第77話 低級マジックポーションの素材

 マモルがはしゃぎ過ぎて、新しい魔法に全MPを消費。そのせいで彼はMPがある程度回復するか、日が暮れるまで他所へ行けなくなった。

 今後、遠出した際にこういう状況になると困るので、俺は急遽MP回復ポーションの作成に挑戦することに。


 なお当事者は全力で魔法をぶっ放したことでスッキリしたようで、定位置となっている経営地にある大樹の根元でスヤスヤと昼寝をしている。


「MP回復ポーションのレシピって載ってたっけ?」


 錬金術を始める際に生産ギルドで購入した見習い錬金本をアイテムボックスから取り出してお目当てのアイテム作成レシピが載っていないかと探す。

 けっこう分厚いレシピ本なので全ページをひたすらめくって目的の錬金レシピを探すのはかなり骨が折れる。どうしてこういうのには検索機能とかつけてくれないんだ。


「おっ、あった!」


 30分弱かかってようやくお目当てのレシピを発見。見つけたページを読んだところ、低級マジックポーションというMPを回復させる効果を持つアイテムの作成には水と月光草という素材が必要らしい。

 水はいつも通り湖のものを使うとして、月光草とやらは持ってないね。採取できる場所にも心当たりがないので、掲示板でも覗いて調べてみるか。


 フィールドで手に入るアイテムとその採取場所について書き込まれているスレを見ると、薬草や石など俺も知っているアイテムから朽木や汚泥、火炎草といった見たことのないアイテムの情報まで事細かに記されていた。半数以上が俺の知らないアイテムでとても勉強になる。

 しかし、肝心の月光草についての記載がない。時間をかけて900近い書き込み全てを読み漁ったが採取場所はおろか名前すら見つからなかった。


 どうしようかな……。見習い錬金本に記載のある素材なんだから、今の俺たちでも行けるようなフィールドで採取できるものなんだと思うんだけど。情報が一切ないっていうのはなぁ。

 一応、勘では人気が無く攻略の手があまり入っていない第2フィールドにあると思っている。つまりエルーニ山か穏やかな草原の先のフィールドだ。


 どうしてこの2つのフィールドの人気がないかというと、エルーニ山の方はまずナビゲーションをしてくれる従魔でもいない限り迷っていつまでも山を抜けられないからだ。俺たちはバガードという空飛ぶ道案内がいたため経営地を見つけることができたし、経営地からファーレンまでの最短ルートを開拓し覚えて行き来することができるようになった。

 しかし、その道案内を担うことができる一足烏は遭遇率の低い魔物らしくテイムできているテイマーも少ない。比較的この山で自由に動ける俺たちはエンジョイ勢で先のフィールドにはまだ興味がないため、このフィールドの開拓は進んでいないのである。


 もう一方の穏やか草原の先にあるフィールド、チェンリの沼地の攻略があまり進まない理由は名前からも簡単に想像できる。フィールドのほとんどが沼地で5分も探索すれば、下半身が泥まみれになるからだ。普通のゲームならそんなことは気にせずガンガン攻略することができるが、感覚がリアルなVRMMOだとそれはもう地獄らしい。掲示板もどうしてこんなフィールドを作ったんだと荒れていた記憶がある。

 ちなみに体の半分以上が泥に塗れると状態異常になって移動速度が低下するので、元々汚れることが気にならない者やメンタル的問題に折り合いをつけた者もなかなかエリアボス討伐および新たなフィールドの発見までは至っていないという。


「エルーニ山かチェンリの沼地か…………ここでいつまでも考えてたって答えはでないし、まずは近場からかな」


 とりあえずエルーニ山の散策からしてみよう。

 ここにきてけっこう経つけど、ファーレンと経営地の最短ルートの確保と狩り以外はあまりしていない。これを機に自分の本拠地があるフィールドについていろいろ調べてみよう。目的のアイテムは手に入らなくとも、新たな発見などがあるかもしれない。


 今日の残りログイン時間の使い方を決めた俺は、湖の上で昼ご飯を捕獲しているバガードへ声をかけた。口の中に2、3匹の魚を詰め込んだ従魔から返事の鳴き声は聞こえなかったが、すぐにこちらへ飛んできたので良しとする。


 バガードには道に迷った際の経営地までのナビゲーション役をやってもらうつもりだ。

 あとついでにレベル上げもできたらいいかな。今、うちのパーティーで1番レベル低いからね。新顔のバク丸はスライムでレベルが上がりやすいからすぐにバガードのレベルを抜いてしまった。先輩として負けたくないだろうし、今日で1つでもレベルが上がるといいな。


「バガード、今から山の散策をするよ。俺の採取スキルを使って片っ端からアイテムを入手しようと思う」


 アー。


 賢い従魔はすぐに自分がどういう役割で呼ばれたのか理解したようで了解と返事をした。


「それじゃあ、行こうか」


 アーアー。


 こうしてエルーニ山での月光草探しが始まったのだった。



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