第96話 採掘作業
フェッチネルの西門を出ると、そこはこれまでとは違った雰囲気のフィールドだった。事前に調べていた情報通り道はあるものの、舗装などはされていない。今は朝なので問題ないが灯りも設置されておらず、夜にはかなり薄暗くなりそうだ。また植物は一切生えておらず、足元は土色。そして道から少し外れると大小様々な岩がありフィールド全体がゴツゴツした印象を受ける。
「鉱山へ続く道って感じだね~」
「そうだね。いかにもそれっぽい感じでちょっと気分が上がるよ」
互いに感想を言い合いつつも、土の道に従って足を進める。
「あっ、あの岩ちょっと光ってる!」
妻が突然、大声をあげた。
彼女の視線の先には1mくらいの岩があるが、別に光ってはいない。
「え? 光ってるようには見えないよ。俺にはあれと他の岩に違いはないように感じるし」
「……もしかしてハイト、採掘スキル持ってないんじゃない?」
「あー、そうかも。解体に採取、伐採とかそっち系のスキルをけっこう持ってるから取得するの忘れてたよ」
採取とかと同じ枠で取得SPも2だし、取っておくか。
俺は取得可能なスキルリストを呼び出して、お目当てのものを選ぶ。
「よし、採掘スキル取ったよ」
「じゃあ、私がさっき言ってた岩を見てみて?」
言われた通り、先程妻が光っている言っていた岩へと視線を向ける。
「確かに光ってるね」
採取や伐採などで入手可能な設置物が光るのと全く同じだ。
「とりあえず掘ってみる?」
「そうしようか。ところでピッケルって持ってる?」
スキルを取ったからといって素手で採掘なんてできるわけがない。ピッケル等のアイテムを使用するのだが、うっかりしていて何も用意していなかった。
「もちろん! もしかしてハイト忘れちゃったの? それなら貸してあげるよ。私、予備も買ったから2本あるの」
こういうときはいつも妻が何かを忘れることが多い。でも、今日は逆らしい。せっかくスキルを取得したのに採掘できないのは嫌だし、お言葉に甘えることにしよう。
「じゃあ、借りてもいい?」
「はい、どーぞ」
妻はアイテムボックスから2本のピッケルを取り出した。そして片方を俺に差し出す。
「ありがと」
頑丈な石のピッケル
レア度:1 品質:中 耐久値:100/100
金属や鉱石を採掘するために作られた頑丈な石製のピッケル。鉄鉱石までは採掘できるが、黒鉄以上になると採掘できない。
鑑定してみるとアイテムなのに装備品と同じく耐久値が設定されていた。耐久値の確認はこまめに行うことにしよう。借り物だから壊れないようにしないといけないからね。
「ハイト、じゃんけんしよ?」
俺が頑丈な石のピッケルの鑑定結果を見ていると妻がからそんな提案があった。
「どっちが採掘するか決めるの?」
「そういうこと!」
「いいよ」
「「最初はグー。じゃんけん、ぽん!」」
こちらはパーを出した。対して相手は――――。
「やった~。私の勝ち!」
チョキだった。
「いつも通りだね。最早、じゃんけんする意味あるのかな」
なぜかじゃんけんをすると9割近い確率で妻が勝つんだよなぁ。別にこちらが毎回同じ手から出しているとかでもないのに。そもそも他の人とじゃんけんした場合はけっこう勝つことが多いしね。
「それはほらっ、奇跡が起こればハイトも勝てるかもしれないよ」
妻が慰めようと必死にそんなことを言ってくるが、じゃんけんなんかに奇跡を使いたくないよ。その分の運を貯めておいてもっと重要な場面で使わせて欲しい。
「まぁ、負けたんだから素直に引くよ。あと、奇跡は別のときに取っておきたい」
「そっか。じゃあ、私が1番もらっちゃうね」
スキルの効果で光って見える岩に近づく妻。両手で持ったピッケルを大きく振り上げる。
「よいしょー!」
謎の掛け声と共にそれは振り下ろされた。
「流石に1発では取れないか」
ピッケルの一撃により岩が少し削れたように見えるものの、アイテムは姿を現さない。
「伐採のときもそうだったもんね。がんばって取れるまで掘り続けるよ!」
それから妻が何度も何度もピッケルを振るうこと5分。岩の上部が完全に砕かれて、石らしきものが姿を現した。この状態ではまだ取得したことにならないらしくアイテムボックスに入らない。妻は傷つかないように気を使いながら、それを岩から完全に剥がして取り出す。
「取れた!!! ハイト、見てみて」
初採掘で手に入ったアイテムを両手で持って嬉しそうにこちらへと見せてきた。
「見た感じ石だね。何かの原石とかかな。鑑定してもいい?」
「うん、いいよ。私もしよっと」
???の原石
レア度:1 品質:低
岩から取り出された原石。
磨き上げることで本来の姿を現す。
採掘者が未熟だったため品質は低い。
「予想通り原石だったね」
「……そうだね」
何故か急にテンションが低くなった妻。
「どうしたの? 突然、しょんぼりしちゃって」
「だって、採掘者が未熟だって書かれてたから」
そこが引っかかったのか。このゲームはスキルに熟練度が設定されていたりして、プレイヤーの技量を求めてくることが多々ある。もちろんスキルによる補正で最低限の動きは保証されているが、そこに甘えているとなかなか成長できない。こういったアイテムの説明などで熟練度に触れるのは、それに気づかせるための運営なりの優しさな気がする。
「今回が初めてだったんだから仕方ないよ。それに俺がやったって一緒だと思うから、気にしなくていいんじゃない? 次はもっと綺麗に取れるようにがんばれば十分だよ」
「そうかな? じゃあ、今度こそもっといい品質のものが取れるようにがんばるね!」
「うん、その意気だよ! でも、次は俺に譲って欲しいかな」
まだ鉄鉱石が取れるカッチコチ山にまで辿り着いていない。採掘作業に夢中になった俺たちはそんなことも忘れて2時間ほど道中で時間を使ってしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます