第97話 真っ暗闇
俺たちは採掘作業に熱中し、カッチコチ山への道中で光る岩を片っ端から削っていった。その結果、目的地に辿り着いた頃には???の原石が合計13個もアイテムボックスに収まっていた。
「取り過ぎたかな?」
妻が苦笑いしながらそう零す。
「そんなこともないんじゃない? 13個くらいなら、他にも取ってる人がいるって。それに目的地には辿り着いたんだから気にしなくても大丈夫だよ」
本来、1時間ほどで歩ける道のりをその倍の時間をかけて移動したけど、そのくらい気にすることじゃない。別に誰にも迷惑をかけていないからね。
「それもそっか。じゃあ、気にしないでおくね。それで一応、目的地に着いたけど……鉄鉱石ってどこで取れるの?」
「きっと中じゃないかな? だって入り口の周りに採掘ポイントの光はないでしょ?」
現在地はカッチコチ山にいくつかある採掘場へ繋がる穴の1つだ。まだ入り口にいるため奥の様子は拝めないので中の様子はわからないが、おそらく中に鉄鉱石が眠っているはずだ。
「たしかに。なら、早速入ろうよ! まだまだ掘り足りないから」
妻は本気で採掘作業にハマってしまったようだ。伐採と同じく疲れる感覚はあるのだが、こちらの方が楽しい。なので俺も鉄鉱石の採掘を苦とは思わないが、妻のようにもっと掘りたいとまではならない。
個人的には錬金術の少しでも集中が切れると失敗になるあのギリギリの感覚の方が好きだ。最初はただ疲れるだけだったが、慣れてくると癖になる。きっと同じようなプレイヤーは他にもいると思うので、そのうち錬金術廃人なんていうのも現れるかもしれない。
「わかった。前は俺に任せてね。耐久力が高いからもし魔物にいきなり襲われても大丈夫なように」
「うん、後ろをついて行くね」
直径2mほどの穴。鉄鉱石を採掘するために人工的に空けられたものだ。中は真っ暗で何も見えず。なぜか気配察知を使っても外からでは中に魔物がいるかを探ることはできない。よって中の情報なしに穴へと挑む他ない。
まずは1歩。右足から闇へと踏み込む。次いで左足。ついてきた体もカッチコチ山の穴の中へと入った。
「見事に真っ暗だなぁ」
「何も見えないよ。ハイト、ちゃんと近くにいる?」
俺の肩を掴みながら中に入ってきたのに、妻からいるかどうかの確認が入った。
「もちろん。両手で俺の肩を持ってるでしょ?」
「そ、それもそっか。危ないからあんまり急いで進んじゃダメだよ?」
妻の手から細かな振動が伝わってくる。暗闇が怖くて震えているようだ。現実でも寝るときも部屋の豆電球はつけっぱなしだったり、リビングにいるのに隣の部屋の電気もつけっぱだったりするので、暗いのがとても苦手だということは知っていた。だけどゲーム内ならそれも克服できるのではと俺は思っていたのだが、そう簡単にはいかないらしい。
「わかってる。でも、そんなに縮こまらなくても大丈夫だよ。今、灯りをつけるから」
こうなる可能性があると事前にわかっていたため、俺はお手頃サイズの木を伐採して用意しておいた。これにファイヤーボールをぶつければ燃えて明るくなるだろう。あまり火力が強いと木が全て燃えてしまうため加減が重要だ。失敗するわけにはいかないし、集中しないとね。
まずはアイテムボックスから松明に丁度良いサイズの木を取り出す。次に火魔法を発動。目の前に魔法陣が展開されて、ファイヤーボールが現れる。本来なら、前方へ飛んでいくのだが、魔力操作によって無理矢理その場で待機させる。そこに木をゆっくりと近づけて火を少しだけ分ける――――。
「おお、できた!」
無事、木の先だけに火がついた。ただし、火の勢いは止まらずすぐに木全体を包み込もうとする。
これはまずい。
「リーナ、水を用意して!」
「急にどうしたの!? って、目をあけたら明るくなってる!!! いや、それよりも水が欲しいってどういうこと?」
どうやらさっきまで目を閉じていたらしい。明るくなったのにも今気づいたようだし、何が起きているのか全く把握できていないみたいだ。
「松明を作ってみたんだけど、火の勢いが止まらないんだ」
「だから明るくなったんだ……じゃあ、すぐにクリエイトウォーターで水を出すからちょっと待って!」
妻は慌てて魔法陣を展開し、水を生み出す。松明(失敗)はそれに飲み込まれて再び穴の中には闇が訪れた。
「ま、また暗くなっちゃった」
灯りが消えたことで妻がまたビビりモードに入ってしまう。
流石に怖がっている妻にそのまま穴の先へ進ませるわけにもいかない。というか、そもそも俺も気配察知で敵がいるかどうかくらいは分かるが、暗視は持っていないので松明なしではなかなか進みづらい。なので、ここは一旦松明を買いに戻るべきだ。
「このままじゃ進めないし、1回松明を買いにフェッチネルに戻ろうか」
「う、うん! そうしよっ。真っ暗の中を進むのは危ないもん!!」
きた道を戻り、フェッチネルにて松明を複数用意した。それから今度は道中の採掘なし、最短でカッチコチ山まで帰ってきたのだった。
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