第90話 街道歩き
1km近い橋を渡り切った俺たちは新しいフィールドの入り口に立っていた。
「なんというか、普通だね」
「たしかに。後ろにある大河と比べると霞むかな」
――――フェッチネル街道。
この新フィールドはファス平原から橋を使用して大河を越えた先にある。地方都市フェッチネルまで真っ直ぐに続いているため、道から逸れなければ迷うことはない。また道自体が石畳を敷き詰めて作られていたり、街灯が立てられていたりして人の痕跡が色濃くあるため魔物はあまり近寄らない。一部例外を除いて。
掲示板にはそう書いてあった。
確かに石畳で整備された道とその両脇に等間隔で並ぶランプは人工物感満載なので魔物は警戒して簡単には近寄らないだろう。
ただ、道から逸れればすぐに森なのであまり気は抜かない方がよさそうだ。
「とりあえずフェッチネルを目指そうか」
「そうだねー。たしか地方都市なんだっけ?」
「らしいよ。俺たちは町規模のファーレンしか知らないからどれくらい広いところなのか気になるね」
「うん! それに規模が大きいから扱ってる食材とかも多そうだし……またお料理のレパートリーが増やせそうで楽しみだな~」
まだ見ぬ地方都市に思いをはせる俺たちは街道を歩いて進む。気配察知にはチラチラと魔物の存在が引っかかるがこちらへ迫ってくる様子はない。掲示板で得た情報の通り、魔物側から襲ってくることはそうそうないのだろう。
「ところで私の杖の素材を落とすイベント限定の魔物って、ここにも現れるんだったよね?」
「そうだよ。たしかサクラトレントだったかな? 木のあるフィールドならどこにでも出るらしいから、ここにもいるはず」
「じゃあ、それっぽい魔物がいたら倒そうよ。私たちの目的は鉄鉱石の採掘だけど、今日中にそこまで達成するのは難しいだろうから。今日の成果はこれって分かりやすいように!」
妻も言う通り、俺たちがファス平原のエリアボスを再度倒してまでこちら方面の開拓を進めている理由は鉄鉱石を採掘するため。
この街道を進んだ先にある地方都市フェッチネル。そこへ一旦入り西門から出てしばらく進んだ先に目的の場所がある。カチコッチ山とかいうふざけた名前の鉱山だ。
ただ、今日中にフェッチネルまでは辿り着けても鉄鉱石採掘までは無理だ。なので妻は自分のメインウェポンの作成素材だけでも成果物として確保したいのだろう。
ここでサクラトレントの捜索及び討伐で時間を食ってしまうと連続ログイン時間が制限ギリギリになりそうなので、ちょっとリスキーではあるが……必要なモノが手に入る場所にいるのに取らないというのは個人的に嫌なので妻の案に賛成だ。
「いいと思うよ。でも、連続ログイン時間の制限に引っかかって強制ログアウトさせられるなんてことにはならないように注意はしないとね」
あとパスタの材料の買い出しに行くからいつも通っているスーパーの閉店時間にも気をつけないと。連続ログイン時間の制限ギリギリまでゲームをしていた場合、ログアウトした後にスーパーまで全力で自転車を漕ぐ羽目になりそうだから、できるだけ早く目的を果たしたい。
「わかった! ならっ、できるだけちゃっちゃと見つけてサクッと倒そう!!」
「おー!!」
というわけで俺は気配察知に引っかかる魔物を確認し始める。目視できない位置にいる魔物はスルーして、視界に入る範囲にいる魔物1体1体がサクラトレントではないかどうかを。
「ちなみにサクラトレントってどんな魔物なの?」
俺がスキルをフル活用していると妻から質問が入った。
「実物は俺も見たことないから正確にはわからないけど、トレントって名前してるくらいだし、他ゲーとかでもよくいる顔のついた木なんだと思う」
「なるほど~。で、サクラって名前にあるから頭みたいな部分に桜の花が咲いてるみたいな?」
「その可能性も高いね」
「でも、それだとちょっと不思議だよね。緑ばっかの森に桜の花が咲いた木が混ざってたら、普通すぐに分かりそうだけど。見える範囲にはそんな木1本もないよ」
確かにその通りだ。
サクラトレントが名前通りのビジュアルをしているのなら、気配察知を使う以前に目視すれば1発で分かるはず。それなのに見える限りではそんな木がないということは、街道沿いにはポップしないのか、もしくは擬態的なスキルを備えているのかだ。
「もしかしたら街道沿いから逸れて少し森に入らないと見つからないのかもしれない。擬態してるっていう線もあるけどね」
「じゃあ、しばらく道沿いに進んで出会わなかったら、森の方に入ってみる?」
「そうしよっか。俺またスキルを使って探すから、リーナとスラミンは目視でサクラトレントを探してみて。意外とそっちの方が早く見つかったりするかもしれないし」
「はーい。スラミン、がんばってハイトより先にサクラトレントを見つけちゃおっ! クランで2人だけの女の力を見せてあげよう!!」
こうして俺たちは地方都市フェッチネルを目指しつつ、サクラトレントを探して街道を進むことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます