第81話 久しぶりの冒険者ギルド

 妻の装備の更新の話が出てから数日が経過した。今日はゲーム内で5時間後にミミちゃんとイッテツさんに会う約束をしている。妻も連れて行くことになっているので、その際に防具と武器の作成をお願しようと思う。


「ハイト~、今お肉ってどれくらい貯まってる?」

「俺のアイテムボックス内には13個かな」


 まだイベント期間中なので、さっきまで俺たちはイベントポイント稼ぎとサクラボアの肉を求めてファス平原で戦っていた。ミミちゃんたちとの約束までにまだ時間はあるが、遅れるといけないので引き上げて今に至る。


「私の6個と合わせても20もないよ……」

「まぁ、ドロップ率が低いのは仕方ないと割り切った方がいいよ。ここで文句を垂れたところでサクラボアの肉が手に入りづらいことは変わらないんだから」


 そもそもサクラボアの肉が本当においしいのかどうか、まだ分からないしね。だって俺たちはまだサクラボアの肉を口にしていないのだから。

 あくまでもアイテムを鑑定して手に入れた情報からしておいしいのだろうと思い、数を集めているだけだし。


 それでも俺は肉と寿司が大好きだから、残りのイベント期間もサクラボアの肉は死ぬ気で集めるつもりだが。


「そうだけどさぁ……」

「まだイベント期間半分も過ぎてないんだし、これからだって! あっ、そうだ。イベント期間限定の依頼がファーレンでは出てるみたいだから探してみようよ。肉は手に入らないかもしれないけど、他に何かいいものがもらえたりするかもしれないよ」


 ファーレンを訪れるのは久しぶりなので、約束の時間まで少し散策しようと思う。そのついでにファーレンで出されているイベント期間限定の依頼を受けられたらいいなと考えている。


「わかった。いつまでも文句言ってたって仕方ないし、そうしよっか! でも、その依頼ってどこで受けられるの? 私、何にも知らないよ」

「実は俺も知らないんだよね。調べてみてもいいけど、たまには前情報なしでもいいかなって」


 フリフロは掲示板が活発に動いているから、現状判明していることは調べれば大概の内容は知ることができる。そのためいつも掲示板で下調べしてから行動することが多いのだが、今回のイベントではあまり掲示板を頼らずに行動してきた。なぜそうしているのか……正直、特にこれといった理由はない。ただそういう気分だからである。


「私はどっちでもいいから、ハイトが好きなやり方を選びなよ」

「じゃあ、今日は事前情報なし。自分たちの足でイベント限定の依頼を探そう」

「了解っ! じゃあ、最初はどこに行く?」


 やはり依頼を受けるなら、冒険者ギルドだろう。NPCから個人的に依頼が出ることもあるらしいので、全てのイベントクエストがギルドで受けられるとまでは思わないが。


「とりあえずギルドかな」


 ――――久しぶりに冒険者ギルドへ顔を出すと見知ったおっさんから声をかけられた。


「よう、嬢ちゃんたち。久しぶりだな」

「お久しぶりです、ガストンさん」

「前回は経営地まで職員さんたちを護衛して頂きありがとうございました。俺たちだけじゃ、厳しかったので助かりました」

「それはあいつらから仕事として依頼されたからやっただけだ。気にすんな」


「ところでお前ら、全然ギルドに顔を出さねぇよな。マーニャがちょっと心配してたぜ?」

「そうなんですか? 俺たちがギルドにあんまりこないのは最初っからずっとなので、あまり気にしなくてもいいんですけど……」


 冒険者ギルドで依頼を受けてお金を稼ぐっていう普通のプレイヤーがしている流れを俺たちはあまりしないからね。

 お金は基本的に俺が錬金術で生み出したアイテムを生産ギルドへ卸したり、武器の素材となるアイテムをイッテツさんに譲ったりして稼いでいるし。何より今はまだユニークボスを倒した際に手に入ったお金が残っているから。


「そうだよな。俺もあいつにそう言ってやったんだけどよ。あいつが担当してる冒険者の中ではお前たちは割と出世株だから気になっちまうんだろうな」

「えーと、ギルド職員に担当なんてあったんですか?」


 それに冒険者ギルドをそんなに利用していない俺たちが出世株ってどうしてだ?


「正式にそういう制度があるわけじゃない。ただ、お前らみたいな毎回同じ職員から仕事を受けるやつもいるから。そういう冒険者の相手をする職員は○○担当とかって言われる場合があるんだよ」

「へぇ~、そうなんですね。全然知りませんでした」

「私もー」

「そりゃそうだろ。お前ら新顔なんだし」


 確かに。比較的最近、ファーレンの冒険者ギルドに登録した俺たちがここの事情について何でも知っている方が不自然か。


「まぁ、とにかく。久しぶりに顔合わせて、マーニャのやつを安心させてやってくれや」

「わかりました。それじゃあ、一旦失礼します」



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