第74話 イベント限定の水生魔物
俺が魚群のいる方向へ泳いでいると、マモルも別方向からきたので合流。こちらと同じく気配察知に異常な数の魚の魔物がかかったので調べにきたらしい。
「マモル、あそこだ!」
魚の姿が僅かに目視できた。このまま突っ込んで戦闘になるとまずいので1度、酸素ゲージの回復を挟む。
マモルの方も準備万端なようなので一緒に魚の群れへと接近する。
サクラマス
桜の咲く時期に川を上る魚の魔物。うまみが強い魚なので、近くに川がある町や村では春になるとこの魔物を狙って盛んに漁が行われる。
鑑定したことでこいつらがどこから現れたのかようやくわかった。湖から経営地外へと続く川だ。そこを遡ってここまできたのだろう。
現実だとサクラマスは銀色の体をしているらしいが、この世界ではイベントで用意された魔物ということもあってか薄い桜色をしている。観賞魚としてもよさそうな外見だ。
この内容を見てふと思ったのだが、もしかして川を遡上する魚の魔物はイベント限定以外のやつも今後季節ごとに現れるのではないだろうか。そうなってくれれば、うちで取れる魚種が増えるので大変有難い。
「マモル、あいつらは美味らしい。バガードに手土産として持ち帰るためにも絶対に倒すよ」
もちろん妻にもね。
返事の代わりにマモルは動き始める。100を超えるサクラマスの中から標的を1匹に絞り真っ直ぐに泳ぐ。ボアの突進の如き勢いを持った相棒はそのまま狙った魔物へと食らいついた。
「おぉ~、ナイス!」
一撃で標的を仕留めたマモルはこちらへと戻ってきてドロップアイテムとなったサクラマスを俺に差し出す。そして自身は新たな獲物を定めて泳ぎ始めた。
サクラマス
レア度:2 品質:低
桜色の身は生でも焼いても美味しく食べられる。産卵前の個体の場合、非常に美味な卵を宿しているがこちらは数を確保するのが難しいため高値で取引される。またとある地方ではこの魚の皮をカリッカリに焼いたものが郷土料理のひとつとされている。
マモルの持ってきたサクラマスまた鑑定してみた。魚系は自身がそのままドロップアイテムになる場合が多いが、魔物の状態とドロップアイテムの状態では説明が変わるみたいなのでおもしろい。
その説明によるとサクラマスには当たりと外れがあるらしい。外れでも身自体の味は変わらないからおいしいのだろうけど、それ以上に美味と書かれている卵が気になり過ぎる。これは乱獲してなんとしても卵持ちを手に入れなければ。
そんなことを考えている間にもマモルは次から次へとサクラマスを狩っていく。既に俺の周りに運ばれてきたサクラマスは5匹を超えている。流石に戦闘や狩りが大好きなマモルでも全てを狩り切ることはできないだろうが、このままちんたらしていたら捕獲量で差を更につけられる。それは主人としては少し情けないような気がするので、俺もがんばって狩っていこうと思う。
「とりあえず、近い奴からいこう」
湖面に浮かび上がり、酸素ゲージがMAXなことを確認した俺は1番近いサクラマスの気配に向かって全力で泳ぐ。背中からざっくりと一撃で倒すイメージをしながら獲物へと接近を試みた…………が、距離がなかなか縮まらない。どうやらサクラマスは思った以上に速さがあるみたいだ。マモルが楽勝で相手を捉えているのは彼の自慢の四足が生み出すパーティー1の速さがあるからだったようだ。
速さで負けている以上、むやみやたらに追いかけたところで意味はない。どうにかサクラマスを捉える方法を考えよう。
まず最初に思いついたのが、適当な場所でプカプカと浮いて近づいてきた奴を剣で斬る方法。これだけ数がいるなら時間はかかるが確実数匹仕留めることができるだろう。ただ、俺はたくさんサクラマスを取りたいのでできれば他の策を考えたい。
「あっ、スラッシュがあった」
良案を思いついたというより、いつも通りやればいいだけだった。
これは常日頃スラッシュにお世話になっている俺の勘なのだが、あの武技は全ての要素において力のステータスを参照していると思われる。なぜなら初期の頃より今の方が威力も速さもある斬撃が飛ばせているからだ。俺はこれまでのレベルアップで速さはそんなに上がっていないにも関わらず、斬撃の速度が上昇しているのはそういうことだからだろう。
「試してみるか……スラッシュ!!」
背中の剣を引き抜き、そのままの流れで縦に剣を振り下ろす。生み出された斬撃は真っ直ぐに狙ったサクラマスへと進む。
「よし!」
見事に斬撃はサクラマスに直撃し、仕留めるに至った。
スラッシュによる狩り方法が確立されたことで俺は20秒もしないうちに1匹のサクラマスを手に入れられるようになった。これでマモルに勝てるとは思わないが、捕獲量の差が悲惨なことになるのは避けられそうだ。
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