第99話 小さな蝙蝠たち

 スモールバットの攻撃を受けたものの、急所は避けていたため大したダメージはもらっていない。相手もそのことに気づいたようで仕切り直すため一旦距離を取ったので、反撃とばかりに俺はスラッシュを放った。

 縦一文字の斬撃は1体の蝙蝠へと向かって進んだが、小柄な上速さもある相手にはあっさりと避けられてしまった。


「うわっ、かすりもしないんだ。厄介だなぁ」


 俺の持つ遠距離攻撃で最も速いスラッシュで当たらないとなるとファイヤーボールもダメだね。相手の数が多いから多少面倒だけど、近距離で確実に叩くしかなさそうだ。


 左手に松明、右手に剣を持ち、敵の方へと走って距離を詰める。敵は迎え撃とうと6体全員が飛び始めた。


「スラミン、ハイトと一緒に戦ってあげて。やり方は全部自分で考えていいから!」


 魔法陣を展開中の妻から指示が飛び、スラミンも敵の方へと動き出した。速さは俺より少し遅いくらいなので、スモールバットたちからすればかなりトロく見えるだろうな。


 先に動き出した俺は、蝙蝠の群れの前に辿り着いた。気配察知でスラミンの位置も把握しているが、あの小さな体でこちらくるにはもう少しかかるだろう。つまりここから数秒間は1人で魔物の相手をしなければならないわけだ。相手は複数体だし、気を抜けばやられてしまうかもしれない。しっかりと警戒しながら戦おう。


 最初に選択する行動。それは――――待ちだ。

 どうせ、速さで劣るこちらから仕掛けてもなかなか攻撃を当てられないだろう。それならあえて攻撃を受けて、敵が逃げる前に反撃する。ダメージをもらうのはリスクある行動だが、先程の一幕で急所さえ避ければ大丈夫だとわかったのでどうにかなるだろう。


 間合いを縮めてきたかと思えば、今度は制止して受けの姿勢。ちぐはぐな行動に相手は困惑したのか、数秒一切攻撃をされない時間があった。そのまま何もしないでいてくれたら、スラミンと合流してこちらの戦力が増えるので有難いのだが、そうもいかない。何だか知らないがとにかく攻撃すればいいだろう、みたいなノリでスモールバット2体がこちらへ飛来。さっきと同じく急所狙いの嚙みつきをしてきた。


 流石に首で受けるわけにはいかない。ダメージの判定とかの細かい設定は調べていないのでわからないが、急所に攻撃をされたら他の部位よりダメージを受けやすいみたいなのはありそうだからね。


 僅かに先に俺の首元へと辿り着いた1匹の顔の前に松明を持った方の手首をねじ込む。大きく開かれた口を塞ぐようにすっぽりと手首がはまった。蝙蝠はその状態でがぶがぶと何度も噛んでくるので少しずつダメージを受けている。だが、これくらいなら100秒受けたって死にはしない。

 続いてもう1匹も牙をむき出しにして迫ってくるが狙いどころが目のようだ。こちらも攻撃されてはいけない部位なので防御するしかない。1匹目への反撃に出るのは我慢して安全を優先しよう。

 相手の通るであろうルート上に、右手に持っている剣の柄をスッと移動させる。全力で急所を狙いにきていた相手は急停止することができず、自ら柄へと激突した。

 

「あっ、のびた」


 頭の打ちどころが悪かったのか、そいつは気を失いユラユラと地面へと落ちていく。これはチャンスだ。俺は無防備に地面に寝転がるそいつを右足で何度も踏みつける。絵面がヤバくて現実でやったら確実に炎上する場面だが、これはゲームなので問題ない。そもそも相手は普通の動物じゃなくて魔物っていう化け物だからね。


 俺の凶行を見た残り4体のスモールバットたちは大慌て。仲間を助け出そうと考えなしにこちらへと突貫してくる。


「水魔法、ウォーターボール!!」


 妻がタイミング良く魔法を発動。拳より大きな水球がこちらへ向かう蝙蝠一団を真正面から迎え撃つ。


「ナイスショット!」

「ありがと」


 2/4の蝙蝠が魔法を避け切れず撃ち落とされた。

 緊急回避して生き延びた残りの個体もかなり移動速度が落ちている。そこへ数秒前に前線に辿り着いていたスラミンが溶解液を飛ばして追い撃ちをかけた。流石に再度回避とはいかなかった。


「がんばったね、スラミン。ほら、よ~しよし」


 6体全てのスモールバットが行動不能となったのを見て、妻はこちらへと駆けてきた。そして俺の少し後ろにいるスラミンを持ち上げると抱きしめてよしよしし始める。


「一応、まだ相手生きてるよ?」

「でも、全員動けないでしょ」

「そうだけど、警戒をするに越したことはないよ」

「はーい。スラミン続きは後でしようね~」


 妻には注意したものの、相手のほとんどはもう死んでいる。生き残っているのは未だに俺の左腕をがぶがぶしている個体のみだ。こいつをやれば戦闘は終了。


「ごめんね。そろそろじゃれ合いは終わりだよ」


 スモールバットがしがみついている左腕を思いっきり、穴内部の土の壁へと叩きつける。衝撃と共にHPが少し減ったのを感じたが、ゲームなので俺に痛みはない。だが、壁と腕に挟まれた小さな蝙蝠はそうもいかず強い痛みを受けたようで耳がキーンとすような悲鳴をあげて絶命した。


「もう終わったから好きなだけスラミンを褒めてあげて。あっ、でもやっぱり鉄鉱石の採掘をしないといけないから、ほどほどにしてね」


 妻とスラミンが戯れている間に、俺はドロップアイテムを回収するとしよう。


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