第95話 カッチコチ山へ
「昨日は結局時間ギリギリだったね」
「ほんとにね。スラミンが宿を素通りしたことに気づいてなかったら、アウトだったよ」
サクラトレントを討伐し、魔力樹の枝を手に入れた日。俺たちは無事宿を見つけて安全な場所でログアウトすることができた。だが、現実に戻ってから時計を見てみると強制ログアウトの10分前だった。次からはもう少し余裕を持って行動したいものだ。
ちなみに連続ログイン時間ギリギリまでゲーム内にいたということは、近所のスーパーの閉店まであと1時間もなかったということ。なんとしてもパスタの材料を買い揃えなければならない俺は、家とスーパーの間を自転車に乗って全力で往復する羽目になった。必要な物持って帰宅したときには額から汗を流していたが、それでも夕食に出したパスタを妻が笑顔で頬張っているのを見ると疲れは全て吹き飛んだ。
「そうだね。じゃあ、優秀なうちの子にはご褒美あげないとね! スラミンおいで。いい子いい子してあげる」
妻は借りた部屋のベッドでゴロゴロしていたスラミンを捕まえて撫でまわす。ブルブルと震えるスラミンは喜んでいるのか、嫌がっているのか……果たしてどっちなのだろうか。
「ところで今日は何するの?」
思う存分己の従魔を撫でて満足した妻が突然、こちらへ振り向いて聞いてきた。どうやらスケジュールが気になるらしい。
「とりあえず鉄鉱石の採掘に向かうのは決定として、その後どうしよう。他にやることと言えば、イベントポイント稼ぐくらいじゃないかな」
「じゃあ、採掘が終わったら経営地に戻ろうよ。ぶーちゃんとすらっちが寂しくて泣いてるかもしれないから」
「そうだね。俺も自分の従魔にそろそろ会いたいから、鉄鉱石をある程度確保できたら帰るってことで」
マモルとバガードはしっかりしているので、放っておいても問題ないと思う。だが、バク丸は違う。俺が見ていないとわかるとすぐにだらけるので、きっとここ数日はひたすらゴロゴロしていることだろう。このゲームには肥満という状態異常は存在しないので、別にそれでも問題ないのだが……注意せずに育てると碌なスライムにならない気がする。なのでそろそろ一度様子を見に戻りたい。
「よしっ。じゃあ、予定も決まったことだし、早速出発しよう!」
鉄鉱石の採掘場へ向かうため、俺たちは宿を後にした。
「鉄鉱石が取れる場所ってどうやって行くんだっけ?」
「西門から出て道なりに進めばいいみたいだよ」
鉄鉱石が取れると噂のカッチコチ山までの道のりはフェッチネル街道ほど整備されてはいないものの、歩ける程度の道はあるらしい。普段、道のないエルーニ山で生活している俺たちからすれば、それだけでも十分に有難い。
「そうなんだ。ところで西門ってどっち?」
後ろをついてきている妻は、自慢の方向音痴を遺憾なく発揮しているらしい。
「今、歩いている道を真っ直ぐいけばいいよ。でも、はぐれるといけないから前を歩くのはやめてね」
俺たちパーティーがいるのは、フェッチネルの東西南北それぞれの門から続く4つの大通りの中心地だ。ここから行きたい方角に道なりに進めば目的の門へと辿り着く。宿から西門までをもっと早く移動する道もあるとは思うが、まだこの都市に慣れていないため確実なルートを選択した。
「も~、そんなことわざわざ言わなくても大丈夫だよ。私のこと子供だと勘違いでもしてるの?」
頬をぷくーと膨らませる妻。
そういう仕草はとても子供っぽいよね。言ったら怒られるから言わないけど。
「別にそういうわけじゃないよ。でも、もしはぐれちゃったりしたら大変でしょ? だから言っただけ。わかってるなら、気にしなくていいよ」
「そっか。じゃあ、一応気をつけるね」
そこから俺たちは大通り沿いに歩き、西門に到着した。ここにも見張り番がいて、身分証を求められたので素直に従う。もちろん問題はなかったので、俺たちはそのまま新フィールド、カッチコチ山方面へと足を進めるのだった。
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