第83話 控え目なリーナと緊張したミミちゃん

 桜色のボア皮を30枚納品した後。サクラマスの納品依頼も受けて40尾をマーニャさんへと渡した。こちらも1回10尾なので、4回分クリアしたことになり1600Gとイベントポイントを追加で手に入れた。

 ただ、サクラマスはバガードがそのままエサとして食べることもあるのと、妻に料理してもらう用にいくつか欲しかったのでアイテムボックス内に20尾は残している。


 残りのイベント限定の依頼だが、小梅を納品する方は受けておいた。今は持ち合わせていないが、それをドロップするウメンドラゴラがファス平原の次のフィールドに出るとマーニャさんから聞いたので、今度討伐しに向かおうと思う。


 サクラボアの肉に関してはすぐには決められないので、今日は受けないでおいた。


「もうそろそろ着くんだよね?」

「そうだよ。ほらっ、あそこのレンガ造りのとこ」


 ミミちゃんたちとの約束の時間が迫っていたので、俺たちは冒険者ギルドを出た。そして俺の案内で妻をミミちゃんのお店の前まで連れてきたのである。


「ゴスロリ少女って言ってたからお店も奇抜な感じなのかと思ったけど……普通の防具屋さんって感じなんだね」

「俺も初めてきたときはそう思ったよ。でも、安心していい。中に入るとちゃんとミミちゃんらしさのある商品がたくさんあるから」


 染色された皮の盾とかね。


「へぇ~、それは楽しみ!」


 ミミちゃんのお店について話ながら、店の入り口に近づくと丁度、イッテツさんが扉から出てきた。


「あっ……こんにちは。ハイトさん、リーナさん」

「「こんにちは、イッテツさん」」


 若干の間があった後、挨拶を交わす。


「今日は早速、中に入っちゃいましょうか。毎回、外で立ち話してあの子を待たせるのも可哀想なので」

「そうですね。行こう、リーナ」


 イッテツさんがそのまま扉を開いたまま、俺たちを中へ通す。綺麗に陳列されている鎧や盾を見るのはひとまず後回し。まずはカウンターに立っている店主さんに挨拶しないとね。


「こんにちは、ミミちゃん」

「ハイト、こんにちは」


 今日は前回より多少柔らかい声で挨拶が帰ってきた気がした。ミミちゃんが少しずつ俺に慣れてきたと思うと嬉しい気持ちになる。


「はじめまして。私はハイトの妻で、リーナって言います。これからよろしくねっ!」


 妻が興味の対象にする挨拶にしてはかなり控えめだ。これは俺の事前の注意が効いたと思われる。


「は、じめまして。私は、ミミ……よろしく」


 控え目といえど、俺やイッテツさんと比べると言葉や雰囲気から元気な感じが漏れ出ている。それのせいか、ミミちゃんは俺と初めて会ったときよりも緊張した面持ちで返事をした。


「よし、みんな挨拶したことだし、そろそろ今日の本題に入ろうか」


 これ以上、妻とサシで話をさせるとミミちゃんが辛くなりそうなので話を進めようと思う。


「そうですね。俺が聞いた話だと今回はリーナさんの武器と防具が欲しいとの話でしたけど、合ってますか?」

「はい。私のメインウェポンの杖とサブウェポンの短剣。あとは防具のローブを作って欲しいです」

「なるほど。ちなみにどのくらいのものがいいですか? 現状最強クラスの武器は素材が手元にないので作成できませんが……」


 これに関しては俺が鉄鉱石採掘を後回しにしているからなので、少し申し訳ないな。でも、鉄鉱石が取れるのはウメンドラゴラが出現するフィールドの更に1つ奥らしいからもう少し待っていて欲しい。できれば、イベント期間中に採掘してこようとは思っているから。


「作成できる範囲で1番強いもので大丈夫ですよ」


 鉄鉱石の件は妻も承知しているので、できる範囲でいいと答えた。


「でしたら、短剣の方は頑丈な石製の物にしますね」

「それで大丈夫です」

「あと、杖の方なんですが……実は丁度イベント限定魔物が最高クラスの素材を落とすので、そちらを倒して素材さえ確保してもらえればかなりの良品を作成できると思います」


 へぇ~、そんな魔物がいたのか。今回はまったく下調べしていないので、知らなかった。だが、それを取ってくれば妻のメインウェポンが良い物になるらしいので、そのイベント限定の魔物を倒しに行くのはほぼ確定だね。


「ハイト、いい?」

「もちろん! 帰りにでも一緒にそいつを倒しに行こう」

「ありがとっ!」


「イッテツさん、ちなみにそのイベント限定魔物はどういう奴なんですか? 俺たち今回あえて掲示板とかは覗かずにイベントをこなしているので教えてもらえると助かります」

「縛りプレイ中でしたか。それなら、その魔物と名前と出現場所のみ教えますね」


 イッテツさんの話によると、そのイベント限定の魔物はサクラトレント、ウメトレントというらしい。出現場所は森林のフィールドならどこにでもいるらしいので、俺たちの場合は、ペックの森がいいだろう。経営地とファーレンの中間地点だし、行き慣れたフィールドだからね。


「了解です。じゃあ、そいつを狩って近いうちに素材を持ち込みます」

「お願いします。頑丈な石の短剣は在庫があるので、次に会う際に持参します」


 これで武器の作成依頼は終了と。


「ミミちゃん、俺の方は終わったから、次は防具の依頼を聞いてあげてね」

「うん、わかった」


「…………リーナ、何、欲しい?」


 ミミちゃんはイッテツさんへ返事をした後、ずいぶん間を空けてから妻へと質問をした。


「私はローブを作って欲しいかな」

「素材……ある?」

「もちろん。レッサーコングキングの素材を持ってきたよ」

「それ、1回使ったこと……ある。1週間あれば、ローブ作れるからまたきて…………ハイトと一緒に」

「わかった! じゃあ、これ。素材渡しておくね」

「たしかに」


 妻から防具の素材を受け取ったミミちゃんはそのままカウンターの奥へと消えた。


「全部終わったし、帰ろっか」

「えー、ミミちゃんとまだ全然話してないよ!?」

「仕方ないでしょ? あれでもきっとがんばって話してくれていたんだと思うし、これから時間をかけて仲良くなりなよ」

「うぅ……は~い」

 

 妻がミミちゃんと仲良くなるにはまだ時間がかかりそうだ。


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