第67話 2体目のスライム

「そこの草の陰に少し小さめの個体がいるよ」


 気配察知に早速、スライムが引っかかる。

 報告を聞いた妻は、ギラリと目を光らせてそちらへ全力疾走。背の低い雑草の中からスライムを見つけ出す。そしてアイテムボックスから何やら見たことのない料理を取り出した。


「見つけた……へへへ、スライムちゃんお食べ?」


 変態おじさん染みたセリフを吐く妻を見て、俺は思わずため息をつく。これはかなりスライムに惚れこんでいるようだ。

 俺でもあんな迫り方されたことないよ?


「「あっ」」


 差し出された料理に見向きもせず、スライムはどこからへ跳ねて行ってしまう。


「く、くやしい……」

「どんまい。また次がんばりなよ」

「そうだね。まだ1回失敗しただけだもん。諦めるには早いよ!」


 というわけで、引き続き俺は気配察知で魔物を探す。


<気配察知の熟練度が規定値に達しました。自身の気配察知より熟練度が低い気配遮断を無効化できるようになりました>


「おっ、やっと上がったんだ」


 まさかのタイミングで気配察知の熟練度アップのアナウンスが流れる。完全に不意を突かれたので、思わず声に出して反応してしまった。


「ん? 何が上がったの?」

「気配察知の熟練度だよ」

「お~、おめでとう!」

「ありがとう! 正直、かなり嬉しいよ」

「ちょっと前に気配察知だけ熟練度がなかなか上がらないって悩んでたもんね」


 妻の言う通り、最近の俺は気配察知の熟練度がなかなか上がらないことを地味に気にしていた。

 なぜなら、俺が使う頻度が高いスキルである気配察知、剣術(初級)のうち剣術(初級)の方はけっこう前に熟練度が上がったとアナウンスされたし、そこまで使っていないテイムと火魔法にまで熟練度アップで先を越されてしまったからである。

 正直、気配察知を使う自身のセンスが絶望的にないとかそういった理由があるのではないかと勘ぐってしまったくらいだ。


「うん。今日でその悩みとはおさらばできるよ」

「私もハイトに負けないようにスキルの熟練度磨いていかないとなぁ」

「そういえば水魔法と植物魔法の熟練度が上がったって最初の方に言われて以降、そういう話を聞いてないけど……」


 これだけ遊んでいれば、他にも1つや2つくらいは熟練度が上がったスキルがあると思うんだけど。


「あとはテイムくらいしかないんだよね……火力が高いから闇魔法をけっこう使ってるのに上がってくれないし」


 俺が熟練度の悩みから解放されたと思ったら、次は妻がそれに囚われてしまったようだ。


「まぁ、でもテイムの熟練度が上がってるならスライムはちゃんとテイムできるし……そんなに気にしない方がいいよ。おっ、丁度あっちの方に気配がある」

「え、ほんと!? 今度こそテイムしてくる!!」


 スライムの位置を教えた瞬間、妻はそちらへ飛んでいった。彼女のスライム愛にはスキルの熟練度が上がらないという悩み程度では太刀打ちできないらしい。まぁ、その方がいいね。変に悩みまくって病んじゃったりしたら嫌だし。妻には笑顔が似合うから。


「どう、テイムできた?」


 ゆっくりと歩いて妻の方へ近づく。


「じゃじゃーん! 大・成・功!!!」


 嬉しそうな顔をした妻がこちらへ振り返った。肩には通常色のスライムが乗っている。


「流石、リーナ。自称スライムテイマーの名は伊達じゃないね」

「そうでしょそうでしょ。もっと讃えてくれていいよ」


 かなりご機嫌モードだな。

 でも、これだけ新スライムにデレデレしてすらっちはヤキモチ焼かないのかな?

 チラッとすらっちへ視線を向けると互いに目が合った。うん、これは嫉妬とかはしてなさそうだね。どちらかというとお母さんが娘とその友達が遊んでいるのを見守るような感じがする。


「あっ、そうだ。急に真面目な話になるけど、その子のステータスってすらっちの初期ステと同じだった?」


 実は従魔について1つ気になっていることがある。それに初期ステータスが関係しているのだが、テイム枠に制限がある以上、同じ魔物を2体以上テイムするプレイヤーはとても少ない。なので、妻から情報を得ておきたい。


「え~と、たぶん? 流石に細かいところまでは覚えてないけどステータス自体に差はなさそうだよ」


 妻の答えを聞いた俺は少しほっとした。理由は、仮に個体ごとにステータスのバラツキがあった場合、従魔ガチャ的な感じでテイムした従魔の初期ステが悪いとすぐに関係を解消して新たな魔物をテイムする者が出てくる可能性が高いからだ。

 画面の中だけでするゲームならそういった行為は何も問題ないかもしれないが、感覚がほぼ現実と同じこの世界でそういう行為が蔓延るのは想像するだけでも気分が悪くなる。まぁ、現実でも殺処分される動物なんていくらでもいるし、ゲーム内でも魔物を普段から倒しているわけだから、そこにだけ神経質になるのはおかしいと言われればそれまでだが。

 とにかくだ、そういった行為をする必要がない設定にしてくれているのは非常に有難い。


「それならいいんだ。教えてくれてありがとう」

「あっ、うん。このくらい別にいいけど」


 妻はどうしてそんなことを聞かれたのか気づいていない様子。今、俺が考えていたことを伝えたら、スライムをテイムして気分が上がっている状態に水を差すことになる。だから今日これ以上話題にするつもりはない。


「よしっ! リーナも新しいスライムをテイムしたことだし、そろそろ俺がテイムする用の子も探そうかな」


 この後、俺はスライムのテイムを1発で終わらせて経営地へと帰ったのだった。


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