第75話 太陽克服?

 イベント限定の水生魔物、サクラマス。その存在を確認した日、俺とマモルは合わせて50近くを討伐しドロップアイテム化させた。ゲームをするために取っていた時間いっぱいいっぱい狩りをしたためその日はそのままログアウト。


 翌日、仕事が休みだったので俺は朝からフリフロを始めた。

 経営地には相変わらずアネットさんをはじめとする大工さんたちが出入りしており、クランハウスの建設をしていた。最近ではログインした際に進行状況を見るのが日課となっている。今日もいつものように建設風景を覗いてみるとクランハウスの骨組みのようなものが出来上がっていた。素人目でも以前より建設が進んでいることがわかり、なんだかとてもワクワクする。


「みんな、おはよ~」


 カァー。


 ゲーム内では現在10時頃。怠惰なバク丸は鼻ちょうちんを膨らませながら眠っているが、他の従魔はもう起きていた。マモルはサクラマス捕獲にハマったようで、獲物がやってくる川と湖の合流地点周りを泳いで気配察知にかかったやつを片っ端から倒している。バガードは空からその様子を観察しつつドロップアイテムになった魚を1本足で掴んては陸へ上げていた。ときたま自分の口に魚を入れているところがなんとも食いしん坊らしさが出ていていい。

 そして妻は先にログインしており、従魔を連れてどこかへ出かけたみたいだ。アイテムボックスのサクラマスを渡そうと思っていたのだが、それは彼女が戻ってきてからになる。


<骨狼のレベルが1あがりました>


 あっ、マモルのレベルが久しぶりに上がった。ここ最近どれだけ魔物を倒してもなかなか上がらなかったので、とても嬉しいが……あの子はいったいどれだけのサクラマスを犠牲にしたというのだろうか。




マモル(骨狼)

Lv.12

HP:269/350 MP:195/195

力:58

耐:17

魔:30

速:64

運:13

スキル:骨の牙、威嚇、気配察知、嗅覚強化、暗視、採取、潜水

称号:<闇の住人>




 相変わらずのフィジカルお化け具合だ。力と速さがこれほど高い従魔をテイムしているプレイヤーは他にいないのではなかろうか、と自分の力ですらないのだが自惚れたくなる。

 だが、現実とは無情。つい最近、リュウオウというテイマープレイヤーが初回限定盤のランダムレアチケットで手に入れた従魔が第1進化を終えたということで、進化前の最終ステータスを載せてくれていたのだが、力が69もあった。そのため俺と同じようにランダムレアチケットで運良く従魔を手に入れた人たちはマモルクラスの従魔を育てていると思われるため調子になど乗っていられない。俺は最強を目指しているわけではないが、マモル自身は戦いを好み強くなりたいと願っているようなので可能な限りマモルの強化はしてあげたいと思っている。


「おーい、マモル~。一旦、戻ってこーい!」


 マモルの強化。いろいろ方法を模索しているところだが、手っ取り早いのが日照ダメージの減少もしくは無効化だ。今日HPが削られているのだって、おそらくサクラマスから反撃を受けたのではなく日照ダメージのせいだろうからね。これがなくなれば、マモルの被ダメはかなり減らせるのでとても重要である。というか、いい加減に昼間から一緒にお出かけさせて欲しいんだよ。 


「よし。きたね、マモル。今日もたくさんサクラマスを取ってくれてありがとう」


 頭をわしゃわしゃと撫でながら褒めると、マモルは嬉しそうに尻尾を左右に揺らした。


「でも、太陽が出ている時間に影から出たせいでダメージを受けているじゃないか」


 続く言葉を聞いて、叱られたと勘違いしたのだろう。尻尾の動きがピタッと止まり、シュンっとしたに垂れた。


「あぁ、別に怒ったわけじゃないよ。実は最近見つかった魔法でマモルを太陽から守れるものがあったんだ」


 影魔法。現在、わかっているところだと影に潜んだり、伸ばしたりすることができるスキルらしい。

 とあるプレイヤーが発見して情報屋に取得方法を売ったのが3週間前。シャムさんたちのクランがこれまで有料で取り扱っていた情報なのだが、発見したプレイヤーとの契約で決めていた情報の占有期間が過ぎ、両者が情報公開して良いと考えたということで昨日掲示板にて公開されたスキルである。


 取得条件は100時間以上連続で日に当たらず何かしらの影にいること。そして魔力が30を超えていること。マモルはどちらの条件もクリアしている。


 これをマモルが覚えれば、スキルの効果で何かしらの陰を自身の頭上に伸ばして傘でも作れば日照ダメージを無効化できるだろう。

 普通ならスキルの取得条件がわかったところで従魔は自由にスキルを得られない。だが、俺には選択スキルスクロールが1つ残っている。最後の選択スキルスクロールを使ってしまうのはもったいない気がしなくもないが、マモルを昼間でも連れ歩くことができるのなら安いものだ。


「それは影魔法ってスキルなんだけど――――」


 影魔法を覚える理由やメリット。最初に使えるようになる魔法についてなど、詳しくマモルに伝えた。

 そしてアイテムボックスから選択スキルスクロールを取り出した俺はそれをマモルに使用。スキルリストに載っているものの中から影魔法を見つけ出し、選択する。


「いけたかな?」


 その問いかけにマモルはスキルを使用して答えた。

 マモルの影がもぞもぞと動き始めたかと思えば、薄く延ばされていく。そしてマモルを太陽の光から守るべく彼の頭上で黒い傘のような形を取った。


「うまくいったみたいだね」


 ゲームスタート時から悩まされていたマモルが昼間出歩けない問題が解決した瞬間だった。



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