第61話 魔核について

 ビッグスライムの討伐を終えた俺たちは、次のフィールドへと足を踏み入れることなく経営地へと帰還する。

 流石に1夜で2つのフィールドを攻略するのは無理がある。それに妻から不味くないポーションを開発して欲しいとも頼まれているしね。


「ただいま~」


 湖畔に辿り着くと、妻はそう言いながら魔物の発生しないエリアでごろんと寝転ぶ。


「今回はちょっと疲れたね」


 その隣にゆっくりと腰を下ろす。


「うん。同じエリアボスでもレッサーコングキング戦とは大違い。あっ、でも怨嗟の大将兎のとき方がもっと疲れたかも! ぶーちゃんおいで」


 妻は自身の従魔を隣に呼び寄せるとお腹の毛を触り始める。俺もどさくさに紛れて撫でているが、ぶーちゃんは気にしていない様子だ。


「ユニークボスと比べちゃだめだよ」

「それもそっか~。そういえば怨嗟の大将兎以来だよね、魔核が取れたのって」

「そうだね。レア度は高いから良いドロップアイテムなんだろうけど、用途がわからないから困るよ」


 怨嗟の大将兎を倒した際にも、怨嗟の魔核なるレア度:5の序盤で絶対に手にしてはいけないレベルのアイテムを手に入れた。だが、使用用途が全くわかっていない現状、アイテムボックスの肥やしでしかない。

 一応、掲示板に情報がないか一通りそれっぽいスレは覗いてみたけど、全て空振り。あとは情報屋のシャムさんを頼るくらいしか思いつかない。


「だったら、アネットさんに聞いてみる? 元々、王都で魔法使いとして働いてたみたいだし、何か知ってるかもしれないよ」


 その手があったか。ついつい掲示板や情報屋などプレイヤーサイドで情報を集めようとしていたが、NPCに聞くのもありだね。この世界にきたばかりの俺たちプレイヤーより、NPCの方がこのフリフロついて詳しい可能性は高い。

 俺はついついこれまでにもあった一般的なゲームのような感じで調べようとしてしまうが、妻はVRMMOに合った考え方がすでにできるようになったらしい。環境に適応するのが早くて羨ましい。


「いいね。完全に夜も明けたし、そろそろアネットさんたちもくるだろうから」


 それから1時間ほど従魔たちと戯れているとアネットさん率いる大工さんたちが湖畔へと到着した。もう何度もここを訪れているからか、慣れた様子で一か所に荷物を集めて伐採用の斧を取り出し始めた。


「おはようございます」

「おはようございまーす!」

「おはよう。2人とも今日はきてたのね。伐採作業は今日の昼くらいまでで終わりそうだから、それ以降はクランハウスの建設に移ることになるわ」

「了解です。よろしくお願いします」


 ついにクランハウス建設に取りかかるのか。今から完成が楽しみだ。

 でも、伐採作業が終わるということはバガードの案内役も今日で終了ということだ。そうなると報酬の妻の手料理を与えなければならない。疲れて座り込んでいるところ悪いが、お願いする。もしきつそうなったら、バガードに謝って別日にしてもらおう。


「リーナ、以前頼んだバガードへ手料理を作るって話、今日お願いできる?」

「うん! 任せて!!」


 予想外のとても元気な返事が聞こえた。


「俺から頼んだのに、こんなの言うのもどうかと思うけど……本当に大丈夫? 疲れてるでしょ」

「それはそうだけど、お料理はすっごい楽しいから! 疲れよりも作りたいって気持ちの方が勝っちゃうよ」


 笑顔でそう答える妻。

 見た感じ空元気ってわけでもなさそうだし、これなら本当にお願いしても大丈夫かな。


「じゃあ、お願いするよ」

「この前よりもっと美味しいお料理できるようにがんばるね!」

「うん、楽しみにしてる」


 俺と妻がそうこう話しているうちに、アネットさんたちはペックの森へと出発しようとしていた。


「あっ、アネットさんちょっと待ってください!!」


 まだ聞きたいことがあったので、急いで声をかける。


「あら、坊や。どうしたの?」


 アネットさんは真紅の髪を風になびかせながら、こちらへ振り返る。


「実は教えて欲しいことがあって」

「教えて欲しいこと?」

「はい。魔物を討伐した際に時々手に入る魔核って何に使うものなんですか?」


 俺の質問内容が予想していたものと全く違ったのか、キョトンとした表情を見せる。


「……急に何を聞かれるのかと思ったら、そんなことだったの? 魔核の使い道はね、いくつかあるの。例えば――――」


 アネットさんの話によると、魔核は武器の素材や魔物の進化素材などになるらしい。それから高値で売れるので金欠対策にもなると。

 ユニーク個体の魔核も同じなのかと聞いてみると、たぶん同じだと思うと答えてくれた。たぶんとつけたのはアネットさんがユニークモンスターと出会ったことがなく話しでしか聞いたことがないかららしい。


「なるほど。急に呼び止めたのに、教えてくれてありがとうございます」

「いいえ、気にしないで。その代わり、今度ゆっくりあなたたちについても教えて頂戴ね」

「俺たちのこと、ですか? ええ、もちろんいいですよ!」

「ありがと。それじゃあ、今度こそ伐採に行ってくるわね」

「はい、いってらっしゃい!」


 よし、聞きたいことも教えてもらえた。あとはおいしいポーションを作るだけだ。とりあえず素材探しにファーレンに向かおう。



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