第62話 ファーレンの野菜と果物

 おいしいポーション作りの素材。それから妻が料理に使う食材を求めて、俺たちはファーレンを訪れていた。


「果物ってどの辺で売ってるの?」


 俺は食材を売っている店をあまり知らない。

 シチューを作ってくれた際、妻は食材を買い集めたはずなので案内してもらうつもりだ。


「えーとねぇ、いつもフライドラビットを買ってる屋台があるでしょ? あの通りに八百屋さんとかお魚屋さん、お肉屋さんがあるよ」


 そのラインナップだと果物が売っているのは八百屋かな?

 ついでに野菜も何種類か、買っていろいろな味を作ってみよう。


「肉屋さんとかもあるんだね。売ってるのは兎肉?」

「そうだよ~。あとはボア肉も」

「へえ、いいね。そういえばリーナ、ボア肉食べたいって言ってなかった? 俺たち結構な数のボア系と戦ってきたけどドロップしてないし、買ってもいいんじゃない?」


 従魔にした種族の肉は食べられないという人もいるかもしれないが、俺たちはその辺り割り切っているので問題ない。


「確かにすっごく食べたいけど、いいの。なんとなく初ボア肉は自分たちで倒して手に入れたドロップアイテムがいいな~って」

「そっか。じゃあ、今度ボア狩りしてくるよ。マモルとバガードと一緒ならサクサクやれるだろうし」

「うん、楽しみにしてるね!」


 話をしているうちに、妻が以前野菜を買い揃えたという八百屋に着いた。


「売ってるのはにんじん、玉ねぎ、じゃがいも。あとは豆か。アップルンみたいに全部名前はいじられてるんだろうけど、見た目はそのまんまって感じだね」


 現実で手に入るものよりずいぶんと種類が少ない。


「もうちょっと種類があれば、嬉しいのになぁ。別の町に行けば、別の種類が売ってたりするらしいんだけど、ファーレンではこの4種だけみたい」


 食材とはいえ、ゲームだから序盤の町で全てを揃えられるようにはなっていないということか。

 料理人の職を選んだプレイヤーたちにも先に進もうとしてもらえるように、そういう感じにしたっていうのもありそうだ。この世界がどのくらい広いのか俺は知らないが、最初の町にずっと留まり続けるのは少しもったいないだろうし。運営的には好きに遊ぶのが1番だけど、いろいろある世界だからちょっとは見て回って欲しいみたいな。


「じゃあ、俺たちも他の町へ辿り着かないとね」


 俺たちが次に行けるのはファス平原から次のフィールドまでの間にあるらしい村かな。そこでどんな食材が手に入るのかわからないが楽しみだ。


「そうだね。がんばって他の食材も手に入れよう!」


 妻はどの野菜を使ってどんな料理を作るか、食材とにらめっこしながら考え始めた。俺はその隣でポーションに使う果物を物色し始める。


 まず売られている果物は3種。アップルンと梨っぽい果物。それからクルミっぽいものだ。ちなみにアップルンはレッサーコングがドロップする青い物ではなく、しっかりと熟した赤い実なので、食べられるのだろう。

 未知の果物もあるので一応、鑑定しておこうか。




アップルン

レア度:1 品質:中

赤く熟したアップルン。

しつこくない甘味が売り。


ラニットペアー

レア度:1 品質:中

ラニット地方原産ペアー。

少しの酸味とみずみずしさが人によっては刺さる。好き嫌いが分かれる果実。


クルーミー

レア度:1 品質:中

イルリスの体内で熟成された結果、とてもクリーミーな味わいになった固形物。甘みが強いが物によっては苦味のあるものも存在する。外見ではその外れの品を見分けることはできない。




 これクルーミーって、クルミと見せかけてイルリスっていう魔物の糞じゃないか?

 だって体内で熟成って書いてあるし。どこから出てきたのか書いていないが、出口なんて1つしかないじゃないか。味自体は非常に気になる説明がされているが……糞だと悟ってしまった以上、手に取るのは勇気がいる。これは一旦、保留だ。


 ラニットペアーは、う~ん。酸味とみずみずしさではポーションの苦味を消せるとは思えないんだよね。

 鑑定結果ではやっぱりアップルンが安パイに見えるな。


 でも、一応ほかの2種類も少しずつ買っておくか。クルーミーはできれば使いたくないので、アップルンポーションが美味しくできてくれることを願うばかりだ。

 野菜の方は妻が買ったものをちょこっと分けてもらおう。


「ハイトも買い物終わった?」


 俺が八百屋の店主にお金を渡して果物を受け取ったところで妻から声がかかる。


「うん、終わったよ」

「私も。帰ったら早速お料理するね」


 歩きながら買った野菜を見せてもらう。にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、豆。俺と同じで迷った挙句、全種類に手を出したらしい。

 2人して結局、全て買ってしまったね。と互いに笑いながら帰路についた。


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