第101話 鉄鉱石確保
きた道を引き返し、穴から脱出。俺たちは無事、採掘したアイテムを持ち出すことができた。しかし、穴の外もフィールドだ。もちろん魔物がいるためフェッチネルに戻るまでは安全ではない。その場で鑑定したい欲を抑えてどうにか地方都市まで戻ることにした。
「やっと鑑定できるね! 良い物が取れてると嬉しいなぁ」
「そうだね。品質はもちろんだけど、ちゃんと鉄鉱石が採掘できているのかも気になるね」
フェッチネルの中へ入ったので魔物に襲われる心配もなくなった。
妻は自身で掘り出したアイテムの正体を早く知りたいようで、道のど真ん中で鑑定をしたいと訴えかけてきた。
せっかく苦労して手に入れたアイテムを路頭でアイテムボックスから取り出すのは危ない気もするが、今のところ窃盗系のスキルを発見したという情報はない。なので、別に周囲を警戒しなくとも問題ないか。
いや、NPCには盗賊なんかもいるかもしれない。念のため気配察知で近くに妙な動きをする者がいないかくらいは気にしておくか。
「これだけがんばったのに別のアイテムだったら、流石にへこんじゃうかも」
「まあ、大丈夫でしょ。見た感じ金属鉱石ではあるみたいだし。別のファンタジー金属だったら、それはそれでおもしろいけど」
「ちょっと、そういうこと言ってフラグ立たせるのやめてよ……」
「小説とか漫画じゃないんだから大丈夫だよ」
フラグうんぬん言う妻へ気にし過ぎだと反論する。
一応、ゲームの世界ではあるけれど、たぶん大丈夫だよ。
「――――神様、どうか品質の良い鉄鉱石をください!」
妻は両手を擦り合わせて、名も知らない神へと必死に願う。
……そういえば、この世界には神は存在するのだろうか。神とか宗教とか国、種族同士の関係などは調べたことがないので一切知らない。1度疑問に思うとずっと気になってしまうタチなので、暇なときにでも調べてみるのもいいかもしれない。
「よしっ、覚悟は決まった! 鑑定しよう。ハイトもタイミング合わせてね」
神頼み兼心の準備はできたらしい。
妻がアイテムボックスから鉄鉱石を取り出す。足元の石畳の上へ重そうな鈍色の塊がドサッと落ちた。
周囲を歩くNPCたちは全く気にする様子もなく素通りしていく。ただ、鎧だのローブだのを身につけている冒険者――――おそらくプレイヤーたちは驚き、こちらに視線を向ける。フェッチネルでは鉄鉱石を採掘する者は珍しくないので都市の住人は気にしないのだろう。反対にここにきたばかりのプレイヤーは何事かと反応したってところかな?
金属鉱石が人目に晒されたが、特に怪しい動きをする者はいない。流石に盗まれそうになる展開とかはなさそうだ。
「せーの――――」
俺が気配察知で周囲を観察していると、妻から合図があったのでこちらも鑑定をした。
鉄鉱石
レア度:2 品質:中
カッチコチ山産の鉄鉱石。
武器、防具からお鍋ややかんまで。様々な用途に用いられるため常に需要がある。そのため金属鉱石の中で特に価値の変動がしづらく、安定した収入を求めるものが採掘に向かう。
「おめでとう。ちゃんと鉄鉱石だったね」
あからさまにホッとした表情を見せた妻に声をかける。
「ありがと~。これで念願だったサブウェポンが手に入るよ!」
「よかったね。この量だと俺の剣も作成できそうだし、2人揃って武器の更新ができそうだ」
???の原石の場合、1ヵ所の採掘ポイントから1つしか取れなかった。
だが、鉄鉱石などの金属は1個2個と数えるアイテムではないからか、1塊で取れるらしい。それで何kgあるのかは分からないが、見た感じは剣と短剣1本ずつ作ってもいくらか余るくらいの量がある。採掘すると常に一定量取れるというのもおかしな話なので、おそらくこの1塊の大きさはランダムな気がする。
実際にどうなるのかはイッテツさんに見せるまでなんとも言えないが、俺たちの目的は達成できたと言っていいだろう。
「夫婦揃って新装備! うぅ~、今から楽しみ過ぎる!!」
「俺も! それじゃあ、今からファーレンまで戻ろっか。道中で連絡すれば、イッテツさんもたぶん時間合わせてくれるだろうし」
「いいよ。あとミミちゃんの方にも連絡入れておいてね! また会いたいから」
「別に連絡くらいはしてあげるけど、会ってくれるかは知らないよ?」
「それはわかってるって!」
「なら、いいけど」
妻のメイン、サブ武器。それぞれの素材。それから俺の新たな剣の素材。それらが全て手に入った俺たちは意気揚々とフェッチネルからファーレンまで徒歩で帰った。
――――なお、長距離の移動や道中での度重なる戦闘の結果、パーティーメンバー全員がファーレンに辿り着いた頃にはヘロヘロになっていたのは言うまでもない。
次からは勢い任せの移動は絶対にしないと、俺は心に誓った。
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