第65話 初進化したのは……
「ハイト~、近いうちに公式イベントがあるみたいだよ!」
新たなスキル、魔力操作を取得してから数日が過ぎ、クランハウスの建設がかなり進んできた頃。妻に2時間ほど遅れてゲームにログインするとそんなことを言われた。
「そうなんだ! ついにフリフロ初イベが開催されるのか~。どんな内容?」
「知りたい?」
「うん、知りたい」
「え~、どうしよっかな~」
「お願い!」
妻はもったいぶって中々内容を教えてくれない。しかし、顔に聞いて欲しいと書いてあるので、聞かせて欲しいの一点張りで攻める。
「そんなに聞きたいなら仕方ないな~。えっとね、今回のイベントは――――」
妻が語ったイベントの概要をまとめてみると、こんな感じになった。
現在は3月末でイベントがあるのが4月の頭から2週間。イベント期間限定で全フィールドに出現する桜や梅にまつわる魔物を狩るとイベントポイントが貯まっていく。メインが生産職のプレイヤーでもイベントポイントがしっかりと稼げるようにイベント限定の魔物から手に入る素材で武器やアイテムを作成してもイベントポイントが手に入るらしい。そしてイベント終了後、手に入ったイベントポイントを景品と交換できるシステムになっているとのことだ。
「ストーリー性があるイベントとかではないのかな?」
「全くないわけじゃないみたいだけど、薄そうではあるよね。私もそこが気になって掲示板覗いたりしてみたんだ。そしたらフリフロの再販日が決まって第2陣の参戦が確定したから、本格的にストーリー性の強いイベントはその後からくるんじゃないかって」
「なるほどね。丁度、第2陣のプレイヤーがフリフロの世界に慣れてきた頃、夏の入り口だし……夏イベに力を入れるつもりかもしれないね」
俺の予想では、夏イベは祭りか海とみた。海イベなら、ほぼ確定で水着スキン的なものが出るだろう。種類が多いと妻が喜びそうなのでそうあることを願う。あと、従魔もつけられる貝殻の装飾品なんかも出てくれるとマモルたちにプレゼントできるので有難い。
「確かに、言われてみれば2回目のイベントは時期的に夏だね。私、季節で1番夏が好きだし楽しみだなぁ。もちろん初イベントの方もがんばるよ!」
「うん、どっちもほどほどにがんばって楽しもう」
「そうだね、無理なくいこう! で、実はハイトにはもう1つ聞いてもらいたい話があるんだ」
「えっ、イベントのこと以外にも何かあったの?」
楽し気にイベントの説明をしてくれたから、この話を聞いて欲しかったんだなと思っていたけど違うみたいだ。
「実はね~……すらっちが進化しました!!」
な、なにぃ!?
進化だと…………。
「うんうん、いい顔で驚いてくれたね! やっぱりハイトのそういう反応好きだなあ~」
そりゃあ、驚きが顔にも出るよ。
ロボットの改造と魔物の進化は男のロマンだもん。それを成し遂げたと言われたら、驚きを自分の中に留めるのは無理だって!
「でも、まさか先を越されるとは……」
一応、メイン、サブ含めてレベル的には妻より俺の方が高い。なので、従魔の進化もこちらが先に果たすものだと思っていた。負けたような気がして少し悔しい。
「いいでしょ~。ハイトも新すらっちの姿を見たい?」
「もちろん! もったいぶらないで早く見せて!!」
「わかった! わかったからちょっと落ち着いて。ほら、おいですらっち」
俺が進化したすらっち見たさに妻へ詰め寄ると、すぐにすらっちを呼んでくれた。
「おぉ~、ちょっと黄緑色っぽくなった?」
すらっちは相変わらず、ぷよんぷよんの球体のままだった。しかし、以前は水色だった体が黄緑色に変色していた。まるで彼の好物のポーションのように。
「鑑定してみてよ。どうしてこんな色になったかわかるから!」
妻に言われるがまま、すらっちへ鑑定をかける。
ヒールスライム
回復薬漬けになったスライムが進化した姿。この魔物の一部を取り込むと回復効果を得られる。体色は通常の水色ではなくポーションの色である黄緑をしている。
「説明が薬物中毒みたいな書かれ方してるんだけど……」
絶対にもっとマシな表現があったと思う。
「ねー。私の大切なすらっちを変な表現の仕方しないで欲しいよ」
妻もこの説明にはご立腹だったようだ。
「まぁ、このゲームの魔物の説明ってわりと適当なの多いし、いちいち気にしてられないよ」
「それもそっか。今はすらっちが進化して気分がいいし、ヒールスライムの説明のことは忘れることにするね」
「うん、それがいい。ところでヒールスライムって説明文的に回復役になるんだよね?」
「そうだよ。でも、代わりに溶解液を使えなくなっちゃったけど」
「えっ、それってかなり痛くない? 溶解液ってすらっちの主な攻撃手段だし」
「そうだね。もうすらっちにはこれまで通りの役割はできなさそう。ただ、ヒーラーとして新しい役目を果たしてもらえばいいかなーって。詳しくはステータスを見せた方が早そうだし、はい!」
どうやら妻はすらっちの戦闘スタイルが大きく変わることを悲観していないようだ。
「ありがと」
すらっちのステータスがこちらへ向けられたので、俺も確認することにした。
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