、自力で歩いている。この調子なら、もう休憩はなくていいのではないだろうかと言いたくなるが口にはしない。絶対に駄々をこねられると思うから。
「そういえばリーナはおススメのお店とかないの?」
妻は俺と違って、ソロでログインした際などにファーレンの中を散歩したりしている。なので俺以上にお店や宿には詳しいはずだ。これから店を探すのもいいが、もし良い店を知っているのなら、そちらに行く方が早いし満足もできると思ったので聞いてみた。
「う~ん、あるにはあるんだけど……ハイトは今の状態でがっつりお肉とかって食べられる?」
おっと、ここでまさかのお肉ときたか。てっきり時間帯的にもスイーツとかフルーツとかそっち系がくると思っていたのに。
まぁ、予想外ではあったが問題はない。俺は三度のメシ+おやつより肉と寿司が好きな人間だからね!
「全く問題ないよ。むしろ肉を美味しく食べられる店があるなら、絶対に連れてって」
「流石は肉好き。疲れていても好物ならがっつりいけるんだね。知ってると思うけど、私もそっちのタイプだから……これから行くのは焼肉屋さんで決定だね!!」
あるのか!!!
このファンタジー世界に、愛しの焼肉屋が……。
「うぅ、まずいな。肉のことを考えると余計にお腹が減ってきた」
もちろん満腹度が急激に減ったりはしていない。完全に俺の気持ちの問題だ。
「よしっ。なら、早速案内するからついてきて!」
そう言って進行方向を変える妻。
先導するその背中がここまで頼もしく思えたのは初めてかもしれない。
――――華奢な妻の背中を追うこと15分。俺たちはついに目的地へ辿り着いた。
「こ、これがファンタジー世界の焼肉屋か!」
「見た目はバーベキュー場だけど、店主さんが言うには焼肉屋みたいだよ」
ファーレンの中心地から少し外れたところ。そこには建物はなく妻の言うようにバーベキュー場をもっと簡素的にしたような設備が。
天井はなく、ギラギラとした太陽が訪れた人々を照らす。その客の前には薪とそれを囲むように設置された4本の石の棒が。
店主さんがこちらへきたかと思えば、魔法を唱えてファイヤーボールを出現させた。そこから器用に火を操り、薪へと分け与えていく。
「すごい、魔力の操作が上手なんですね」
「おうよ! おらぁ、元冒険者だからな。このくらいのこたぁ、お茶の子さいさいってな」
店主は薪に火が移ったことを確認すると、4本の石の棒の上に金網を乗せた。
「この上にうちで用意した肉を置けば焼けるからよ! 楽しんで行ってくれよな」
サラッと簡単な説明だけして店主は去っていった。
「あっちにお肉が用意されてるから、取りに行こ?」
既に何度か、ここを訪れたことのある妻が俺を食材置き場へと案内する。
「え~と、ボア肉、兎肉に――――鳥肉!? ど、どういうこと? ファーレンの周りには鳥なんていないんじゃ」
テントのようなものを張り、日陰になっている食材置き場。そこに並べられている肉を鑑定してみるとゲーム内では初めて見る肉があった。
「あっ、やっぱりハイトもそこが気になるよね。私も初めてきたとき気になったから店主さんに聞いたんだよ。そしたら、2つ先の町にいる知り合いが特別に卸してくれてるんだって自慢げに教えてくれたよ!」
なるほど、2つ先の町では鶏肉が取れると。
「そうだったんだ。てっきりこの町の近くに鳥系の魔物が出るのかと思ったよ」
「流石にそれなら、とっくに発見されて掲示板とかに書き込まれてるでしょ。そんなことよりも早くお肉焼いて食べよ? 私、お腹が空いてそろそろ我慢の限界だよ……」
「そうだね! じゃあ、たくさん焼いてたくさん食べよう!!」
その後、俺たちはボア、兎、鶏の焼肉を満腹度が100%を超えてからも楽しんだのだった。
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