第82話 イベントクエスト

「「お久しぶりです。マーニャさん」」


 ガストンさんとの雑談を切り上げた俺たちは、冒険者ギルドのカウンターで書類整理をしているマーニャさんへ声をかけた。聞いた話によると、俺たちがあまりギルドへ顔を出さないので心配していたんだとか。


「ハイトさんにリーナさん!! お久しぶりです…………そのどうして最近、ギルドにこなくなったんですか? 私、おふたりに何かあったんじゃないかって心配したんですよ!? 来訪者の方々は昔から急に現れたり消えたりするから、今回もそうなんじゃないかとか考えたりして――――」


 マーニャさんの口から次々に言葉が発せられる。これまでにないマシンガントークに驚き、何も答えられない。結果、彼女は気が済むまで話続け、5分ほどしてようやく一区切りついた。


「まさかここまで心配をかけていたとは思いませんでした。すみません」


 思った以上に彼女が俺たちの心配をしてくれていたのでとにかく謝罪する。


 これまでのマーニャさんのイメージは、親切丁寧で仕事のできる人って感じだったんだけど……目の前の彼女はそれとは少し違うな。


「ただ、俺たち元々経営地でのスローライフが目的なので、これからも冒険者ギルドにくる頻度はそんなに高くないと思います」


 変に気を遣って、これからはもう少しギルドを利用するようにします。なんて言うと、後々俺たちがしんどくなる。

 ここは正直にこれからもギルドの使用頻度が高くはないと思うということは伝えておかなければ。


「……そうだったんですね。わかりました。そういうことなら、次にギルドへくるまでにそれなりの期間が空いたとしても私は取り乱さないようにします」


 スッといつもの雰囲気に戻るマーニャさん。


「それでは本日はどういったご用件でギルドを訪れたのでしょうか?」


 切り替えがとても早い。

 でも、さっきみたいな感じより、こっちの方が仕事のできるマーニャさんのイメージには合ってるね。

 

「実はファーレンで春祭りがあると聞きまして。それ関連の依頼なんかはないかなーっと」

「なるほど、春祭りに関係する依頼ですね。それでしたら、他の来訪者の方々も探しに来ていたのでリストが作成されています。冒険者ギルドで今受けられるのは4つですね」


 さっそくマーニャさんはその4つの依頼について説明を始めた。


 まず1つ目の依頼はサクラボアの皮を納品する依頼だ。祭り当日に演舞をする者たちの衣装をそれで作成するためにそこそこの数が必要ならしい。

 俺たちは肉を求めてひたすらにサクラボアを倒してきたため、皮なら有り余っている。この依頼はとりあえず受けてよさそうだ。


 2つ目の依頼はサクラボアの肉の納品。こちらは祭り当日に食べるという習慣がファーレンではできているため、できるだけ多くの肉を集めて欲しいということらしい。

 しかし、俺たちが身をもって感じたようにサクラボアの肉はドロップ率が低いため毎年、求められた数を集めることはできていないという。

 ただ、今年は多くの来訪者がファーレンに現れて冒険者となったことで例年よりも魔物素材が集まるようになったので、もしかしたら町の人々全てにサクラボアの肉が行き渡るのではとも噂されている。

 この依頼に関してはすぐに受けることはできないね。だって、俺たちがあれだけがんばってやっと20個手に入った品だ。そのうちいくつ持っていかれるかによっても話は変わるが、受けるにしたって妻とよく話し合ってからにしないと。


 そして3つ目の依頼だが、これは全く聞いたことのない魔物の素材が求められるものだった。話によると納めるのは小梅でそれをドロップするのはウメンドラゴラという魔物らしい。

 小梅は祭壇に置かれるお供え物としてファーレンの領主が求めているようだ。これも毎年のことで、冒険者ギルドから買い取った小梅からより大きく品質の高いものを祭壇へと供えているという。そして見事、お供えされた小梅を取ってきた者には領主から直接感謝の言葉が述べられる。

 なお、お供えに選ばれなかった小梅は領主から領民へのプレゼントということで祭りの際にばら撒かれるらしい。

 領主と口を利く機会があるということはコネを作るチャンスだ。権力者と繋がりたいプレイヤーにはとても重要なイベントだろう。ただ、俺たちはそういったものを求めてはいない。なので依頼を受けたとして別に祭壇にお供えされるような立派なものを探す必要はないね。数を揃えて冒険者ギルドからの依頼さえクリアできればいい。


 最後はうちの経営地にも出現するサクラマスの納品だ。これも魚の名前にサクラとついていて春祭りにぴったりだということでファーレンの様々な商店が冒険者ギルドを通して依頼を出している。

 ただ、今のところ俺たちはクラン経営地以外の場所でサクラマスが取れる場所を知らないが……他のプレイヤーはどこで捕獲しているのだろうか。少し気になる。


「――――今お話したもののうちからどれか受注されますか?」


 一通り説明が終わるとマーニャさんからそう問われた。


「とりあえず桜色のボア皮を今持っているので、納品したいです」


 俺の中ではサクラボアの皮と呼んでいるが、実際のアイテム名は桜色のボア皮なのでマーニャさんとの会話ではそっちを口にする。


「承知しました。こちらの依頼が1口につき桜色のボア皮10個納品が必要となります。問題なければ、カウンターの上にアイテムをお出しください」

「じゃあ、これで」


 納品依頼3回分の素材をカウンターに置くとマーニャさんがカウントを始める。それが終わると依頼完了ということで1800Gとイベントポイントが手に入った。



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