第98話 穴の中で戦闘
視界を確保しないことには採掘作業ができない。そのため俺たちは一度フェッチネルに戻り、暗闇対策として松明を用意した。再びカッチコチ山に戻ってこれたのは昼過ぎだったが、まだまだ時間はある。今からでも十分に鉄鉱石の採掘は可能だ。
「今度は燃え広がったりしないね」
「気にし過ぎじゃない? 流石にNPCのショップで買ったアイテムなんだし大丈夫だよ」
「それもそうだね。さっきの炎上がまだ頭に残ってたから、つい警戒し過ぎちゃってたみたい」
俺が木片と火魔法で生み出した失敗作とはわけが違う。実際にフェッチネルのNPCたちが採掘時に持っていく松明を店で買ったからね。
工程が間違っていただけでプレイヤーにも作成可能だとは思うが、松明を作るのにそこまでの労力をかけたくない。1本、500Gと今の俺たちなら普通に払える額なので、これからも必要なときは買うことになるだろう。
そんな正規品の松明を片手に持った俺たちはカッチコチ山にいくつもある採掘用の穴の1つに入っている。
灯りを確保しているため、前回と違って妻が恐怖で縮こまることもない。視界も外よりは制限されるものの、全く見えなかった状態よりは何倍もマシだし気配察知と合わせれば奇襲を受けても十分に対処できるだろう。
「なかなか採掘ポイントが見つからないね」
「そうだね。でも、まだまだ奥はあるだろうからもうちょっと探してみよう」
穴に入って5分ほど奥へ進んだものの、未だに採掘スキルが反応して光る場所はない。この系統のスキルで取得できるアイテムのポップ条件や時間はまだはっきりとはわかっていないらしい。ただ、出現可能な場所にランダムにポップするということだけが判明している。
今回の場合、穴1つ1つが別のポップ場所としてそれぞれに決まった数の採掘ポイントが設定されているのか、全ての穴の内部でランダムに採掘ポイントが生まれるのかによって考え方が大分変わる。
前述した通りなら、この穴のどこかに必ずいくつかの採掘ポイントが存在するためこのまま探し続ければいい。
だが、そうじゃないのならこの穴の内部自体に採掘ポイントが湧いていない可能性も出てくる。それを考慮するとある程度散策しても採掘ポイントが見つからない穴には見切りをつけて、別の穴へ移った方がいいだろう。
俺の考えをそのまま妻へと伝えた。話を聞いた妻は少しの間、難しい顔をして固まっていたが30秒ほどして口を開く。
「私にはどっちが正解なのか分からないから……考察はハイトに任せるね」
「うん、そう言うと思ったよ」
感覚派の人間に頭を使って考えろと言っても、上手くいかないだろう。頭を使うのは俺が担当する。たまに情報チェックをし忘れたり、システムを把握できていなかったりすることもあるが、そういうときは妻の感覚に任せてしまえばいいと思う。
「ん? この反応は魔物だ」
でこぼこした地面をしばらく歩いていると、先に複数体の魔物の気配を感じた。ただ、それらは動いておらず、じっとしている。俺たちに気づいて待ち伏せするくらい知能が高い魔物なのだろうか。もしくはこちらから仕掛けない限り敵対しないタイプの魔物なのか。
「まだ姿が見えないけど、どれくらい離れてるの?」
「10mちょっと先だね」
妻から敵との距離を聞かれたので、スキルを頼りに考えて答えた。
「魔法を使うなら、もう少し近づかないとダメだね。流石に目視できない相手に魔法は当てられないから」
「わかった。魔物がもうすぐ見えるってところまで近づいた時点で教えるね」
「ありがと」
手に持っている松明の灯りが届く範囲は精々5mあるかないかだ。その範囲に入った瞬間に妻へ声をかけないといけないので、慎重に進もう。
1m、2m……4mそして敵の姿が灯りの範囲に入ると思われる距離、5m。
「もうすぐだよ!」
「うん――――見えた!!」
妻は相手を目視してすぐに魔法陣を展開する。俺は相手のヘイトを買うため前に出つつ、魔物を鑑定した。
スモールバット
小型の蝙蝠。必ず複数体で行動している。
あまり好戦的ではないものの、音に敏感なため先手を打つのは困難。
相手から仕掛けてこなかったのは戦いを好まないからであって、こちらの存在にはとっくに気づいていたらしい。
これはまずいかもしれない。
俺たちが戦闘態勢に入ったことで相手はこちらの敵意に気づいただろう。だとすれば、すぐに攻撃が――――。
「やっぱりくるよね!」
目視できる範囲だけで小型の真っ黒な蝙蝠が6体。そのうちの4体が一斉に牙をむき出しにしながらこちらへと飛んできている。
相手は小柄。鉄の盾で十分に防御可能だが……今は左腕に松明を持っている。アイテムボックスにしまっている盾を取り出す時間はない。ここは避けるか、体で受けるかだ。
1体目が首筋に噛みつこうと狙ってくる。真っ直ぐに飛んできたので、首までのルート上に松明を差し込み、火で相手の攻撃を阻む。
そこへ2体目が今度は肩へと噛みついてきた。俺の速さでは避けきれず、攻撃を食らった。しかし、劣猿王の皮鎧が優秀だったおかげでほとんどダメージはない。
続けて、3、4体目も同じような攻撃を仕掛けてきたが、鎧に守られている部分に受けることでダメージを最小限に抑えた。
「ふぅ、なんとかなった」
敵はこちらへ有効打を与えられなかったと悟り、一旦距離を取った。
それなら次はこちらから仕掛けさせてもらおう。
背中から頑丈な石の剣を引き抜いた勢いそのままに振り下ろす。
「スラッシュ!!!」
叫び慣れた武技の名と共に、縦の斬撃が魔物に向かって放たれたのだった。
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